美少女社長の参謀役 ~追放されたエリート戦略コンサルタント、不遇可愛い令嬢と上場企業を立て直します!~
軽井広💞美少女社長の参謀役【新連載】!
第1話 追放された会社員、彼と結婚したい美少女(15)に拾われる
「これは要するに退職勧奨……クビということですね?」
29歳の会社員、
都心の一等地、赤坂Bizタワーの36階。そのフロアまるごとオフィスを構えているのが、航輔が勤める企業。
外資系戦略コンサルティング・ファーム「グラッドストン・アンド・カンパニー」だ。
いわゆるコンサルと言われる企業の中でも、五本の指に入る名門。大企業の経営者に、事業戦略策定やM&Aの支援といった重要事項の助言を行う。世界有数のプロフェッショナル集団だ。
在籍コンサルタントは東大、京大、一橋といった名門大学卒業生か、あるいは海外大学院でMBAを取得した人間ばかり。少数精鋭のエリートたちだ。
そして、航輔を会社員と表現するのは正確ではないかもしれない。そのグラッドストン社の日本人最年少パートナー。すなわちコンサルティング・ファームのトップの一人である共同経営者。
それが航輔の身分だった。
グラッドストン社のような戦略コンサル会社では、パートナーは最低でも年収三千万円を遥かに超える。航輔も例外ではない。いわゆるエリートだと世間の人は航輔のことを呼ぶだろうし、また航輔もそれを自任していた。
だが、それも昨日まで。すべては過去のこととなった。
人事担当パートナーのリン・ハーコートが微笑む。彼女はイギリス出身で、三十代の美しい女性だった。どういう魔法なのか、見た目は二十代前半にしか見えない。十人見れば十人が美人だと言い、そして、「気が強そうだ」と評するだろう。
自慢のブロンドの髪を長く伸ばし、その美しい青い瞳は鋭く輝いていた。
「コースケ、誰よりも賢いあなたならわかるでしょう? あなたは政治に負けたの」
「残念です。私は政治家ではなくてコンサルタントになったつもりだったのですが、勘違いだったようで」
「あなたは優秀だけれど、そういう茶化すような物言いが欠点ね。直したら?」
「残念ですが、ご期待には沿えなさそうです」
しれっと航輔は言い、リンは呆れた表情を浮かべた。
「まったくあなたは……。このゲームはあなたのチェックメイトよ」
実際、今の航輔は自主的に退職せざるを得ない。そんなことはコンサルお得意の問題解決ツールに頼らなくてもわかりきったことだ。
航輔が関与したプロジェクトにおける情報漏洩。この責任を航輔は取らされたのだ。
ある消費財メーカーの戦略策定支援において、同業他社から入手した機密情報を横流しした。これは航輔の上司にあたるシニアパートナーが主導したことだが、航輔に責任をなすりつけられた。
航輔の預かり知らぬところで行われたことなのだが、誰かが責任を負って詰め腹を切らないといけない。それが航輔に与えられた役割だった。
もともとは一業種につき一クライアントしか業務を提供しないのがグラッドストンのポリシーだった。それを曲げたのがシニアパートナーであり、反対したのが航輔だった。
「これからも私はグラッドストンに多大な貢献をできるはずだたったのですが、残念です」
「自分で言う? とんでもない自信家ね……」
「だからこそ私はパートナーを拝命していたのです。泣いて戻ってきてくださいと言っても、もう遅いですよ」
航輔はくすりと笑って言う。リンはまじまじと航輔を見つめた。
「あなたって本当に変わっているわ。いくらコンサルタントは転職が当たり前とはいえ、超人的な速さで上り詰めたパートナーの地位に未練はないの?」
航輔は窓の外を見つめた。東京の高層ビル群を見下ろす形になる。
「私が見ているのは、もっと先。別の未来なんですよ」
航輔がリンに視線を戻すと、リンはなぜか顔を赤くして航輔を見つめていた。それから、はっとした表情になり、咳払いをする。
「リン、もしかして私に見とれていましたか?」
「自惚れるのも大概にして。なんで私があなたなんかに……」
そう言いながら、リンは視線を泳がせる。
そして、諦めたように「ええ、ええ。あなたは嫌味なぐらいカッコいいわ」と認めた。
彼女は美人で聡明だが、まだ独身だった。独身であることが悪いことではまったくないが、リン自身は結婚願望があるらしい。
