そのスピードで。
七理チアキ
上――
全然、意味が分からなかった。
一学期が終業。帰宅して、これから夏休みを
あいつがわざわざ電話を寄越してきて、そして通学路の、分かれ道になるT字路まで出てきて欲しいと言った。さっきまで帰り一緒だったんじゃん。何か用があるならそん時に言えよ。
はあ。糞ダセージャージに着替えちゃったよ。まあ、あいつに会うだけだし、いっか。
「お母さん。ちょっと出てくる。昼ご飯帰ってから」
むすっとする母を背に、私はスニーカーのかかとを潰したまま家を出た。
アスファルトが溶けちゃうんじゃないかってくらい暑い炎天下のなか、私はついさっき歩いて帰ってきたばかりの通学路を戻っていく。
いつも別れるT字路に着いたけど、まだあいつは来ていないみたいだ。呼び出しておいて待たせるなよ。
糞暑い太陽の下で待っていると、額に汗して、Tシャツに短パンの私に負けず劣らずダサいカッコで、あいつが駆けてきた。がたがた変な音を鳴らしながら自転車で。
「あんた、家すぐそこなのに自転車なの? それで私より遅いとかふざけてない?」
「ごめん……速い方が良いと思って自転車にしたんだけど……」
「で、なに? なんか急ぎの用?」
「急ぎっていうか……大事な話っていうか……」
なんだよ。煮え切らない。早く言えっつの。大事な話ならなおさらだろ。
「あんたが急かしてる感醸すからこんなダサいカッコのまま急いで来たんだけど? 用ないなら帰るよ?」
「いや待って! 超ある! 超用事あるから待って!」
「なに? 超用あるって。何個もあんたの用事さばく気ないんだけど。早く言って」
てい。私はこいつの
「いて……ちょっと。俺のタイミングで言わせてよ……」
「いや、ここに呼び出してる時点であんたのタイミングでしかないでしょ」
「う……ごめん。じゃあ、言うね? 言うよ?」
「はい……どうぞ?」
「……あの……その……好きです……付き合ってください!」
「は?」
全然、意味が分からなかった。
だってこいつは、隣の小学校の奴で、中学に入ってから見知った仲で。たまたま隣の席だったから、たまたまよく喋るってだけで。
そりゃ、好きなお笑いが一緒だったり、こいつがしょっちゅう教科書を忘れるから机をくっつけて見せてやったり、私の筆圧が強すぎてシャーペンの芯をよく折るので替え芯が足りなくなって分けてもらったり、仲良くないこともないけど。逆に言えば仲が良いってだけだ。
だから私はこいつのことを友達っていうか、気を遣わなくていいのが楽で、良い顔を見せようと思ったことなど一度もなかった。男女仲みたいなものは意識したことなかったし、それはこいつも同じだと思っていたから。
「なんかの冗談? あんた罰ゲームさせられてんの? どっかの影にクラスのバカな男どもとか隠れてない?」
「違う! 違う! そうじゃない! 本当に好き!」
やめろよ。あんまし好き好き言うなよ。変に意識しちゃうだろ。ほら。なんかざわざわしてきちゃったじゃん。夏休み明けからの学校が気まずくなっちゃうだろが。
「……だいたい……付き合うって何すんの?」
「え、えと……学校から一緒に帰ったり……?」
「いや、それはいつもここまで一緒に帰ってんじゃん。変わんないじゃん」
学校からの帰り道。いつからだったか覚えてないけど、部活が終わったあと、色んな部の奴ら、男女分け隔てなくみんな一緒に帰るようになった。それで、私たちの家は学区の端だから、そのまま何となく二人きりでお互いの家に別れるT字路まで並んで歩くのが当たり前になっていた。
「じゃあそれで!」
「は?」
「俺と今のまま、学校で喋ったり、一緒に帰ったり、そういうの……ずっと変わらないでいて欲しい! ……ってのじゃだめ?」
「付き合うってそういうのなの?」
「……俺も……あんまし分かんない。けど、一緒に話してると楽しいし」
「はあ。まあ、いいけど。今までどおりでいいなら付き合うでいい」
「本当に? やったー」
小学生のガキみたいにぴょんぴょんはしゃいでるこいつに不覚にも、ちょっと可愛いかも、なんて気持ちが胸をよぎってしまった。それを認めないと一人大きくかぶりを振る。
「あ。アユミ。家まで送ってくよ」
「いきなり名前で呼ぶなよ。あんたが変わらないでって言ったのに、もう変わっちゃってんじゃん」
そう言って、がらがら自転車を押すこいつの背中を、ばしんと叩いてやった。
それから私たちは、これまでどおり一緒に帰ったり、時に適当な公園に立ち寄ってだべったり。そんなお付き合いをして中学三年まで時が過ぎた。
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