シカゴ・スピリット
骸骨
シーズン1
1.ザ・ファズ:エピソード1
この小説のヴィランが誰、いや、何であるかは読者の判断に委ねる。主人公や、価値観といった抽象的なものでも構わない。
1920年4月6日。
「何処で学んだのかと尋ねられる時、私はただ彼らを一笑に付す。私は真っ当な教育というものを信用していない。教室で1日足りとも過ごしたことのない私が、今やこの街で最も成功した男になっている。生産的に時を過ごせたはずの大人も子供も、本の上にかがみ込んでわずかな知性を掻き出すことを強いられている。学者先生は教えてくれないが、才能とは生まれながらにして持つものだ。微積分など知らない私が、この国でその種の最も大規模なビジネスを行っている。アフリカの部族の名前を全て挙げることはできないかもしれないが、指を鳴らすだけで人間の中と外とを裏返してしまうことができる。我々の為す奇跡が如何なる理論に基づいているのか科学的に説明することはできない。それは、誰にもできないことだ。私のビジネスでは、私もアイビーリーグの学生も、皆平等だ ― ものを言うのは力だ。私には、力がある。」
シカゴ・スピリットの創設者であり初代指導者のリチャード・デイヴィス・チャペルが言い放った。シカゴの昔ながらの廃工場で、拍手が響き渡った。俺も、その拍手に釣られて、手を叩いた。いや、釣られたのではない。拍手をせぬ者は出世ができないのだ。
俺の名前は、ドミニック・リッツォ。父親の教育に呆れて家出をしてから、犯罪に手を染めているろくでなしだ。父親の教育は、反犯罪的なイデオロギーを主軸としていた。俺の親友のレギーなんて、小学5年生で人にバットで致命傷を与えた大悪者だった。なのに、俺だけ高校生になっても犯罪に手を染めてられなかった。俺はいつも、犯罪を犯してやりたい。そう思っていた。父親の言い分も分かるには分かる。レギーは殺人をしたのにも関わらず、罪を免れたが、高校生になってからしっぺ返しを喰らった。彼は、シカゴ・スピリットに加入し、銀行強盗を行った際、警察に捕まったのだ。彼はシカゴ・スピリットの駒として使い果たされたのだろう。だが、俺は違う。俺は、夢である犯罪組織のリーダーを目指すため、数多くの犯罪に加担し、手を汚してきた。このままだと、俺は、シカゴ・スピリットの泥被り役に成り下がる所だが、俺は、レギーとは一線を画す行動に出た。俺は、シカゴ付近で暴れ回っていた警察の連中どもを取り押さえ、仕事仲間のガーフィールド・シュレイバーと共に徹底的に彼らを拷問したのだ。ここで終わらないのが俺の作戦の長所。俺は、自分だけが得をするために、シュレイバーまでもを拷問し、あたかも仕事仲間が警察に加担したかのように見せ立てたのだ。俺は、シカゴ・スピリット内で出世するため、ボスであるリチャード・デイヴィス・チャペルへの敬意を込めた拍手を欠かさず行っているのだ。
こうして父親のことを思い出していくと、記憶の断片として忘れかけていた父親の異常な性質までもを思い起こす。その性質とは、1日中俺にパスタを作らせることだ。今の話を聞いた者は、全員、1人のシカゴ住民の面白くもない戯言だと思うだろう。だがしかし、この話は本当なのだ。俺がまだ真面目だった頃の話。それは、俺が学校から出された微積分の宿題をこなしていた時に起こった。父親が、異常なスピードで俺の宿題を取り上げ、それをぐちゃぐちゃに破り切ったのだ。俺は、父親に言った。
「何故、宿題を破るの?」
