私の精神

ムケゲコ

第1話

愛が欲しいと思った。突然。欲しくてほしくてたまらなかった。夫はいたけど、夫の愛では無かった。他の人を好きになってしまった。「愛が欲しい」と、ノートに何百と書いた。「ブロークバック・マウンテン」という映画を見て、号泣したりした。自分のなかには愛が無かった。黒いゲロを吐いた。眠れなくなった。動悸が酷くなり、腕が痺れ、吐き気がして吐くようになった。希死念慮が酷くなって、首を吊ったが、死ねなかった。病院に入った。

そこでは、いきなり牢屋みたいなところに入れられたり、連絡手段が公衆電話だけだったり、食事のなかに陰毛がのってたりしたりと、びっくりすることがあった。こういうところもあるんだ…と、人生勉強になった。

退院しても、まだずっと、愛が欲しいという思いは存在し続けていた。ときどき号泣していた。なぜ、そんなにまで愛という抽象的なものが欲しいのか、未だに分からない。ただ、寂しいだけなんじゃないのか。

通院していて、主治医に陰性転移と陽性転移してしまい、非常に困惑した。陰性転移とは、嫌いな気持ちで、陽性転移とは、好きな気持ち。簡単に言うとね。

主治医に対して、愛が欲しいという思いが湧いて、でもそんなことは叶わないから、ただ苦しいだけだった。手紙をいっぱい送ってしまったけど、返事も来るわけなくて。

主治医が代わって、女性医師になってから、転移は薄れてきて、落ち着いてきた。

愛が欲しいという強い思いも、時間が経つにつれて薄れてきた。

号泣することもなくなった。

以前に比べたら感情がなくなったようなものだ。

夫と別れて、好きだった人に告白の電話をしてみた。妻子がいると言われて振られたけど、これで良かった。そのことを友達に言ったら、嫌われて絶交された。まあ、これも人生、仕方ない。

愛が欲しいという思いは、徐々に薄れてはいるけれど、私は愛の欠損を抱えたままだ。

しかし、心は穏やかだ、これで良いのかもしれない。

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