エピローグ
先生と私の、恋文とも怨み節とも感謝の手紙ともとれる長い長い小説を書き終え、ようやく一息つく。これで私の宿題は終わりだと思った。ふと今一度考える。生きる理由とは、なんなのだろうか。死ねる理由とは、なんなのだろうか。私は中学生の時に使っていたバッグとあのとき先生に渡した原稿用紙を持ってゆったりと立ち上がり、家をでた。
電車に揺られること二時間半。思い出の中で見慣れた駅のホームに私は立っていた。ここに来たのはいつぶりだろうか。私は幼き頃の最寄りだった駅でふっと息を吐く。私の吐いた二酸化炭素はその他大多数の吐いた二酸化炭素に薄められて、空中に分散していく。私がどれだけ線路を眺めていても、お節介な青年が私の肩を引くことはなくて、これが普通なんだろうなと私は世界を恨んだ。ふと喉が渇いて、自販機でコーヒーを買ってやろうと思った。財布が入っているバッグのポケットをまさぐり、そこで中になにか変なものが入ってることに気づいた。なんだろう。くしゃくしゃの紙っぽい。失敗した原稿のゴミ?バッグのポケットからそれを取り出して、中を見てようやく思い出す。あぁ、これか。ここにいれたんだっけ。何年も放置された、鞄のポケットの中でくしゃくしゃになった、原稿用紙。私の、もう一つの小説。私はここでようやく、私が大人になったんだと思った。正確には、大人になるまで生きたんだと思った。これはもう、私には必要ないかな。私はそのユノ君の遺書を握りつぶして、今度こそ取り出した財布でコーヒーを買った。強がる必要がなかったので、最高に不味そうな顔をしてやった。飲みほしたころに、電車の到着を知らせるアナウンスがなった。小説を書き終えた私は、ただ電車を待った。
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