俺の可愛げのある愛嬌が父親に効かなかった場合は、無言で涙を流し、父親に圧力をかけるのが定番だ。しかし、それでも父親は動じなかった。父親は、俺の開いた口の中に硬いパスタを入れ込み、「これを折らずに調理してみろ!」と無理難題を言い放ったのだ。俺は、怒りが限界まで到達したのか、その時、パスタを床に吐き、「それでも父親かよこの畜生が!息子の宿題とパスタを天秤にかけてみろ。どっちが優先だ?」勿論、父親は宿題を選択するだろう。俺がそう思っていたのも束の間、父親は真顔で、「パスタ。」と口にした。俺は頭の中がおかしくなりそうだったが、何とか自己解決をした。父親の言ったことは単なる親父ギャグだろうと。俺は、もう一回、父親に問いかけた。
「冗談は言わないで答えて。学校の宿題とパスタ。どっちが優先?」
父親は、ただ「パスタ。」と言い放った。俺は、「本当に?」と呆れた口調で言い返した。すると、父親が「本当だ。」と言い、「これからは午前5時から夜の3時までパスタを作り続けてもらう。漢の睡眠時間は2時間だ。いや、もっと少なくてもいいかもしれない。まあ、子供だから手加減してやろう。」と父親としての素質を疑うようなあり得ないことを言った。
俺はその後、特にカヴァテッリを作らされた。カヴァテッリとは、イタリアのパスタの1種で、ホットドッグのパンをとても小さくしたような形の貝殻に似た小型パスタだ。また、カヴァテッリは、リコッタチーズの入った1種のダンプリングの名称でもあるらしいが、その名称はそれほど一般的ではない。折角、パスタを作るならスパゲッティやロングパスタを作りたかったものだ。父親の異常なパスタ教育のおかげで、俺は次第に勉強が理解できなくなり、犯罪の道に進むことを決めた。ある意味、父は俺の道を切り拓いた者でもある。
俺が父親のことを考えながら、放心状態でいると、俺の頰に強い衝撃が走った。俺の頰には赤い跡が残り、痛みは消え去った。俺はビンタされた方向に向けて強く言い放った。
「やんのか?」
廃工場に声が強く響き渡ったと思ったら、俺の居場所は車のトランクの中だった。中古車を感じる車の中には、シカゴ・スピリットの構成員と思われる者が数多く座っていた。俺をビンタした方向に座っていた者に言い放った。
「名前は何だ?名前は!」
「ト、トミーだ。」
トミーたる者の外見は若干黒みを帯びていて、シカゴの住民らしくはない風貌だった。彼の髪は茶髪で、全方位に不自然に曲がっている髪は初めてのロン毛を物語っている。彼は臆病に見えるものの、筋肉質で体ががっしりしている。その特徴は、彼の着用しているスーツから見て取れる。目はギョロッとしていて大きく、熊顔である。また、眉毛は上斜めを向いている。眉毛の色は薄く、アジア人のような低めの鼻が彼をより一層臆病に見せる要因となっている。彼の口角から察するに、仕事場以外では陽気で、ノリの良い酒仲間としてバーで存在感を放つだろう。いつか彼とフォアグラを共に食べて禁酒法の上での飲酒を存分に楽しみたい。
「人に気安く触れるな。」
「貴方をビンタしたのは俺ではない。」
「なら誰だ?」
「ダルトンだ。隣に座っている面長の男だよ。」
俺は、トミーの隣にいるダルトンたる者に目をつけた。彼は前者と比べて鼻が高く、目の大きさも正常である。髪の色は前者と同じく茶髪で、喫煙者の顔をしている。彼の顔は長年のベテラン喫煙者の顔の特徴に全て当てはまる。いわゆる、スモーカーズフェイスだ。彼は若い年齢なのに35代程度に見え、目元や口元にシワが見える。また、顔の骨格が強調されていて、顔が灰色に見える。おまけに、彼はタバコを吸っていなくても口でその動作を行なっている。俺はまだ喫煙はしていないが、彼はかなりの重症だ。ダルトンはトミーの発言に気づいていないようだ。俺が言い放った。
「お前か?俺をビンタした奴は?」
ダルトンが几帳面そうな重みのあるしっかりとした声で答えた。
「俺ではない。お前をぶったのはお前の後ろの野郎だ。」