それは彼女が気が強いからでもあるし、優秀すぎて敬遠されるのもあるし、仕事に打ち込みすぎなのもあるが、一番は彼女自身の理想が高いのだろう。
その彼女の目から見て、評価されているのであれば悪くない。
航輔は微笑んだ。
「リンの尽力には感謝しています。おかげで弁護士先生のお世話にはならずに退職できそうですし」
「これからどうするの?」
「どうしましょうか。何も決めていないんですよね。ノープランです」
「その、あの、なら、私と……」
リンがためらいがちに何か言いかけたそのとき、航輔のスマホの着信メロディが鳴った。
「なに? この変な曲?」
航輔は「よくぞ聞いてくれました」と満面の笑みを浮かべる。
「ご存じないですか? 最近流行りのゆるキャラ・ニャンフィのテーマ曲で――」
「ふざけてるの? いいから、早く電話に出たら?」
リンが不機嫌そうに言うので、航輔は肩をすくめた。
それから、スマホの応答ボタンを押す。
しばらく航輔は電話相手と話して、電話が終わる頃にはニコニコとしていた。
そして、リンのもとに戻る。
リンが怪訝な表情を浮かべた。
「その気持ち悪い笑みは何?」
「どうやら転職先が決まったかもしれません」
「は?」
「アクティビスト・ファンドのストラテジック・アクト社」
「それって、まさか」
「いわゆる氷神ファンドですね。社長の氷神レナは十五歳の少女ですよ」
☆
リンが「結局、あなたも若い女の子がいいわけね!」と言って、航輔を部屋から叩き出してしまった。
もしかして嫉妬しているのだろうか、と航輔は思い、「あのリンがね」と微笑ましく思う。
リンはああ見えて保守的で、結婚して子供を産みたいという希望があるらしい。だとすれば、航輔はそれを叶えることはできない。
リンが航輔に好意的なのは知っていたが、それも仕事仲間としてのものにすぎないはずだった。もし、そうでないとすれば、リンは航輔のことを誤解しているのだ。
航輔は自分のことを優秀なエリートだと自負している。
一方で、決定的に欠けたものが航輔にはある。他人に対し、友情だとか愛情だとか、そうした感情を持てないのだ。
どこまで行っても、航輔の人間関係は手段に過ぎなかった。だが、かつては違ったのだ。
その空虚を埋める方法を航輔は探していた。
航輔が生まれた香西家は、古い歴史を持っている。室町時代から続く武士の家系であり、名門・細川氏に仕える家系だ。
江戸時代、幕府旗本となった細川紀伊守家は明治維新後に男爵となり、帝国電気鉄道という大企業を創業した。細川紀伊守家はその経営者一族であり、戦後の財閥解体の後も生き延び、帝国電気鉄道を経営していた。いや、かつて少し前まで経営していた。
そして、香西家はその細川紀伊守家を支える一族として、親族から帝国電気鉄道の役員を出していた。
航輔はそんな一族の三男に生まれた。資産もあったし、かなり恵まれた境遇だったと思う。
そして、東京の難関中高一貫校(共学だった)に入学。東京大学文科二類に合格し、同経済学部卒業、在学中に公認会計士試験にも合格し、非常勤で監査法人で働いていたこともある。ゼミでは教授から大学院進学を勧められるほど、大学での学業成績でも優秀だった。何もかも、思うがままだった。たった一つのことを除いては。
航輔には学者になる道もあったし、そのまま普通の会計士として生きる道もあった。あるいは望めば官僚にでもなれたし、商社でも広告代理店でも入れたかもしれない。
とはいえ、航輔は性格にクセがある。従順に従うことは向いていない。
その中で航輔が選んだ就職先はグラッドストン・アンド・カンパニーだった。
マッキンゼー、ボストンコンサルティング、ベイン……といった超名門コンサルティング・ファームと肩を並べる、外資系戦略プロフェッショナルの集団だ。
少数精鋭で知られ、同期はたった10人。全員が東大か京大、あるいは海外大卒。全コンサルタントあわせて200名程度。
だが、誰もが知っている外食企業、自動車メーカー、重工業その他多くの業界のトップ企業をクライアント(顧客)に持ち、政府の案件も受けている。新卒一年目から年収1,000万円を超える。
東大生の人気就職先ランキングにも毎年入っている。
航輔はそういうエリート的な側面に興味があったわけでもなければ、待遇が良いから選んだわけでもなかった。
