3.現実と幻想

目を開けたとき、天井は見慣れた色をしていた。


「自宅の天井だ」と一瞬でわかる、あの感じ。


浅井 涼一は、呼吸を整えながらしばらく動かなかった。

夢だったのか。

そう片づけるには、感触が生々しすぎる。


制服の重さも、冷えた空気も、陽菜との会話も。


キッチンから生活音がする。

家族の気配が、きちんとここにある。


涼一はゆっくり起き上がり、リビングに出た。

テーブルの上には、読みかけの新聞と、子どもの落書き。

昨日の続きの、何事もない日常。


それを確認してから、ようやく玄関に向かった。


郵便受けに、白い封筒が一通。


広告に紛れて、少しだけ主張している。

差出人を見て、同窓会の案内だと、すぐにわかった。


封筒は開けなかった。

急ぐ理由も、今すぐ知る必要もなかった。


ただ、玄関の棚に置く。


胸の奥に、わずかな違和感が残る。


陽菜が来るかどうか。

そんなことは、考えなかった。

考えないようにした、の方が近い。


涼一はリビングに戻り、ソファに腰を下ろす。

いつもの時間が、また動き出す。

それでも、どこかでなにかが引っかかっていた。


あの距離。

あの呼び方。

そして——今日は、よくしゃべったな、という感覚。


涼一は、何もなかったように立ち上がる。


現実は、ちゃんとここにある。

家族も、時間も、人生も。


それなのに——

どこかで、また続きを待っている自分がいることだけは、否定できなかった。

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