終章
丘上にある動物園前の高い石垣塀横には、なにやら荷台が物々しい軽トラが停まっていて、そのかたわらには眼鏡に作業着というそのへんのコンビニにいそうな冴えない髪型の青年が地面に耳を着けてぶつぶつつぶやいていた。
「あんた、トモキ?」
周りには誰もいない。単刀直入に訊くと、彼はニヤニヤ笑みで、いよう、と片手を上げてきた。浅黒い日焼け顔で白い前歯を見せる笑い方は間近でよく見ると、印象が覆されるところ。爽やかさとは一線引くが、面影から確信はあった。
「ナツメか。猟銃とクロスボウの似合ういい女になったなあ。彼氏は? いない? んじゃあ今からのデートもなにがあっても問題ないな」
「あんたキャラ変わったね。まあ、嫌いじゃないけど好きでもないかな」
「そういうときは可でも不可でもなく、あるいは七十点くらいをつけとくんだ」
「んじゃ、六十九点あげる。で、地面に吸い付いてなにやってんの。私よりいい女でもいた?」
「職業柄の癖だよ。いい女よりも、もっと興味深いなにかが地面の中には詰まってんだな」そしてトモキは一笑した。「自宅の地盤沈下のときからこの道を目指しててね。で、ナツメはなに?」
「たいしたもんじゃないよ。宅建やら司法書士事務所のパシリしてただけ。ま、趣味でたまに害獣駆除してるくらい」
「あ、それ、やっぱり本物ってことね」
トモキが笑みを歪ませたところで、私は「じゃ、いそぐよ」と手首をひっつかんだ。「まずは動物園不法侵入からだ」
「なあ聞けよ。ここの地熱異常なんだよ。まったく安定してない。近くに池あったろ? あれ死火山と関係してんだよ。で、熱水鉱床ががっつりあってだな。このあたりの山じゃ、閃亜鉛鉱、方鉛鉱とかが採掘されててな。見る? 俺のコレクション、うちに来て。なかなかの価値があって」
「んなとこより、行くとこあるだろうが!」
呑気なのか本気度が低いなのか掴みきれない嘆息をしたトモキは、ようやく気持ちを切り替えたようで、どこから取り出したのかワックスでオールバックにきめる。次には笑みを消して、例のナイフと石を私に見せた。
「ここは五十年も前には鉱山があった。採掘された黒雲母石のなかには、最大で三十センチ近くまで成長していたものまであったんだか、その断面だけが十年前にもらったこの石と同じ成分がふくまれていたんだ。それも崩落事故で二十人以上の鉱夫が生き埋めになって、閉山になった。のちに遺体を掘り出そうとしたけれど、一人も遺体は発見されない。どんな理由があって動物園なんざ、俗的なもんができたのか……まあ、これは確証がないからまたあとで」
「情報量が多すぎるんだけど」
「ナツメの装備も人のこといえんだろ」
そう言ってトモキは、私のランドセルを軽く叩いた。中身を、最初から知っていたみたいに。
ナツメとトモキの大返済 亞沖青斗 @emirinouta
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