第十七章 対策本部

魔王討伐作戦。


 勝男は精鋭部隊の編成に取りかかった。


「志願者は?」


「これだけいます」


 騎士団長が名簿を差し出した。


 百人以上の名前が記されている。


「こんなにいるのか」


「田所殿と一緒に戦いたいという者は、数え切れないほどいます。お主は、この国の英雄ですから」


「英雄じゃない」


 勝男は首を振った。


「ただの水道屋だ」


 選抜の結果、二十人の精鋭が選ばれた。


 騎士。魔法使い。斥候。そして——


「私も行くわ」


 リーゼが言った。


「駄目だ」


「駄目じゃない」


「危険すぎる」


「あなたの方がよっぽど危険よ」


 リーゼは勝男の前に立った。


「私はあなたの弟子。師匠が行くところには、弟子も行く」


「リーゼ——」


「それに」


 彼女は少し赤くなって言った。


「あなた一人じゃ、体のことを忘れて無茶するでしょう。誰かが見張っていないと」


 勝男は溜め息をついた。


「……仕方ないな」


    *


 出発の日。


 王都の城門に、大勢の市民が集まっていた。


「水の聖者様!」


「どうかご無事で!」


「王国を救ってください!」


 歓声が響く中、勝男は馬に乗った。


「行ってくる」


 王が見送りに来ていた。


「頼んだぞ、田所殿。王国の運命は、お主にかかっている」


「重い荷物ですね」


「お主なら、担げる」


 勝男は頷いた。


 そして——


 二十一人の部隊は、北へ向かって出発した。


 魔王軍の本拠地へ。


 全ての決着をつけるために。


    *


 魔王軍の本拠地は、王都から北へ五日の距離にあった。


 腐海。


 かつては美しい湖だったという。


 しかし今は、黒く濁った沼地になっている。


 その中心に、魔王の城がそびえていた。


「あれが……」


 リーゼが息を呑んだ。


 黒い石造りの城。天を突くような尖塔。


 そして、城の周囲を取り巻く——


 腐った水。


「魔王の力の源だ」


 勝男は呟いた。


「あの腐海が、魔王軍に力を与えている」


「どうするの?」


「浄化する」


「浄化? こんな広い範囲を?」


「全部は無理だ。でも——」


 勝男は城を見つめた。


「魔王本人に近づければ、なんとかなる」


 部隊は腐海の外縁に潜んで、夜を待った。


 日が沈み、闇が広がると——


 作戦開始。


「俺とリーゼ、騎士団長で先行する。残りは後方で待機」


「田所殿、危険すぎます」


「大人数じゃ見つかる。三人なら、なんとか潜入できる」


 三人は腐海の中に足を踏み入れた。


 腐った水が、膝まで達する。


 異臭が鼻を突く。


 水の中から、何かが蠢く気配。


「魔物がいる」


 騎士団長が剣を抜いた。


「見つからないように進むぞ」


 三人は静かに、慎重に、城へと近づいていった。


 勝男は、この腐海の水を感じていた。


 汚れている。腐っている。


 でも——


 かすかに、何かが残っている。


 この水は、かつて清らかだった。美しかった。


 その記憶が、まだどこかに——


「魔王……」


 勝男は呟いた。


「お前は、何を求めているんだ」

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