第2話 ~胡蝶之夢~

ここは・・・蓮園神社か?


(俺はなんでこんなところに、座ってるんだ?)

賽銭箱の横に俺は座ってた。


突然、男が俺の前に現れた(誰だ?)顔を上げ男を見上げた。


「着いてこい心三朗」不思議と俺は自然に立ち上がり、疑いもなく

その男に着いて行った。(なにも感じない不思議だ)

ただ自然に身体が動いていた。


神社裏に狭い路地がある。

この通りは知ってはいるが・・・。(こんな店?あったっけ?)


『喫茶 Rinne』

入り口はツタに絡まれ生い茂っている。

甲子園球場を思い出す。(これはわかりにくい?)


男はドアを開け入っていく俺は黙って後を着いて行った。


店内はさほど広くない、カウンターにマスターらしき男がひとりいる。

(他に店員はいないみたいだ)


男は店の奥の両扉を開け入って行った。

(なんだ~ここは?スモークか?霧か?)

うっすらと足元に白いモヤが広がっている


丸いテーブルに3つの椅子がある。

そんな席が数席あるのは見えるが・・・。


その中の一つの席に座った。

そこには車イスに座った、女がいた・・。(誰だこの女は?)


男は口を開いた。

「今からする話は驚くかもしれないし?不思議に思うだろうが?」

話し始めた。(静かでどっか、懐かしく思える声だ)


「俺はお前の前世。こっちは(車イスの女)今んとこ、お前の来世だ」

(は~?何、言ってんだ?こいつ!意味わかんねえ~事)


男は続けた

「ここの喫茶店は表の、入ってきたところにあった席の方は」

「『輪廻』という空間で・・・。」

「そして、今いる、こっち側は『転生』と言う空間だ」

(輪廻に転生?何訳の分かんない事言ってるんだ)


マスターがティーカップを持ってきた。(ん?なに?お茶か?)


色はウーロン茶より少し黒く濃い、熱そうなのに湯気は殆ど立ってない

(不味そうだな、俺コーヒー党なんだが・・・。)


「まずは、これを飲んでみてくれ」

男が言うから俺は不味いだろうな・・・。と思いながらも、

ためらいもなく自然と口をつけ一気に飲みほした。

(うえっ、あま~~~)


最初は甘いと感じたが・・・。

何か少し苦い?いや、酸っぱい?いや、やっぱ甘い。

不思議ないろんな味がする不思議なお茶だ・・・。


「どうだ?味はしたか?」

男が聞いてきた。

俺は感じた味をそのまま伝えた。


「じゃぁ、大丈夫だ、お前は死なない」いきなり男はそう言った。

(なんだ?それ?どういう事だ?)


「味がしたという事、味を感じたという事はお前は死なない」

「何も感じない味がしないなら死だ・・・という事だ」

男はさらっとにやけて言った。


後で教えてくれたことだが

蓮の葉とか花、種、甘茶蔓茶(アマチャヅル)など

108種の植物などから作られてる“百八茶”と言う物だそうだ。

(甘茶は聞いたことがる、昔子供のころ飲んだような記憶がある)

(たしか?お釈迦様のなんチャラ、カンチャラの日だったような)


そして男はここが何なのか?


ここでの事が何を意味するのか?


俺たちがいる世界は3慈源(ジゲン)と言う空間だという事。


そして男たちは3.5慈源(ジゲン)にいて、現れたのは修行の一環だと・・・。


その修業が終われば4慈源(ジゲン)に行く事が出来るか?

もしくは3慈源(ジゲン)に再び生まれ変わるか?

とか、訳の分かんない事を淡々と話し続けた。


「周りを見てみろ、心三朗」

(他の席を見ろということか)


周りの席を見てみると一つの席は男と女に犬がいる。

それは来世がこのままだと犬だという事だそうだ。


もう一つの席は女が泣き崩れている。

お茶を飲んだが味がしなかった?

(そういう事か?)


沢山の席があるみたいだが、遠くまでは見えない・・・。

(いったいここは・・・どうなってるんだ?)