俺は、後ろを向いた。後ろに居座っていた男は、どこか見覚えのある顔をしている。前髪の寝癖だけ整えた特徴的な髪に、ガキを感じさせるチェシャ猫のような笑み。そして鼻の辺りにほくろと輝く青目。また、スーツ姿が似合わない犯罪組織の中ではごく稀な見た目。その時、俺の頭の中に彼について1つの仮説が浮かび上がった。俺が驚いたような声で言った。
「もしかして、お前は、レギーか?」
レギーと思わしき者が答えた。
「やはり、俺は、親友と運命を共にする道にあるのだな。俺ガレギーだ。まさか、お前もシカゴ・スピリットに加入するとは。最高だぜ!後で脱法バーに行って酒を飲み交わそう。そして、叫ぶんだ。シカゴ・スピリットと。」
俺は、レギーの脂っこい頰を思い切り叩いた。レギーの脂っこい肌が俺の手を滑らせ、ビンタが不発に終わった。
「少しくらいビンタさせろ!」
俺は、レギーの耳を2週間切っていない鋭い爪で引っ掻いたのち、彼の顎を心のゆくままに殴り続けた。レギーは、俺が彼の顎をながるごとに「アッパー!アッパー!」と連呼した。レギーが笑いながら語った。
「お前も変わったな。少し前までパスタばかり作っていたお前が、急に我を忘れて親友を暴行するような凶暴な野獣になるとは。」
「お前のガキ映画に出てきそうな顔が気に食わなくて仕方ねぇ。」
その時、明らかにレギーではない方向から強い拳を喰らった。痛い。長年拳の痛みというものを理解し、拳に耐え続けてきた俺が素直に痛いと思える拳だ。拳のスピードは凄まじく速く、俺に一瞬たりとも隙を見せない。ただしこの拳で血は出ない。明らかに、熟練者が力を調節した上での拳だろうが、この拳は何のために俺を攻撃したのだろうか。痛いが血は出ない程度の拳だとすると、注意喚起のための拳だと推測ができる。この面子の中で唯一権力を保持している者といえば、ローランド・マックデルだ。ローランド・マックデルはクールで自信に満ち溢れたような顔つきをしていて、危険な香りを感じるのが特徴だ。彼のかけているサングラスがその印象を高めている。彼は顎のラインがシャープで、角張った輪郭をしている。彼の髪色は金色で、サイドをすっきりとさせたオールバックの髪型をしている。ローランド・マックデルが強めの口調で言い放った。
「静かにしろ!お前らを
トミーは言った。
「黙れ!」
「その筋肉質の体。全く役に立たないな。アソシエイト如きがコンシリエーレに喧嘩を売るな。分かったか?」
俺は、自身が殴られた跡をトミーに見せつけ、トミーの怒りを抑えた。レギーが足を組みながら、生意気な口調で発言した。
「コンシリエーレ、今日のミッションは?」
「オーバーン・グリシャム地区のシカゴ市警察とのビーフ(抗争)とバトレッギング(酒の密輸ないし蒸留、製造)だ。」
俺のシカゴ・スピリットにおけるミッションは通常、このように進んでいる。俺はいつも、クリップという言葉を耳にすると、興奮状態に陥る。俺にとって犯罪行為は朝飯前の軽いものでありながらも、いつも俺に感動を与え続ける。
車は、錆びた音と振動音で騒がしかった。その上、ローランド・マックデルの怒鳴り声がトランク内に響き渡り、さらに音を増している。車の錆びた音から、この車が以下にパチモンかが推測できる。俺は、車のトランクを触り、車の材質を肌で感じ取った。この車の材質からするに、購入されてから何年も使用されず管理されていないフォード・モデルTだろう。管理が行き届いていない車での任務にローランド・マックデルが投じられるということは、彼はその傲慢さ故にリチャード・デイヴィス・チャペルから見放されていることを暗示している。ボーンズは言った。
「マフィアの醍醐味が揃いに揃ってる最高のミッションだ。」
