境界の行商人 ~リストラされた42歳元商社マン、実家の蔵から異世界と日本を往復貿易。100均グッズを売って金貨を稼ぎ、奪われた愛娘と人生を取り戻す~
第30話 白砂のプライベートビーチと、虹色のかき氷
第30話 白砂のプライベートビーチと、虹色のかき氷
アークレイアの夏は暑い。 特に今年は、王都全体が熱波に包まれていた。 エアコンの効いたプレハブ事務所から出たくない――それが全員の本音だった。
「パパ、海行きたい」
ソファで『あつまれ どうぶつの森』をプレイしていた結衣が、ぽつりと呟いた。 画面の中では、キャラクターが涼しげに海を泳いでいる。
「海か……。そういえば、今年はまだ連れて行ってなかったな」 「アークレイアに海はあるの?」 「あるぞ。王都からは遠いが、俺の車なら数時間だ」
俺はニヤリと笑い、デスクに座るエリスと、たまたま(また涼みに来ていた)シャルロット王女に声をかけた。
「というわけです。皆様、業務命令……いえ、王命としての『極秘視察』に出かけませんか?」 「視察? どこへ?」 「東の最果て。誰も知らない『秘密の入り江』へ」
***
俺が運転するSUVは、街道を外れ、道なき道を進んでいた。 助手席にはエリス。後部座席には結衣と、お忍びスタイルのシャルロット。 そして荷台には、大量の荷物と共にヴォルグが鎮座している。
ドローンによる空撮で見つけた、断崖絶壁の下にある隠された入り江。 魔物も寄り付かない、天然の要塞だ。
「着いたぞ」
俺が車を止め、崖の上から景色を指差した。
「わあぁぁぁぁっ……!」
結衣が歓声を上げた。 眼下に広がるのは、宝石のように透き通ったエメラルドグリーンの海と、雪のように白い砂浜。 人工物が一切ない、手付かずの楽園(パラダイス)。
「これが……海? 本に書いてある『暗黒の魔海』とは全然違うわ……」
内陸育ちのエリスとシャルロットが、呆然と立ち尽くす。 この世界では、海はクラーケンなどの巨大魔獣が住む危険地帯とされている。だが、ここは遠浅のラグーンになっており、大型の魔物は入ってこられない。
「さあ、着替えるぞ! 日本から『魔法の衣(水着)』を持ってきてある!」
俺は簡易テントを設営し、女性陣を送り込んだ。
数分後。 テントから出てきた彼女たちの姿に、俺(とヴォルグ)は目を奪われた。
まずは結衣。 水色のフリルがついた、ワンピースタイプの水着。麦わら帽子と相まって、まさに夏の天使だ。 「パパ、どう? 似合う?」 「ああ、世界一可愛いぞ!」
続いてエリス。 白を基調とした、パレオ付きのビキニ。彼女の清楚な雰囲気と、健康的なスタイルの良さが際立っている。恥ずかしそうに腕で体を隠す仕草が破壊力抜群だ。 「こ、こんな肌を晒すなんて……破廉恥じゃないかしら……」 「似合ってるぞ、エリス。王都の舞踏会より輝いてる」
最後に、シャルロット王女。 彼女が選んだのは、黒と金をあしらった、ハイレグ気味の攻撃的なビキニ。 王族としての誇り高いプロポーションを、惜しげもなく披露している。 「……ふん。布面積が少なくて心許ないけれど、動きやすくて悪くないわね」 そう言いながらも、まんざらでもなさそうだ。
ちなみにヴォルグは、ハワイアン柄のサーフパンツ一丁だ。意外と似合っている。
「いくよー! きゃっほー!」
結衣が浮き輪(ドーナツ型)を持って海へ駆け出した。 バシャバシャと水飛沫を上げ、透明な水と戯れる。
「つ、冷たい! しょっぱい!」 「こら結衣、急に行くと危ないぞ。ヴォルグ、監視(ライフセーバー)を頼む」 「御意! お嬢様、俺の背中に乗ってください! 犬かきの神髄をお見せしましょう!」
ヴォルグが海に入り、結衣を背に乗せて泳ぎ始めた。巨大な狼が泳ぐ姿はシュールだが、頼もしい。
俺は砂浜にパラソルとデッキチェアを設置し、エリスとシャルロットを招いた。 そして、クーラーボックスから『アレ』を取り出した。
「お二人は泳がないんですか?」 「水に入るのは少し怖いわ……」 「私は日焼けが気になるの」
そんな二人に、俺はプラスチックのカップを差し出した。 山盛りに削った氷に、鮮やかな色のシロップをかけた『かき氷』だ。
「これは……氷菓子?」 「『ブルーハワイ』と『イチゴミルク』です。暑い浜辺で食べるこれは格別ですよ」
二人はスプーンで氷を掬い、口に運んだ。 キーンとする冷たさと、甘いシロップの味。
「……美味しい! 頭が痛くなるけど、止まらないわ!」 「この青い蜜、不思議な味がする……。海の色と同じね」
二人は童心に帰ったように笑い合った。 身分の差も、商売の悩みも、ここでは関係ない。ただの「女子会」だ。
俺は少し離れた場所から、はしゃぐ結衣と、それを見守るヒロインたちを眺めた。 波の音。笑い声。 平和だ。 日本で会社を追われ、絶望していた頃には想像もできなかった光景。
「……パパ!」
海から上がった結衣が、濡れた体で抱きついてきた。
「楽しい! 今まで行った海の中で、一番きれい!」 「そうか。それはよかった」 「パパ、連れてきてくれてありがとう。……パパの『新しい世界』、大好きだよ」
その言葉に、俺の胸が熱くなった。 この子の笑顔を守るためなら、俺はどんな敵とも戦える。魔王だろうが黒川だろうが、蹴散らしてみせる。
夕暮れ時。 水平線に沈む夕日が、海を黄金色に染めた。 遊び疲れた結衣は、帰りの車の中でぐっすりと眠っていた。
俺はハンドルを握りながら、心地よい疲労感を感じていた。 夏休みは折り返し地点。 次は、結衣が日本へ帰る前に、最高のお土産を持たせてやらなければならない。
だが、拠点に戻った俺たちを待っていたのは、留守番をしていた獣人スタッフからの緊急報告だった。
「社長! 大変です! 『隣国』の軍隊が、国境付近に集結しています!」 「……なんだと?」
平和なバカンスの終わり。 アークレイアの繁栄を妬む隣国・軍事国家『ガレリア』が、俺たちの技術と富を狙って動き出していたのだ。 夏休みの後半戦は、どうやら「戦争(防衛戦)」になりそうだ。
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