晴崎向日葵は能力者!

ネオローレ

第1話

私にはある能力がある。

といっても人に自慢できる類のものじゃない。


「じゃあ行ってきまーす!」


朝日の眩しさに目を細めながら私は傘を差した。

すぐに傘に勢い良く雨が打ち付けた。




私の周りはどんなに空が晴れ渡っていようとも、常に雨が降る。

晴崎向日葵という晴れの化身みたいな名前なのに雨が降る。

なぜ降るのかはわからない。物心ついた時から雨は私の周りを囲っていたから。


「おはようございます!」

「おお、おはよう。ひまちゃん」


地域の人たちにとって私は超有名人だ。

まあこれほど目立って雨を降らせてるからしょうがない。TVにも出たことがある。


「今日も相変わらず降ってるねぇ」

「いやー今日は割と雨が強いんですよ。今日は学校が午前で終わりだからですね」

「あら。良いじゃない」


地域の人は優しい。

こんな関わりたくない能力なのに良くここまで話しかけてくれるものだ。


「それじゃあさようなら!」


降りしきる雨を携えながら学校へ急いだ。



校舎の入り口。一歩屋根の下へ入れば、嘘みたいに雨が止む。 ここは、私が「普通の女の子」として息をつける唯一の場所。

体育館で、バレーボールの授業が始まる。 私はこの場所が好きだ。外体育には出られないけれど、その分、屋内競技なら誰にも負けない自信がある。

キュッ、とフロアを噛むシューズの音。 高く跳び、誰よりも高い位置からボールを叩きつける。 その瞬間、私は雨に守られるだけの存在ではなく、自分の意志で光を掴みに行く存在になれる気がするのだ。

ふと、休憩中に窓の外を見た。 校庭の片隅、誰もいない地面を屋根から伝った私の「雨」が激しく叩いている。


かつて、私は自分が大嫌いだった。無理もない。

外に出るには毎回傘を差さなければならないのはもちろん。小学校までの友人関係は悲惨だった。遊びには誘われず、普通に明るく過ごしていたのにいじめられた。その影響で中学は遠いところの私立に行った。


「なんで私だけ、ずっと濡れてなきゃいけないの」


小学生時、限界を迎えて私は柄にもなく縁側で泣きじゃくっていた。

両親は普段全く見せない私の姿にまごついていただけだった。

その時、おばあちゃんがゆっくりと私の横に座った。

少しの沈黙を置いて口を開いた。


「おばあちゃん思うの」


庭の向日葵を指差して言ったのだ。


「向日葵はいいねぇ。あなたが無事に生きているだけで、お天道様が感動して毎日泣いているんだよ」


節くれだった温かい手が、私の濡れた頬を撫でた記憶が蘇る。


「あなたは世界で一番、愛されている向日葵なんだから。しっかり前を向いて咲きさい」


もう少し年を重ねていたら、何を言っているの?と残酷に一蹴していたことだろう。

しかし、その子供だましの言葉が、今の私を支えている。

「呪い」を「愛」だと言い切ってくれたおばあちゃんの優しい嘘が、私の背筋を伸ばしてくれた。

放課後。 昇降口でまた、少し壊れかけの傘を手に取る。

ドアを開ければ、そこには私を待っていた雨がざあざあと私に語りかけてくる。


今日はもう家に帰るの?


私にはそう雨から言われてる気がしてならないのだ。

きれいな青空と太陽が雨粒で反射する中、私はちいさな虹を連れながら傘をさして出かけて行った。


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