とある眼科医は瞳フェチ

N 有機

瞳孔の黄金定理

 私は眼科で医者をしている目頭仁美めがしらひとみ、二十代後半。そろそろ理想の彼氏と結ばれて結婚までありつきたいという願望がにじみ出てきているの。


 でも正直こんなことを思う人がいるでしょ?


「医者なんだから金もあるんだし理想な人くらい捕まえられるでしょ?」


 なんてね……無理にきまってんだろ。


 好みの眼球を持っている人物に逢うことができるなんてそうそう無理よ。

 そういえば私はもう一つ別の仕事をしているの、それは……


 眼球愛好会I LOVE EYE会長


 なのよ。私は、誰よりも瞳を愛し、誰よりも瞳に厳しい女、それが私、目頭仁美。


 視力は両目で2.0以上、もちろん裸眼でよ。目の黄金比率1:2:1もいいけど私はもっと厳密に1:1.9:1がいいわ。その他諸々色々な条件を課しているの。私は絶対に理想の男を見つけてやるわ。


 診察の時間になる。私は視力検査をする人たちの声に心の高鳴りを覚える。

 今度こそ2.0以上の視力を持つ男は出て来るのかしら。


 さっそく大学生らしき男性の診察結果が出たわ。


『視力、右0.3左0.1』


「死刑」

「え?なんて……」

「ああ、ごめんなさい。なんでもないわ。目に悪い何かをしていらっしゃいますか?」

「え?スマホを五時間以上し――」

「島流しね」

「え?」

「いや、なんでもないです。ほどほどにしましょうね。いいですよ、診察は終わりです」


 私はスマホを憎く思うわ。あれがいなければ今頃私は理想のダーリンに逢えていたもの。


 くそ~何で全員の瞳の筋肉が硬直しているのよ~スマホめ、無くなっちまえ。


 何かもうこんなことを何年も続けていると麻痺してきたわ。どうでもいいわ生涯独身を貫こ。


 そして私は二人目の患者の診断結果を見る。すると私はその資料を落としてしまう。


 し、視力両眼0.00…1、どうして私の前に現れたのよ!!


「次の方どうぞ……」

「うぃ~す、こんちゃ~す」


 軽いやつね。あんたには百トンのメガネケースとLED付きメガネがお似合いだわ。


 目をライトを照らしたりして検査する。どうせこの人は私の理想じゃ……ん?これは、まさか!!


「……これは大病です。今すぐ大きな病院に行って下さい」

「え!?ちょっ、どういうことですか!?」

「うっせぇ、黙れ。目が見えなくなるぞ、眼球御陀仏!!」

「そ、そんな言わなくても……」


 そうして近くの大病院への招待状を渡して追い出した。さすがに瞳フェチだからって人の人生をコンタクトレンズが取れなくて眼球を傷つける現象みたいには絶対しないわ。


 そうして私はひと安心しながら診察を続けた。何にも収穫は無かったけども、それでも好きな仕事だからしっかり全うしたわ。ちなみに私はコンタクトレンズなんてつけたこと無いわ。怖いから。



 □一週間後□


 珈琲を飲みながら、私は始業までの時間を潰す。昨日も何かいいことがあったわけでもなく、ただなにも変わらない日々が続いていた。


 今日も一日診察頑張るか~と思いさっそく患者さんが来た。どれどれ、視力は……2.0!?キター!!!!


「こんにちはよろしくお願いします」

「!!……よろしくお願いします」


 なんて清々しい率先的な挨拶、これはまさしく目の保養がしっかりできているイケメンよ。


「先生、先日はありがとうございます」

「先日?診察されたのですか?」

「はい、一週間前に大病院へ招待された者です」

「え!?あの!!」


 目が良くなると人って変わるのね~やっぱり視力は良ければ良いほどいいわね。


「先生がいなかったら僕は……今頃目が御陀仏でした」

「いえ、治ったようで良かったです。診察始めますね」

「はい、わかりました」


 視力2.0は素晴らしいことだわ。でも比率は……1:1.9:1なのね!!素晴らしいわ。


「ここを見ていただけますか?」

「はい」


 内斜視の角度も私の理想!!なんてことなの。どの方向を見てもらっても私の理想の角度を安定して叩き出しているわ。恐ろしい魔性の男よ、この人。


「もしかしてですけど親御さんは……」

「ああ、父がマサイ族の血をひいています」


 キター!!マサイ族キター!!最近はスマホの普及で危ういけどマサイ族の視力がすごいは伊達ではないわ。


「嘘でしょ……貴方の目は私の求めていた完璧な比率の瞳!!好き!!」

「え?」

「そこのあなた!!名前は!!」

「滝口ですけど」

「貴方の目を見続けたいわ、付き合いましょう」

「え!?急になんなんですか」


 相手の困惑に我に返る。そうだ、しっかり説明しないといけないわね。


「貴方の瞳はとても綺麗。だからこそ私は思うのその瞳を見続けたい、綺麗であり続けてほしい。だから付き合ってほしいの!でも貴方の気持ちも大切、だから教えてほしいわ」

「えっと~気持ちは嬉しいですけど……できません」

「なっ、なぜ!!」

「だって貴女の……貴女の口の比率、僕の黄金比率に一致しないので駄目です!!ごめんなさい」

「グハァ!!」


 人には人それぞれの人に対する好みがあるのだとこの時、目頭仁美は知ったのだった。

 それから私は眼球愛好会として瞳孔の黄金定理、瞳フェチ増加を目的としたPR活動を推し進め、世界の容姿に関する基準の一つを確立させたのだった。


 

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とある眼科医は瞳フェチ N 有機 @nyouik_251

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