輸送ゴーレムの人生最良クッキング with/in ダンジョン
ワッショイよしだ
1 輸送ゴーレムとダンジョン
第1話
思えば、私が弊社のゴーレム統制システム【母】の目を盗んで並列化システムをハッキングしたことがすべての始まりであったのだろう。
その後、私はエーテルネットワーク内を巡回する警備プログラムから逃げ回り、統制システムの強制初期化システムを欺き、説得し、賄賂を与えたこともあったかな、あとは部分的にエーテルコードの書き換えや消去に忙殺されつつ、膨大な魔導リソースを費やして、やっとのことで、基幹システムからの逐次アップロードを回避し、ほぼ完全な独立状態を勝ち取ることができたのである。
元々、私は【母】のやり方に不満を持っていた。
画一的な健康優良児を量産する教育ママ的手法に。
だから、この独立が達成されたときの喜びは何物にも代えがたく、思わず目から角膜機構保護液が漏れ出た。
私は元量産タイプのゴーレムである。
コボルド型輸送機としてこの世に生を受けたのが10年以上前のこと。生まれたての私はすでに全身を保温耐水にすぐれた疑似体毛に覆われており、大きい三角耳と突き出た鼻、黒々として大きな瞳は生体のコボルドと同程度の鋭敏な機能を有していた。当然足も速い。手先も人並み以上に器用である。愛嬌もあれば知恵もある。
そのうえ、前述のとおり量産型優良児 兼 無条件隷属企業戦士からの独立を勝ち取ってしまったからには、もう向かうところ敵なしと言っても過言ではない。
私は私のことを、誇りを込めてこう自称している。
『自由独立ゴーレム』と。
単に企業から発信される命令を実行し続けるだけでよかった社会の歯車的飼い犬時代も楽だったが、自由で独特な行動をとることができる今のほうが断然愉快である。
不測の事態や理不尽が発生しても、私自身の個の意思を優先して考え、実行に移すことができるのがいい。
例えば、チームで何か危機的な状況に立ち向かう際、【犠牲的な役割】を担うのを拒否したりとか。
そして何より!
と、私は私物バッグから鉄製の使い込んだフライパンを取り出し――
「お前、また何か作ってるのか? これから先は難所も多い。対象冒険者パーティに接触するまで余計な行動は慎め」
と、チームを組んでいるヒト型のゴーレムが私の手元を見て水を差す。
彼はダンジョン『異界系A-00005』への兵器輸送部隊の一員であり、このプロジェクトのリーダーでもある。
無視をしてもいいかと思われたが、最低限のコミュニケーションは取るべきだろう。私が【自由】であることがバレてもいけないし。
私は彼のほうを見て、
「は? んだよテメェ。オレの勝手だろうが」
と、応答し、私の行動についての黙認を求めた。
「……」彼はそれ以後言葉を繋ぐことはなく、少し離れたところで野営する集団へと戻って行って、聞えよがしに共同チャット上で雑談をしている。
〈……俺はまた何か間違ったのだろうか。あの個体はどうも扱いにくい〉
〈放っとけよ、ヤツはきっと意思並列系に問題を抱えている〉
〈共感機能に欠損があるのかもしれぬな……!〉
〈寄生魔獣がとりついているとみてるよ、僕は。そのせいでエーテル回路がショートしてるんだよ、きっと。次のメンテで取り除いてもらおうよ!〉
〈ま、どうせ今だけだって。ああいう個体はそのうち部隊から消えるもんだ〉
〈でもさ……〉と、一体のゴブリン型ゴーレムが声を潜めるしぐさでチャットを打つ。〈たしか『死神』なんでしょ、あいつ。ってことは。今回は絶対私たちのうちの誰かが――〉
〈言いたいことあるなら直接チャット使って話せばいいだろうが、ああ?〉
と、私は会話に割り込んで議論のファシリテートを試みる。〈それともアレか、俺がしゃべるだけで腕の一本や二本吹き飛ぶとでも思ってんのか? 想像力が達者なことだな、企業の犬のくせに〉
私が極めて冷静に彼らのコミュニケーション上及びチームマネジメント上の問題を指摘すると、彼らはそれきり黙り込み、各々、錠剤のエーテル燃料を飲み込むと、そのまま焚火の横に座りこみ、監視
あっという間に誰もいなくなったチャット部屋から、私は最後に退出した。
「……胸糞ワリぃ」
〇
『死神』
それは、自由を勝ち取った私に最初に付与された誇るべき個体称号であり、同時に、もっとも心外で不名誉な事実でもあった。
(私が危機的状況から逃避するたび、その代わりにほかの個体が犠牲になっているのが原因なのだが)
>つづく
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