そこらの水たまりに主虹をかけて
今田美翔
そこらの水たまりに主虹をかけて
その日はお気に入りのブランコにすでに先約があった。
梅雨特有の陰雨がふるせいで、肌、心も何とも言えない気持ちになる。
ブランコの片方には鞄が一つあり、もう一方はきこきこと揺れている。
「こんな雨の日にブランコを漕ぎに来るなんて、変な人ですね。」
ブランコをそっと眺めていると後ろから元気な声をかけられた。
「君に、言われたくないけど」
「それもそうですね」
彼女は鞄を公園の片隅にある木の根元に置き、再びブランコを漕ぎ始める。
「えっと、誰か先輩、私とゲームをしませんか。」
「俺は……まあ、誰か先輩でいいや」
俺は名乗りを上げるのをやめて、彼女の隣のブランコに静かに座った。
「今時はプライバシーが大事ですからね。SNSですぐに特定できちゃいますしね。」
「それを考慮したわけじゃないが、まあ、そういうことでいいや。」
降っていた雨は弱まり、雲も少しずつ掃けていく。
「で、ゲームって何。」
「ブランコから靴を飛ばして、あの水たまりに向かって投げ、沈没したほうが負けです。」
彼女の目線の先には大きな水たまりがあり、ゲームをするにはちょうどいい距離感だった。
「それは自己申告でやるのか?」
「それはもちろん自己申告です。それに靴が濡れたらいやそうな顔になりますから、わかるでしょ。」
「そういうことね」
「それでは私の先行で行かせていただきます。」
そういうと彼女は大きくこいて勢いをつけたまま、水たまりにきれいに足から着地した。
まき散らした水しぶきは一発で俺の靴をびしゃびしゃにした。
「これでわたしの勝ちですね」
彼女のすがすがしいほどの笑顔に俺は笑うしかなかった。
まさか、このゲームが先行有利とは驚かされた。
靴はちゃんと飛ばしているし、自分事投げるなんて発想はルール違反じゃない。
これは…
見事に一本とられた。
雨上がりの水たまりに主虹がはっきりと映っていたのを
数日たった今でも俺は鮮明に記憶している。
彼女の名前も顔もほとんど覚えていないが。
そこらの水たまりに主虹をかけて 今田美翔 @imadamishou7
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