ただ、航輔の望む場所に一番速く行けそうだから。
そして最年少パートナーになっても、航輔はその場所にたどり着けていない。「その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない。もしここではないどこかにたどり着こうとするなら、今の二倍の速さで走らなければならない」という格言のとおり。
秋葉原UDXオフィス棟の最上階。そこがストラテジック・アクト社の本社だった。
本社といっても、こじんまりとしている。
実際、規模は大きくないのだ。それでも、このファンドは業界内では有名だった。
秘書の女性に招き入れられ、航輔は社長室に入る。
社長室と言っても、豪華な赤い長椅子があるような部屋ではない。ごくごく機能的なオフィスだった。
ただ、ところどころに品の良い小物が選ばれている。それはこの部屋の主の個性を反映しているのだろう。
窓の外を眺めていた少女が、椅子を回転させて、こちらを振り向く。
小柄な少女だ。しかも、セーラー服を着ている。場違いな存在だが、彼女……氷神レナこそ、このファンドの社長なのだ。
「久しぶり、航輔」
彼女は航輔の名前を、ゆっくり、そして美しい声で発音する。
彼女が目立つのはその金色の美しい髪とサファイアのような青い瞳だ。彼女は北欧系の血を引いているのだ。
その母親の氷神アリアは世界的大女優であり、航輔とは浅からぬ因縁があった。氷神アリアの旧姓は細川。かつての航輔の主筋だった。
レナは立ち上がると、15歳にしてはすらりと高い背とスタイルの良さからかなりの存在感がある。
そんな彼女は航輔のもとに歩み寄った。
そして、突然、航輔に正面から抱きついた。
「航輔、会いたかった! 忙しいって言って、なかなか会いに来てくれないんだもの!」
航輔は思わず、「へえ」と感嘆の声を上げる。
「大きくなりましたね、レナお嬢様も」
その言い方が気に入らなかったのか、レナは青い瞳で航輔をジトっと睨む。
「グラッドストンの最年少パートナーにしては、あまりにも独創性を欠いたセリフだよね」
「私の29年の短い経験によれば、こういう場面では独創性というのは求められていませんから」
「そもそも半年前にも会ってるし……。航輔、私を子供扱いしているでしょ?」
彼女はまだ高校一年生にすぎない。航輔の目からしてみれば、まごうことなき子供だ。
とはいえ、航輔はそれを口には出さなかった。
「大人のレディとして扱いますよ。お望みとあらば」
レナは答えず、顔を赤くした。
「というか、もしかして、大きくなったって変な意味で言ってないよね?」
「変な意味ってなんです?」
「そ、その……おっぱいの大きさとかそういう……」
たしかに正面からハグしているので、むぎゅっと正面からレナの大きな胸を当てられている。言われてみると、航輔はその柔らかい感触を多少意識してしまうが、出てくるのは「困ったな」という感想だ。
「子供にそんなこと言いませんよ」
「ふうん、子供ね。大人のレディとして扱うって言ったくせに」
ますますぎゅっとレナは航輔に抱きつく。この少女は昔から航輔にやたら懐いているのだ。
「そういう航輔は随分とお父様に似てきたみたいだけど?」
「うちの父ですか? 自分ではそうは思いませんけれど」
「そうではなくて、私の父」
レナは短くそう言った。レナの父といえば、氷神総一郎。
彼は伝説的な投資家だ。通商産業省の官僚だった彼は、日本の株式市場のあり方に疑問を覚え、独立。
帝都テレビホールディングス、東都ファッション、そして帝国電気鉄道といった誰もが知っている大企業に敵対的買収をしかけ、巨万の富を築いた。
そして、レナが最も愛し、尊敬している人物のはずだ。
「お父上の総一郎様そっくりだなんて、過分な褒め言葉に恐縮です」
「別に褒めたわけじゃないんだけど」
「いやあ、だってレナお嬢様ってお父上のこと大好きじゃないですか。小さい頃は『お父さんのお嫁さんになりたい』なんて……」
「い、今はそんなこと言わないから! 私が結婚したい人は別にいるし!」
レナは恥ずかしそうに言う。それから、そっと航輔から離れ、上目遣いに見つめた。
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