男はつづけた・・・。

「ここに来れるのは全ての人間ではない」

「お前みたいに人をかばったり、助けたり、身代わりとか思わぬ事に巻き込まれたりして」

「死にかけた人間だけが連れられ、ここに来ることができる」

「つまりチャンスを与えられるという事だ」

「そしてさっきのお茶を飲むことにより審判にかけられる」・・・と。

男は話した。


お茶の味で今までの自分自身の生き方や行動。

行いがその味に現れるそうだ。


甘く感じたら:今まで色んな事に甘えて適当に生きてきた

苦く感じたら:苦しい人生を送ってきた

辛く感じたら:辛く悲しい事が多い人生だった

酸味、塩味っぽいなら:夢ばっかり追いかけてるな

味がしない:死を意味する

味はしないが・・・・?


大きく分けたらこんな感じだそうだ

(最後のは教えられないと・・・。)


俺みたいに次から次にいろんな味を感じ、

混ざってた奴は、今まで優柔不断、不器用で

目標もない適当な生き方をしてきた・・。

そんな奴だと・・・。

(まさにその通りだ、図星だ)


小さい頃、俺はミスタープロ野球長嶋にあこがれて野球を始めた。

夢はプロ野球選手だった。

長嶋が引退した後、あこがれは阪神の掛布に代わった。

右投げ左打ちに変えたりした。


自分で言うのもなんだが、そこそこ上手く地元では知られた存在で

甲子園に出るような高校からもスカウトされるような存在だったが、

俺は地元の工業高校を選んだ。


母親を一人にすることはできなかった。

工業高校では建築科だった。

隣の家が大工でカンナで削る木の香りは心地よかった。


高校野球に打ち込み必死にボールを追いかけた。

しかし1年で退部した。


1つ上の先輩達が気に入らなかった。

俺より下手くそで試合に出たことなどない奴に限って

しごきと説教だけは毎日うるさい。

嫌気がさした。


監督には引き留められたが、言い訳を探して空手部に入部した。

・・・が1日も行かなかった。


仲間たちとたむろし、バイクを乗り回す毎日。

土曜日はたまり場になってる仲間の家で酒、たばこ、覚えたての麻雀・・。そんな事の繰り返し、いつしか卒業前になっていた。


クラスの奴らは進学する奴、建設会社に就職する奴と決まっていく。

俺はというとな~んにも考えてない何になりたいのか?

何をしたいのか?


そんな時、おふくろが死んだ・・・。

一人で俺や兄貴たちを育てた母親だ。


父親は俺が3歳の時、職場の事故で亡くなっているから

俺は顔も覚えていない。

長男は小学生の時病気で死んでるそうだ。

次男は今でも行方不明。


少し年の離れてた末っ子の俺を最後は一人で育ててくれた母親だ。


母はクリスチャンではなかったがなぜか?十字架を下げていた。

最後にその十字架を俺に渡した事は・・・憶えてる。

(そういやあの十字架どこ行ったかな?)

(車イスのこの女もぼんやりだが十字架らしきものを下げてるな・・・。)


ぎりぎりでなんとか高校を卒業した俺は、地元にいる意味もなく

適当に見つけた就職先が川崎の運送会社だった。

3か月で先輩社員とけんかしてクビになった。


寮は追い出されたがその時の彼女と一緒に住むことで

宿無しにはならなかった。

彼女は看護婦、夜はスナックでバイトしながら俺を食わせてくれた。


パチンコ屋に朝から並んで夜まで入り浸る毎日。

軍資金が無くなれば彼女が働く病院に貰いに行く。

(俺はヒモか?何やってんだ♯)


つくづく自分に嫌気と腹が立った。

(女に食わせてもらうなんて・・・。男がする事か・・・。)

また、言い訳を探して俺はそこから逃げ出した。


寮がある警備会社に就職しそこで先輩の井村茂貞に出会った。

気の合う先輩は初めてだった・・・。

(ホント、俺、何やってきたんだ?)


