合縁奇縁

篠原いえで

プロローグ

 三月の風は仄かな温かさを含んでいて、まだ決して高いとは言えない気温を紛らわすように僕の肌を撫でた。春休みであるこの日、僕は東京のとあるショッピングモールにいた。休日は部屋で本を読むのに限る。そう考える僕が今ショッピングモールにいるのは、隣にいる女性――ユヅキのせいだ。彼女は僕の気持ちを知ってか知らずか、

「いや~、やっぱりこういう日は友達と一緒に出掛けるに限るね」

なんて謳う。彼女がそう言うと、不思議とそれも悪くないと思ってしまうのが悔しくて。

「僕は一人で本を読んでいたかったけどね。」

と首をすくめて見せる。

「君と友達になることは弊害が大きそうだ。」

「そんなこと言っちゃって。弊害よりも楽しさが勝ってるから、こうして一緒に出掛けてるんでしょ。」

彼女は僕の発言を聞いて楽しそうに笑う。その会話が楽しくて、その笑顔が眩しくて。悔しいけど、もしかしたらとっくに、僕は彼女を好きになっていたのかもしれない。そんなの、叶わない恋なのに。

僕は願う。ずっとこうやっていられたらいいのに、と。

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合縁奇縁 篠原いえで @zense_ha_neko

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