絶対零度の双子姉妹を助けたら、翌日から俺にだけ甘くなった件

神楽

第1話 絶対零度の双子姉妹

 私立櫻ヶ丘学園。  

 県内でもそれなりの進学校であるこの学園で、生徒たちの間でときおり囁かれる不可侵の聖域が存在する。

 それは、とある二人の少女を指す言葉だ。

 氷室姉妹。

 二年生の姉、氷室冬華 ひむろとうか。同じく二年生の妹、氷室雪奈 ひむろゆきな

 珍しい銀髪に宝石のような水色の瞳。 同じ顔、同じDNAを持ちながら、対照的な魅力で学園を支配する双子の美少女である。

 学校で、時に異性から彼女たちに向けられる視線は、憧れだけではない。

 何人もの男からの告白を断り続けている彼女たち。安易に近づくことすら許されないその圧倒的なオーラから、彼女たちはこう呼ばれている。


 ――『絶対零度』の氷姉妹、と。


◇◆◇◆◇


「――ですから、お断りします」


 放課後の渡り廊下。

 氷のような冷徹な声が響いた。

 声の主は、姉の氷室冬華。二年生にして生徒会長を務め、成績はずっと学年トップ。腰まで届く銀髪ストレートを揺らし、彼女は冷ややかな瞳で目の前の男子生徒を見下ろしていた。


「き、君のことが、ずっと前から好きで……! 僕と付き合ってください!」


 勇気ある告白である。だが、相手が悪すぎるだろ……。  

 案の定、彼女はは表情筋をピクリとも動かさず、事務的に言葉を紡ぐ。


「貴方の感情は理解しました。ですが、私にはその提案を受け入れるメリットが1ミリも見当たりません」

「えっ……め、メリット……?」

「今は学業と生徒会の仕事に専念すべき時期です。それに、貴方とは同じクラスですが、その緩んだネクタイやら、普段の授業に対する態度や学校生活を見る限り……、私とは考え方や、人生における価値観も合うとは思えません」


 彼女の言葉は、単なる拒絶ではない。  

 論理的に相手に精神をえぐる言葉だ。下手に断られるよりしんどいやつ。


「恋愛ごっこに費やす時間があるなら、数式の一つでも覚えた方が有意義です。……時間の無駄ですので、失礼します」


 彼女は男子生徒を一瞥もせず、そのまま踵返して、去っていった。  

 残された男子は、ショックのあまり石像のように固まっている。

 流石に可哀そうだ……。


「にしても、相変わらず容赦ねえな、会長様は」


 俺は、その公開処刑の現場を柱の陰から目撃し、思わず身震いをする。

 あれが威圧的な氷と呼ばれる姉、氷室冬華の正体だ。

 完璧主義で、自分にも他人にも厳しい。

 俺のような平穏を愛する一般生徒が関われば、間違いなく凍傷を負うだろう。


 ――。

 俺は恐ろし光景を見てしまったと思いながら自分の教室へと戻った。  

だが、教室には偶然にももう一人の『氷姉妹』が居た。


 2年F組。俺のクラスである。俺の座席のすぐ隣。窓際の一番後ろという、物語の主人公のような席に、その少女はいた。

 妹の、氷室雪奈。姉と同じ銀髪だが、こちらはふわふわとしたウェーブがかかったセミロングだ。彼女は机にスマホを広げて、何かに夢中のようだ。


「あの、氷室さん! これ、よかったら……」


クラスの男子が、お菓子か何かを差し入れようと声をかける。

どうやら餌付けして、親密度を挙げようとしているらしい。だけど。


「…………」


 彼女はピクリとも反応しない。耳にはヘッドホン。手元ではどうやらスマホのゲーム画面が忙しなく動いている。彼女にとって、クラスメイトの男子など、教室の風景の一部、であり、空気と同レベルの認識する必要がないものなのだ。


「あ、あの……?」

「……気が散るから話しかけないで」


 ヘッドホンを少しずらし、彼女はが漏らしたのは、シンプルな毒舌だった。

 眠たげなタレ目が、億劫そうに男子を射抜く。


「コンボ途切れちゃった……君のせいなんだけど?」

「ひっ……ご、ごめん!」


 威圧的な目を向けられた男子は涙目で退散。雪奈はふぁ、とあくびを一つこぼすと、再び自分の世界へと没入していく。

 姉が威圧的な氷ならば、妹は無関心の氷といえよう。

 妹の方は他人に興味がなくて、干渉されるのを何より嫌う。

 現に隣の席である俺も、四月にクラス替えしてから今までまともな会話をしたことがない。 一度だけ、彼女が消しゴムを落としたのを拾ってやったことがあるが、その時も軽い会釈だけで終わった。

 とはいえ、あの男子生徒のように出しゃばってもないので、嫌われてもいないだろう。

 好感度はプラスでもマイナスでもない。

 ……ま、それが一番平和だよな

 平穏な日常を好む俺にとって、トラブルは天敵である。

 学園の美少女と噂される絶対零度の氷姫たち。彼女たちとはきっと、住む世界が違う。卒業まで、こうして遠くから眺めるだけの関係でいい。

 カバンを手に取り、俺は教室を出る。

 さてと、バイトに行かねば。

 終わった後は、スーパーの特売に間に合うように帰らなければ。

 そんな日常の些細なことを考えながら、俺は一人で帰路についた。


 まさかその数時間後、住む世界が違うはずの彼女たちと、運命が交錯することになるとは夢にも思わずに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

絶対零度の双子姉妹を助けたら、翌日から俺にだけ甘くなった件 神楽 @Akatukikunn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画