ボーンズの顔はどこか暗く、目の奥に狂気を感じる。彼を見ているとどこか独特な雰囲気を感じる。その所以は、彼のサイドとバックを刈り上げていて、アンダーカットで髪を繋げていない髪型にある。彼にはスーツ姿より黒く破天荒な服の方が似合う。彼の声はとても低く、トランク内に響き渡る声だ。ボーンズが隣の男に声をかけた。
「起きろ。目的地へ移動する間も任務だ。」
寝ていた男は、目を擦り、眠い眉を開いた。彼は、周囲を見渡し、俺を凝視した。彼の顔の彫りは通常の西洋人と比べても深く、それにより発生する影が彼の青目を目立たせている。それを除いては、彼は通常の西洋人の顔とさほど変わらない。彼の茶髪は濃く、白い肌と対照的に見え、その茶髪を一層引き立たせた。
その様子を見た男が談笑し、彼を罵った。
「マフィアがトランクの中で爆睡?間抜けの行動にも限度というものがあるだろう。実に面白い。まさに無能だな。」
「俺が無能だと?コンシリエーレの話を聞いておいて俺に喧嘩を仕掛けてくる方が無能だろう。フラナガン。」
「俺を無視すれば良いのに。そうして反発してくるお前も無能だな。何故寝ていたのにコンシリエーレの話の概要を知っている?隣の男が垂れ流したのか?あぁん?ボーンズ。」
ローランド・マックデルは言った。
「オメルタ(暗黙のルール)を守れない野郎は全員、シカゴ市警察に突き出す。やはり、無能の寄せ集めユニットには|キアッキェローネ(お喋り)ばかりだな。」
俺たちに注意喚起をする前に自分の傲慢さを改めてほしいローランド・マックデルだ。彼はオルメタを厳守しない組織のメンバーを警察に突き出すと述べていたが、仲間を敵に突き出すことは
ローランド・マックデルの、自分自身を棚に上げた説教の後、車は目的地へと辿り着いた。振動ばかり起こし、振動音がトランクに響いていた車が急に止まり、車に負荷がかかった。ローランド・マックデルは、トランクのトランクリッドを開き、周りを確認した。流石、管理不備の車と言うべきか、トランクリッドを開くと金属が錆びた音が辺り一体に聞こえる。警察に我々の存在が明らかになりそうで仕方ない。トランク内には仲間の口臭で充満した汚い空気から、外の新鮮な空気が入れ混じり、汚い空気は外へと流れていった。ローランド・マックデルは言った。
「誰か様子を見て来い。」
その時、明らかにローランド・マックデルの機嫌を取ろうとしているシュルツが手を挙げた。シュルツは、トランクから地面目掛けて勢い良く飛び降りると、真剣な目つきで辺りを見回した。シュルツは、ローランド・マックデルとアイコンタクトを行った。ローランド・マックデルは言った。
「外は安全だ。一同、外に出ろ。」
ローランド・マックデルの合図で真っ先にトランクから飛び降りた男は、着用しているスーツがふやけていて、ベルトが若干外れていた。彼の肌はオリーブ色だ。その特徴は大半のイタリア系移民と共通している。彼の目は大きく、その上の太くて濃い眉毛も目と同等の存在感を放っている。何より、彼が微笑んだ時、彼の筋肉が大いに動いた。彼の表情筋は驚異的な柔軟性を持っているに違いない。彼は微笑んだ後、トランクの方を向いて、俺たちをジェスチャーで煽った。その時、彼の靴が道のアスファルトの尖りに引っ掛かり、彼は転びそうになった。一瞬のことだった。彼の空間が歪みくねったような様子に変貌し、彼を元から転ばなかったように見立てた。いや、そうしたのだ。よく考えてみると、いくら無能の寄せ集めユニットだとしても、ユニットにら1人は現実改変者がいなければユニットは成り立たない。そのため、彼は現実改変者であることが分かる。原則、現実改変者は名札を必ず着用しなければならない。俺は、彼の名前が気になり、彼の名札を除いた。名札には、ローレンス・アンソニー・アマトと記されていた。名札の文字は印刷製ではなく、油染みた古いペンで書かれたものだ。名札に染みている薄汚れた油がそれを示している。
