不死の軍勢で前線を支えていた死霊魔術師、冤罪で牢獄送りになる 〜監獄に捕らえられていた者たちと共に、独立国家を造り上げることにします~

モツゴロウ

第1話 死霊魔術師、ネロ・ヴァーミリオン


「ネロ・ヴァーミリオン! 貴様を魔王軍に内通していたスパイ容疑で軍法会議にかける!」


 魔物たちとの激しい戦闘の合間、最前線のテントで休息を取っていた俺に浴びせられたのは、そんな言葉だった。

 

 顔を向けると、そこには戦闘が始まってから一度も顔を見せなかった上官、バッカス少佐が立っていた。


「内通……ですか?」


 たった一人で前線を抑えている俺が、内通?

 そんなことできるはずがない。急に一体何を言い出すんだ?


 疑問の目を向けると、バッカスは至極真面目な顔で頷いた。


「ああ。貴様は魔王軍に機密情報を流しているな? そしてその対価にこの前線の攻勢を緩めてもらい、功績を立てるつもりなのだろう」

「……」


 何を言っている?

 あの魔王軍の苛烈な攻勢を見てそんなことを言っているのだとしたら、こいつは今までどこで何をしていたんだ?


 休息を必要としない不死の軍勢だからなんとか抑えられているようなものの……あともう少しすれば押し切られても不思議ではない。


 しかも相手は魔王軍最強と謳われた将軍、ゼグレドが率いる精鋭部隊。だから援軍を要請したというのに、なぜ冤罪をかけられているのだろうか。


「おっと、言い逃れをしようとしても無駄だぞ? 貴様が、魔王軍の情報を持っているという証拠も見つかっている」


 バッカスが取り出したのは、私が長年をかけて集めた魔王軍に関する資料だった。


「それは、私が魔王軍と戦闘しながら集めた資料で――」

「はっ、笑わせるな! このようなレベルの情報が個人で集められるはずがない!」


 バッカスは机にそれを叩きつけ、私を睨んだ。


「それより、援軍はどうなったのです? もうあれから一ヶ月は経ちますが――」

「はっ、援軍だと? 笑わせるな、スパイに援軍など出しても無意味だろう。私がすべて、なかったことにしたよ」

「ということは、貴方が私をスパイだと上告したと?」

「ああ、そういうことになるな」


 なるほど。どうりでいつまで経っても援軍が来ないわけだ。


「……分かりました、では私は前線に戻ります」

 

 こんなことをしている間にも、前線が崩壊してもおかしくない。私はテントから出ようとした。


「おっと待て、どこにいくつもりだ? 貴様がこれから行くのは、アルヴァール監獄だぞ?」


 アルヴァール監獄。聞いたことがある。

 たしか、これまで誰一人として出れたものがいないという、脱獄不可能とされる牢獄だったはずだ。そこに収監されているのは、国家レベルの犯罪者たちだとも。


「ですが、私がここを去れば前線を維持するのは難しいかと――」

「黙れ! 魔王軍のスパイがぬけぬけと! そもそも私は最初から怪しいと思っていたのだ! など、得体の知れないものを使う魔術師など、最初から信用するべきではなかったのだ! ああ、忌々しい……!!」

「それで、私をスパイだと?」

「ああそうだ! 国家魔導院を首席で卒業したという話も、汚い手を使ったに違いない! 私の息子が首席になるはずだったのに……貴様がそれを邪魔したのだ!」


 バッカスは憎々しげに私を睨んだ。その目からは確かな憎悪が感じられる。


 確かに死霊魔術は魔王軍が得意とする魔術だ。

 だから私はその有用性に目をつけ、人類のためにと研究を続けてきたのだが……どうやらそれは間違いだったらしい。


 私は黙って、これからのことを考え始めた。


「ダンマリか? やはり孤児上がりの貴様が、首席などおかしいと思ったのだ! 卑しい身分の分際で調子に乗れるのも今日までだ! おい、こいつを連れて行け!」


 バッカスがそう叫ぶと、テントに何人かの兵士が入ってきて私の手首に錠をかけた。どうやら高度な魔封じの結界がかけられているようだ。

 わざわざこんな魔道具を用意するとは。よほど私を監獄送りにしたいらしい。

 魔力が抜けていく感覚が身体を襲い、前線に送っていた不死の軍勢たちの気配が消えていく。

 

 抵抗することも考えたが……やめておくことにした。

 バッカスだけが私を疑っているのだとしたら、まだ弁明の余地はある。

 しかし、上層部も私を疑うというのならその時は――。


「ククク。これからの貴様の未来が楽しみだ。牢獄で野垂れ死ぬか、それとも首つり台でみっともなく死ぬか……」


 テントから出ていく私が最後に聞いたのは、そんなバッカスの呟きだった。

 ……まあ、こいつだけは許さないがな。

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