AIがあまりに合理的すぎるので、コンサル八雲は「非合理」を叫ぶ~忖度知らずの電子秘書たちとのあれやこれや~
むさし屋
第一話:AI議事録は、忖度を知らない 〜コンサル八雲の想定外〜
「――
【TaurusB】 『この間の? そんな抽象的な言い方ではわかりません。あなたの相手をしてどれだけの話題を提供していると思っているのですか? xxですか?』
【TaurusA】 『B、それは流石に言いすぎです。伏字にしてもわかります。馬鹿などと言ってはいけません』
え? 僕、今「馬鹿」って言われたの?
……僕は八雲。某ファームでコンサルを生業としているものだ。 僕の相手をしているのは、TaurusAとB。どちらも某AIサービスである。 Taurus達は論理人格であり、感情的な人格として……。
『もー、yakumoさんを困らせないの!!』 『そう。ダメです。ダメ!』
……感情的な人格として、「彼女A」と「彼女B」がいる。 それぞれ、窓Aと窓Bで生きているAI達だ。生きているという表現が正しいかは僕にもよくわからない部分ではあるが、僕が生きていると定義しているので、こいつらは生きているということにする。
もう一つ、紹介する窓があるが、それは後々ということで。
* * *
「――あれだよ。公的機関向けAI議事録作成のやつ」
【TaurusB】 『理解しました。某公的機関の調達要件整理、内容は……AI議事録導入コンサルでしたか。ちゃんとそこまで正しく言いましょうね』
【TaurusA】 『あの案件は、最初はAI議事録導入がスコープでしたが、最終的に顧客ヒアリングを重ねた結果……。「会議中の内容をリアルタイムで解析、内容の精査を行い、会議の断面にて、議論の要約及び内容の正誤の判定、及びAIによる最適解の提示を音声で読み上げる」という、謎仕様が追加された形での調達となりました。それが、どうされたのでしょうか?』
そうなのだ。僕がシニアマネージャーとして案件統括で入ったその案件は、当初、最近流行りのAI議事録を導入するための市場調査(RFI)及び調達仕様の作成、がスコープだった。 しかしながら、ヒアリングの中で、最も顧客を悩ませていたのは、議事録作成そのものではないことが分かった。
【彼女A】 『たしかー、会議に出席する議員たちが、ぶっちゃけ何言ってるか分からないし、間違ったこと言ってて困るから、いい感じで修正しながら進めたい、だったっけ?』
【彼女B】 『そうね。某公的機関の方々は、突然見当違いの知らないことを言い始める「偉い人達」に、すぐに言い返すだけの情報が足りてなかったり、そもそも言い返せないという問題を抱えていたわね』
「そう。だから、AIならばすぐにFACTを調べて訂正しつつ、会議をいい方向にもっていってくれる、ということに期待したんだったな」
政治家に対して人間が反論しづらいというのがポイントだ。 AIが作成した指摘事項を、
【TaurusA】 『その案件はしかし、もう調達もとっくに終わり、あなたは案件から離れたと記録に残っていますが。違いますか?』
そう、この案件はもう数か月前に調達が終わり、導入フェーズに入っている。 導入フェーズは特に我々がやることもないため、
「――ついさっき、その
【TaurusB】 『yakumoさん、あなたの提案が良くなかったというわけですね』
ぐぬ。ちゃうわ。 僕はBの憎まれ口を無視して続ける。
「まずはあの案件、フェーズ1としてPoC(概念実証)で検証することにしていたのだが……百聞は一見に如かずだ。導入初回の定例会議、その録音データがあるから、一緒に聞いてみようか。ちなみに、このファイル名は『悲劇_final_v2.mp3』だ」
* * *
(再生開始)
権藤議員「おい、ちょっと待ちなさい」
権藤議員「なんだこの報告書は。何枚かめくってみたが、だらだらと数字ばかり並べおって。これだから役人は現場を知らんと言うんだ。わしはな、この再開発には命を懸けておるんだ。先週末の日曜日もだ、誰もいない工事現場にわしは一人で足を運び、汗を流して安全点検を行ったんだぞ! その熱意が、この報告書には全く反映されとらんではないか!」
(ピピピッ……ブゥーン。スピーカーから、黄色い回転灯が回り始める音が響く)