その後、ボーンズ、ロビンソン、レギー、ダルトン、ドミニック、トミー、フラナガンの順番で狭苦しいトランクから飛び降りた。ローランド・マックデルがダルトンを指差し言った。
「ダルトン、トランクに積まれている密造酒の入ったスーツケースを運べ。そして車体に寄りかかって辺りを監視しろ。」
ダルトンはローランド・マックデルの指示通り、ルイ・ヴィトンの「マル・オー」と酷似した所々設計の悪さが垣間見えるスーツケースを持ち上げた。そして彼は車に寄りかかった。
ローランド・マックデルを中心に、一同は横に広がって進み始めた。久々のアスファルトの感触を革靴で嗜みながら、ローランド・マックデルの後に続いて歩みを進めた。オーバーン・グリシャム地区の澄んだ空気が体の隅々まで行き渡る。
霧で霞んでいた警察署が視界に現れた時、ローランド・マックデル目掛けて銃弾が2発、間を置いて放たれた。ローランド・マックデルは、左手を地面に置き、右手をそれよりも前に置いた。この時点で彼の意図は見抜かれた。彼は、側転蹴りを行おうとしている。しかし、既に彼の腕前は発揮されている。側転蹴りの段階で1発目の弾を避け、その後、側転蹴りの勢いに倣って2発目の弾を手で掴み取る。彼がコンシリエーレに就任した理由は、彼の動作が全て合理的だからだ。彼の動作は一見、意味のないように見えるが、彼は、裏でその全てに意味を見出している。シカゴ・スピリットのコンシリエーレの技を見抜けないということは、彼は、巡査程度の存在だろう。
巡査は、彼の避け技に動揺したその隙を狙って、ローランド・マックデルは懐から素早くハンドガンを取り、引き金を引いた。彼の弾丸は巡査の胸にヒットし、彼の胸から大量の血液が迸った。
警察は愚鈍ではない。巡査が死亡することは事前に予定されていただろう。恐らく、巡査が死亡した後、速いスピードで警察の作戦が遂行される。
ユニットがトランクで目的地のオーバーン・グリシャム地区に向かっていた頃、警察は既に作戦を進めていた。ウィリアム・フォード署長は、テーブルに置かれたシカゴの地図を眺め、インクで汚れたペン入れから赤いペンを取り出し、オーバーン・グリシャム地区にマークした。
その後、床が軋む音と共にスコット・アイゼンバーグキャプテンが署長に一礼してから、署長室に入った。彼は、筋肉質の体型で、背中に高精度なアサルトライフルを装備していた。顎の筋肉ががっしりしていて、部屋にただ佇んでいてもオーラを隠し切ることはできない。フォード署長の長年のオーラと彼のオーラが互いにぶつかり合い、署長室の緊迫とした空気を最大限まで高めている。フォード署長が心の中の怒りを抑えて言った。
「何の用だ?」
「チャタム地区にシカゴ・スピリットの組織員が乗車しているであろう車が西を目掛けて進行中です。」
「確証は?」
「車のトランクを覆うボロボロで濃い緑色の布に、薄く十字とSのロゴが記されていました。」
「両方のマークは上下関係で描かれていたか?」
「はい。」
「シカゴ・スピリットも今日で痛い目を浴びるに違いない。」
署長は、制服をめくり、肩の大きな傷を見て言い放った。
「我が署は、ドミニック・リッツォたる者により壊滅寸前の状況に置かれた。今度は、我々がシカゴ・スピリットを壊滅寸前に、いや、壊滅させる時だ。」
「しかし、計画はまだ立てられていません。」
「あの惨劇の後、妻を失ってから私は、いかなる時も準備万端の状態で攻撃を仕掛けられるよう、様々なシナリオを練った。計画は既に何通りも存在する。」
