因習村VSお貢ぎマゾメス

井石 諦目

インタビュー記録:A氏との会談

 あの日のことですか……。はい、忘れたりなんてできないですよ……。何せあそこにはこの世のものとは思えない光景があったんですから……。


 えぇ、そうです。私が目撃したのは……!


 ……何を言ってるかわからないって顔ですね。……わかりました順を追って説明いたします。


 ――■■県■■市■■村ってご存じ――あ、知らない。そのド田舎愛好家の中ではそこそこ有名で……あ、界隈でだけ……そうですか……。


 とにかく私はそこに行ったんです。


 ……目的ですか?……何と言うか、現実逃避と言いますか……えぇ、一人旅です。……うん、一人旅……と言っていいと思います。少なくとも行きは一人でしたしね。


 それで、その日は午後ぐらいには着いて、家々のみすぼらしさとか井戸端会議で聞こえて来る方言の古臭さとかを楽しんでました。


 ……村の変わった所、ですか?……うーんあんまり見当たらなかったんですけど……。

 ……しいて言えば、あの村には公衆トイレがあるんですよ。それも誰が整備してるかもわからないような。観光地でもないのに。汚くてドアの鍵すら閉まるかわからないボロボロのヤツが。


 ……あ、あと何故か村の前で女の子に注意されましたね。『祠には近づかないで。夜までこの村から出た方がいい。この村にはアイツがいるから……』って……。


 まぁそんな見ず知らずの薄幸そうなメスガキの言う事なんて気にしないですよね。普通に観光しましたよ、私。


 ……ただ、そこで問題が起きたんです。ですよ……!車で行ったんですが、当然タイヤはノーマルタイヤ。雪道なんて想定外。帰る手段は見当たりません。

 しかも検索しても付近には宿泊施設どころか店すらない。……私は途方に暮れました。


 こうなると取れる手段は一つ。公用駐車場に停めてある車で車中泊です。私は手元にあるものを確認しました。寒さを凌ぐものと、食事出来るものを探して、です。

 ですが殆ど何もありませんでした。私は春用コートで雪の夜を耐え凌ぐ必要があるという、恐ろしい状況に陥ったのです。


 ですが、そんな私を見かねたのか、村の人が声を掛けてくれました。

 

「大丈夫け?なんや他所モンけ?あんちゃん」


 その人はヨボヨボのおじいさんでした。痩躯に黒のダウンを着ていました。見た目はまるで黒い綿に爪楊枝刺したようでしたね。


「はい……。お恥ずかしい話なんですが、雪に降られて帰ることも出来ず、でして……」


「だぁら、そりゃ大変や。……にいちゃんウチ来るけ?朝まで車の中は危ねーぞ?」


「いいんですか……!?」


「えーよ、えーよ。困った時はお互いサマや。助け合わんと生きてけんわなぁ」


「ありがとうございます……!」


 こうして私は、村の人のご厚意で一泊させて頂くことになったのです。


「雪で滑らんように気を付けて儂についてい。……しっかしなぁ。よくこんな村ぁ来たなぁ……。なんもねーとこだやぞ、ここ」


「いえいえ。いい景色で素敵なとこですよ」


「ははッ。都会の人にそう言って貰えると有難いわなあ。さ、古い家やけど、どうぞ入り」


「ありがとうございます……!失礼いたします」


 その家は確かに非常に古く見えました。柱は木造ですし、屋根には瓦、防犯らしき装備も殆ど見当たりませんでした。


 玄関の戸を開いたのですが、家中は外と大して変わらず冷え込んでいました。かじかむ手で靴を脱いでる最中、私は玄関に並んだ靴を見ていました。あるのは男ものの長靴、汚れたスニーカー、サンダル、それに女の子向けの小さな靴でした。


「今は孫と儂の二人暮らしでなぁ。にぎやかじゃなくて辛気臭いかもしれんが気にせんでくれや」


「静かで落ち着いてる素敵なご家庭じゃないですか」


 私はそのまま、奥の部屋へと通されました。ふすまを開けた時に感じた温かみに、生き返ったようにすら思えましたね。今でも忘れられないぐらいです。


 通されたのは、居間でしたね。ストーブのある今でした。ストーブなんて久しぶりに見ましたね。


「……帰らなかったの?」


 温かな空気に呆ける私の耳に、そんな声が響き入ってきました。それは日中に聞いた、あの薄幸そうなメスガキの声でした。


「……あの時の……。うん。実は雪に降られて帰れなくなってしまってね」


「……ふーん…………」


 それだけ言うと、その子は一人で遊び始めちゃいました。部屋の隅で、なんかあの布のボールみたいなやつで。

 ……そう、手鞠です……っ!手鞠なんて私初めてみましたよ……。それを地面にポーンポンとつきながら、何か唄うんですよ。


 確か……『旅人来ちゃった雪の中。捧げに来ちゃったその心臓。ごはんとお酒で眠らせて。祠に連れていきましょう。祠に捧げに行きましょう』みたいな。


 ねー。センスの悪いガキンチョですよね。


「あんちゃんハラ空いとらんけ?大した食事じゃねっけども、夕食一緒にどうや?」


「いいんですか?」


「えーよえーよ。大したモンやないけど食うとき食うとき」


 私はご相伴にあずかり、食事を頂くことにしました。……確か、漬物が2、3種類と鶏肉の煮物でしたね。濃い味でした。


「……いやー。ごちそうさまでした。美味しかったです」


「そうけ?なら良かったわ」


 食べ終えると、私は少しずつ睡魔に襲われ始めました。そんな私に、おじいさんは『床を用意してやるからそこで寝なさい』と言ってきました。


 それに従い、私は敷かれた布団へと寝転びました。――それが、間違いだと気づかずに。

 

 ……はい。その時、小さく聞こえてきたのんですよ。


 『コイツを生贄にするんや。オイ。縄とソリ持ってい。祠まで運ぶから上着羽織ってな』


 薄れゆく意識の中で、私は確かにその言葉を聞きました。それに、バタバタと足音を立てながら部屋を出ていく二人を見ました。


 ……勿論、危険は感じましたよ……。ですが動けなかったんです……体からどんどん力が抜けていってしまって……。


 意識が微睡んでいくその最中、私はもう一つの音を聞きとりました。それは家の外、雪下の静寂から聞こえる僅かな物音でした。……いえ幻聴ではありません。それは確かにでした。


 私は最後の力を振り絞り、スマホの画面を開きました。それが、私がその場所で見た最後の光景です。


【どこに行くのー?】


【あなたのお貢ぎマゾメス奴隷ですよー】


【ねぇ何が欲しいの?お金??】


【お返事一回1万円払うから。

 だから返事欲しいな……】


【ごめんね!違うよね!

 3万円払わせてください……!哀れなマゾメスにお貢ぎさせてください!】


【■■さんから3万円のギフトが届きました】


【ねぇ、今なにしてるの……?】


【■■さんから5万円のギフトが届きました】


【ねぇ……既読だけでも……】


【■■さんから8万円のギフトが届きました】


【お願いします】


【■■さんから10万円のギフトが届きました】


【■■さんから15万円のギフトが届きました】


【■■さんから20万円のギフトが届きました】


【メッセージが削除されました】


【メッセージが削除されました】


【メッセージが削除されました】


【メッセージが削除されました】


【メッセージが削除されました】


【そっち行くね】

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