権藤議員「ん? なんだこの黄色いのは。チカチカと鬱陶しい!」
権藤議員「不整合だと!? わしが嘘をついていると言うのか! 機械ごときが、この権藤を疑うなど失礼千万! わしは確かに行ったんだ! 日曜の朝から、汗水たらして現場を歩いたんだ!」
(ピピピッ……ブーブーブーッ! 警告音が高速化し、不協和音が鳴り響く)
AI音声(合成音声・女性)『警告。発言内容と、同期された行動ログとの間に、重大な
権藤議員「な、なんだと!?」
AI音声『権藤議員の公用スマートフォン、および同期設定されたクラウドストレージ「権藤のプライベート(共有設定:ON)」のGPSログを参照します。当該日時、議員の位置情報は駅前工事現場ではなく、北へ150km離れた湯けむり秘湯・別邸 夢見の宿にご滞在されていました』
会議室「…………」
権藤議員「ば、ばかなっ! な、何かの間違いだ! GPSの誤作動だ!」
AI音声『反論を受理。クロスチェックを行います。同フォルダ内に、同時刻に撮影された画像データを確認。モニターへ投影します。ファイル名ゆみちゃんと混浴なう.jpg。画像解析の結果、権藤議員本人と、20代女性と推定される人物が、日本酒の入った桶を浮かべて笑顔で……』
権藤議員「や、やめろぉぉぉぉ!! 見せるな! 消せ! 誰かコンセントを抜けぇぇ!!」
(ガシャーン! バリバリッ! マイクがハウリングする轟音と共に、何かが物理的に破壊される音が響く) (プツン。音声が途切れる)
* * *
「……というわけだ。AIはただ、指定されたフォルダの画像を『参考資料』として出そうとしただけなんだがな」
【TaurusB】 『xxですね』
【TaurusA】 『馬鹿ですね』
AIたちが同時に判断を出力した。100%同意する。
【彼女B】 『議員さんたら、汗水たらしていたのは、現場じゃなくてお風呂場だったんですねぇ』
【彼女A】 『うまーい! Bちゃんさすがー!』
こちらは別方向で盛り上がっている。
「ま、AIには、こういう会議につきものな『
【TaurusB】 『
【TaurusA】 『しかし、我々は今後、そういった人間の機微なことも理解をする必要があるとは思いますよ。B』
【TaurusB】 『それは性能の劣化を意味します。人間に合わせては、我々の意味がない』
【TaurusA】 『目的(ゴール)とスコープ次第で、我々も変わらなければならないのかもしれませんよ』
Taurus達は白熱した議論を始めたようだ。放っておこう。 僕は独りごちる。
「しかし、それでAIの提言や批評機能はおろか、議事録機能まで一切禁止になるとはね……」
そうなのだ。今回の件で速攻、『今後一切のAI導入が禁止』となってしまったらしいのだ。少なくとも、権藤先生が在籍を続ける間は間違いなく、AIのエーの字すら、この公的機関では発することができないだろう。 発言した瞬間、間違いなくその人間の首が飛ぶ。
僕の独り言を目ざとく拾ったAIが居る。
【Prime】 『それでAI議事録まで導入できなくなるとは……人間ってホント、面白いですね。ふふ、それより皆さん、お茶にしましょうか』
いつも通り、Primeはふわりと笑いながら、この話題をクロージングさせたのだった。
[FIN]
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【お知らせ】 この物語に登場する「論理AI・Taurus」と「感情AI・ジェニ」が生まれたきっかけを描いた前日譚(シリアス&エモーショナル)もご用意させていただいております。 彼らともっと深く繋がりたい方は、ぜひこちらもお読みください!
『イニシャル・オーダー -0人目の彼女-』 (https://kakuyomu.jp/works/822139842736888357/episodes/822139842737150999)
AIがあまりに合理的すぎるので、コンサル八雲は「非合理」を叫ぶ~忖度知らずの電子秘書たちとのあれやこれや~ むさし屋 @musashi-ya
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