「では、一刻も早く、その計画に取り掛かりましょう。」
「勝率は45%か。この署が日の目を浴びる日もそう遠くない。では、プロジェクトNo.71を実行する。」
フォード署長は、部屋の警察署内の監視カメラ映像が全て映ったモニターを見て、署内放送のタイミングを見計らった。数秒後、彼は、マイクに口を近づけた。
「全職員に告ぐ。悪名高きシカゴ・スピリットの面々(推定10人)が署に迫っている。筆頭はコンシリエーレのローランド・マックデルだ。全員、スマートフォンに配布されたファイルの通り、作戦を進めろ。」
ローランド・マックデルは、銃を構え、慎重に前に進んだ。ローランド・マックデルは左手を後ろに引っ込め、単独で警察署まで歩いていった。ロビンソンやレギーもそれに倣って、様々な箇所に散らばった。俺は市街地の電柱に隠れながら、遠回りで警察署を目指した。俺は、銃をリロードしながら、弾倉にこびりついた埃を指で拭き取った。
俺は歩みを進め、住宅街の壁に寄りかかって辺りを見回した。警察署からは、複数の入口から数人の警部補らが出所した。彼らは、壁に寄りかかって辺りを監視していた。俺は、壁に立てかけてある梯子を登り、スナイパーのような態勢になった。遠くに、木に隠れながらハンドガンを構えるローランド・マックデルが見える。ローランド・マックデルは歩みを進め、警察署に近づいた。その瞬間、1人の警部補が彼の存在に気付き、ハンドガンから弾丸を発射した。彼は素早く引き金を引き、警部補に弾丸を命中させた。彼はその勢いで、他の警部補も銃殺した。
ボーンズは早歩きで警察署に向かい、アサルトライフルで警察署の扉を破壊した。警察署内ではサイレンが鳴り響いた。数秒後、1人の巡査が扉の前に立ち、言い放った。
「今すぐここから出て行け。一同、直ちにローランド・マックデルを捕ら…」
ボーンズは、巡査を少し遠くから撃ち抜いた。その後、警察署の右扉と左扉から約12人ずつ巡査が出所した。それぞれハンドガンを構えていた。ざっと24人の巡査は警察署を取り囲んだ。そして、中央の破損した扉から、アイゼンバーグキャプテンが顔を出した。
レギーは、電柱と木が交わる交差点に待ち構えていた。彼は、ハンドガンを巡査に連射しながら、警察署に近づいた。しかし、数人の巡査が一斉に彼を射撃し、彼の体は銃創だらけになり、彼はそこから血を流しながら地面に勢い良く倒れ込んだ。その様子を見た俺は落胆し、腰を抜かした。俺はハンドガンを地面に落とし、彼の死体の方角に体を傾け、十字架を切った。
俺たちは状況を見計らいながら、巡査らを狙撃するタイミングを見計らっていた。ボーンズは支給されたアサルトライフルで巡査を4人撃ち抜いた。巡査の威圧的な目線が彼に向き、巡査が彼に向けて弾丸を放った。彼はその弾を避けた。
長いこと続く啀み合いが退屈で仕方なかった。レギーの仇を討てないなんてまっぴらだ。俺は持ち場を離れ、ダルトンが監視している車へと歩みを進めた。ローランド・マックデルを俺に
「何故戻ってきた?まだ抗争は続いているはずだぞ。」
「俺が今から抗争を終わらせるんだ。」
俺は、トランクを開いた。金属の錆びた音が耳に響く。俺はトランクの中に収納されている銃を漁り、マシンガンを手に取った。
「おい、マシンガンか?」
「レギーが殺された。復讐だ。」
「酒を一杯飲むか?」
ダルトンがそう言い終わる頃には、俺は持ち場に戻っていた。俺の隣にいたロビンソンは言った。
「何故持ち場を離れた?離脱行為としてボスに言いつけるぞ。」
「奥にローランド・マックデルがいるだろ?既に明らかになっているさ。」