このお茶の味がその意味がすべてに当てはまる・・・。

苦笑いとため息しか出ない。


俺は男に聞いた。

「前世・・さん?」男は俺が何を聞くのか。

わかったような顔をして口角が上がった。


俺は続けた。

「だいたい分かったよ」

「初めて会ったあんたに恐怖や嫌な気分はしなかった」


「だから黙って着いてきたし、言われるがままあの“お茶”も飲んだ」

「だがあんたが俺の前世だという事は・・・。」


男は俺の話を左手の手の平で話を遮った。



「心三朗、俺は昔バイクが好きで毎日のように乗り回してた」

「そしてある日横浜からの帰り道」

「バイクに乗って川崎から府中街道を走ってた、家に帰る道だ」


「俺の家は奥多摩のさらに奥にある小さな村だから」

「そこからでもかなり遠い・・・。」


「川崎の中原、武蔵中原から溝口に差し掛かった辺りでの事だ」

(川崎の中原って俺が田舎を出て初めて住みだした辺りじゃないか)


「西日が正面から当たる時間帯でな」

「眩しくもあるが夕日はきれいだった。」


「そんな時突然、子猫を追いかけて女の子が飛び出してきた」

「その子を避けようと俺はバランスを崩し電柱に頭からぶつかった」

「当時はヘルメットなんかかぶらなくてもよかった時代だ」

「ほぼ即死だった」


「最後に見えたのは子猫を抱いたその少女の姿かな・・・。」

(俺が住んでた所と事故が起きた場所、近いな・・・。)


「似てるだろ?女の子をかばって死んだ俺と刺されて死にかけたお前」

(そうか、だから革ジャン着てるのか?バイク乗りだな)


男は続けた

「それとな、お前、左の脇にホクロがあるだろ?」聞いてきた。

(確かにある、米粒くらいのホクロが)


そういって男は左脇を見せた。

男にもあった。

俺のより少し大きい小豆くらいか?ホクロが・・・。


・・という事は?・・・・・・・?


俺は来世というこの女にもあるんか?

とおもい左脇を見ようとした瞬間

頭に“ゴッン”男がこぶしで叩いてきた、しかも左手で・・。


「何、すんだよ」

「そんなスケベなとこまで受け継がなくていいんだよ」って。

(B級コメディかよ)


「それに来世は、実体はない。見えてはいるが触れることはできない」

「なぜなら“来世”だから?」


来世は未来の事だから、それにこの女が俺の来世になるという事が

決定してるわけじゃない。

(そうか、仮の来世か?納得。)


男はさらに言った

「いいか心三朗、俺たちは神や仏ではない」


「だからお前のこれからの人生を上手くいくように、幸せに導いてやることなどはできない」


「時々現れることはあるが、話を聞いてやることぐらいしかできない」


「アドバイスも助言も、手助けもできない」

「全部、自分で良いも悪いも決めていくんだ」

「その生き方で来世のお前が決まる」

(俗にいう“徳”ってやつか・・・?)


「最後に言っておく」


「この喫茶店は表側の席へは普通に入れる、普通の喫茶店だ」


「だが、こっちの空間には普段は”3慈源”の・・・。」

「つまりお前たち現世の人間には入る事も出来ないし入口のも見えない」


「さっき話したようなことが起こった、人間だけが入ることができる」

「誰かに連れられてな」

「お茶は表側でも飲めるがな・・」

そう言って男と女は無言で消えた・・・。

(あれは?何だったんだ?夢だったんだろうか?)


舞が帰ってきた。

「しんちゃん買ってきたよLパンツ。中はS用!」

(そんなのあるか~)


「Mだって言ってんだろ!」舞は舌出して笑ってる。

(よかった~この子の笑顔を守れたって・・思った。)

(やっぱこれ?B級コメディだろ?)


病室のドアをノックし変な奴が入ってきた。

「コージ?」

「ユージだよ」っていつも間違える。(わざとだけど・・・)

こいつは“オカマバー”の女(男)だ。


「しんちゃん無事でよかった~」って股間をすりすり・・・。

「コラコラ、どこ触ってんだよ」って言ったと同時に

舞がユージの手をたたいて振りほどいた。


ユージは高校の修学旅行で同級生の男に無理やり咥えさせられたらしい、

それからそっちの方に目覚めたと・・。

前に聞いたことがある今じゃ、時々口さみしくなるらしい

(俺には一生わからん、こいつの話はこれで終わりにする)


「あ、そうだしんちゃん」

「しんちゃんの知り合いだって人、連れてきたわよ」


ユージがドアの外を手招きする

男が入って来た。


先輩だ・・・・・・。茂貞先輩だ。

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