俺はそう言うと、背中に背負っていたサブマシンガンを手に取り、巡査目掛けて乱射した。予期せぬ射撃にアイゼンバーグキャプテン含め多くの警察官が倒れ込んだ。残る巡査の数は指で数えられる程度に落ち着いた。ボーンズは不適な笑みを浮かべていた。
一同は警察署にさらに近づき、警察署を包囲した。流石は警察というべきだろうか、巡査は各方角に散らばっていた。俺は、北東の方角を目指して歩みを進めた。他の者も残る巡査を始末するため動き始めた。
俺は、突き当たりの交差点にて、どこか見覚えのある指導巡査を発見した。指導巡査は逃げようとしたが、動きを止めた。俺は彼にハンドガンを向けたが、指導巡査はその手を強い力で掴んだ。その瞬間、俺の手からハンドガンが落ち、アスファルトと強く衝突して砕け散った。俺は、指導巡査を睨みつけた。俺は彼の顔をまじまじと眺めた。その内、彼の顔に既視感が湧き始めた。非常にはっきりとした彫りの深い顎のライン、下向きに弧を描くような形の眉と透き通った、アクアマリンのような青色の瞳。そして、威圧感と優しい表情の2つの印象が浮かぶ顔。俺は記憶を辿った。すると、少し前まで、記憶の中に指導巡査のような顔をした者が俺と関わっていたことを思い出した。俺は、彼がガーフィールド・シュレイバーだと気づいた。俺は思わず口を開いた。
「お前は、シュレイバーか?」
「お前を殺せる日を心から待ち望んでいた。」
「警察に加入したのか。なのにまだ指導巡査か?俺に倒される並大抵の敵と然程変わらないということだな。組織に所属したら手段を厭わず出世するのが掟だろ。お前には警察はまだ早いようだな。」
「黙れ。」
「おい、ちょっと待て。お前のその牙は何だ?」
「感染症とでも言っておく。お前の人生はこの牙により終わりを迎える。」
ガーフィールド・シュレイバーは左右に1本ずつ生えた3㎝のキチン質の牙で俺の腕を引っ掻いた。俺の肌から血が流れ、重力でその血が床へと落ちていった。俺は痛みに耐えながらも、彼を押し倒そうと啀み合いを続けた。その後、彼は唸り声を上げてから俺を再び殴り、俺を地面に叩きつけた。そして、彼は右手に持つハンドガンを俺の顎と首の境目に当て、引き金に指を置いた。その時、銃声が響いた。俺は、地面に強く倒れ込んだ。しかし、俺の首の辺りからは血が一切流れていない。それに加えて、痛みも感じない。逆にガーフィールド・シュレイバーは体から血を流し、俺と同じく地面に倒れ込んでいる。
「歴史は繰り返す。」
ローランド・マックデルはそう冷たく言い放った。この時、俺は状況を把握した。ガーフィールド・シュレイバーはローランド・マックデルの手により銃殺されたのだ。俺が冗談混じりに言った。
「これほどまでにタイミングが良いことはあるのか?」
「俺のおかげだ。」
若い男性の声。その声の持ち主は、ローレンス・アンソニー・アマトだった。俺が思うに、彼には確率を操作し出来事を出来るだけ良い方向に進める能力がある。確率に干渉する類の現実改変能力を彼は保持しているに違いない。巷では彼にはより広義な現実改変能力があると噂されているが、それは大きは誤解であると俺は思う。いずれにせよ、彼の力は強大である。名付けて、テュケキネシスだ。
俺とガーフィールド・シュレイバーが抗争をしている間、警察の連中は全員、倒されていた。一同はローランド・マックデルを中心に警察署に戻り、死体を眺めた。その事態の中には、ロイヤル・グリーンフィールド巡査部長も混じっていた。やはり、警察は我らがシカゴ・スピリットの勢力の前には歯が立たないのだ。
フォード署長は、警察の機動部隊が壊滅した様子を署長室から監視カメラを通して監視していた。彼は、自らの鼻根部を摘み、テーブルを強く叩きつけ、頰を噴火直後の溶岩のように赤らめて感嘆の感情を漏らした。
「何故彼らはいつも勝つのか?!この腐りに腐り切った世界の正義は、毎回踏みにじられる運命にあるのか?!汚物が手つかずで這い去るのを見るのはうんざりだ。それらのクズは、空気、慈悲、または言い訳に値しない。私は、彼らを刑務所という名の人工的な地獄に引きずり込み、彼らに絶対的で、容赦なく、忘れられない罰を刻み込んでやる!」
フォード署長は、署長室を後にし、隣の武器庫にアクセスし、白く描かれたロゴとSCP財団という文字が記された武器庫の銃の数々を全て力強くで取った。そして、彼は怒りに任せて金庫をこじ開けた。彼はそこから、プロメテウス研究所より警告、この血清は試作品です、と容器赤く記された緑色の血清が注入された注射器を手にした。彼は、その注射器を強く握り、まじまじと拝見した。彼は金庫の上に注射器を置き、床に跪き葛藤の意を示した。しかし、彼は、再び立ち上がり、理性を失ったかのように緑色の血清を注射した。その瞬間、彼の体の中に未知のタンパク質が流れ込み、注射された抗体が体内の組織に結合し、彼の身体能力を飛躍的に高めた。
彼は、アサルトライフル、ハンドガン、リボルバー、サブマシンガンを装備し、武器庫を後にした。そして、彼は、階段を疾風のごとく駆け、警察署の扉を開き、シカゴ・スピリットの前に立ちはだかった。それに反応したローランド・マックデルはすぐさまハンドガンの引き金を引いたが、彼はその弾丸を体で弾き返した。一同は少し距離を空けて署長に銃を向けた。
署長は、アサルトライフルを右手に、サブマシンガンを左手に持ち、怒り狂ったように乱射した。一同は射撃されないよう、後退りをしま。俺は、戦いに目覚めた右手を強く握り締め、革靴の砂を叩いた。俺は、ハンドガンで彼の頭に狙いを定めた。俺は、タイミングを見計らって、引き金を引いた。その直後、俺は、彼のアサルトライフルとその近くに装備されているリボルバーを弾丸で破壊した。
彼の頭からは大量の血が迸ったが、彼はその傷を数秒で完治し、頭部は元の状態に戻った。彼は、破壊されずに済んだサブマシンガンを構え、全員に狙いを定めて乱射した。だが、彼の計画性のない弾丸はボーンズの革靴にしか命中しなかった。
数秒後、彼のサブマシンガンの弾は尽き、彼の武器はハンドガンしかの残っていなかった。彼は溜息をつき、力強くでハンドガンを破壊した。ローランド・マックデルやフラナガンはその様子を見て談笑していた。しかし、事態は思わぬ方向に展開した。フォード署長は、怒り狂ったように唸り声を上げてから、ローランド・マックデルに攻撃を開始した。
ローランド・マックデルは肘で彼の胸を叩くなどして応戦したが、彼は常人では出せない力で彼の胸を殴り、ローランド・マックデルを気絶させて蹴飛ばした。その様子を近くで見ていたフラナガンは、彼の顎を殴りハンドガンを撃つなどして応戦するも、彼に首を掴まれ重傷を負ってしまった。トミーは彼を遠くから射撃するも、彼には効かなかった。彼は人では出せない速さでトミーの元に駆けつけ、彼を地面に叩きつけてから執拗なまでに殴りを続けた。その様子を見たダルトンはスーツケースの破損部分を手で抱えながら遠くに隠れた。その様子を見兼ねたロビンソンはメリケンサックを装備した拳で彼の背骨に殴りかかった。ロビンソンとシュルツは力技で彼を捕えた。しかし、その背骨はみるみる再生していき、彼はノールックでロビンソンとシュルツを蹴飛ばした。
このまま立ち尽くしていても時間の無駄だ。俺は、そう考え、隣で彼に怯えていたローレンス・アンソニー・アマトに語りかけた。
「お前のテュケキネシスを利用して彼を蹴飛ばそう。」
俺はローレンス・アンソニー・アマトを後で殺すつもりだったが、彼の能力を危惧してそのプランを撤廃した。ローレンス・アンソニー・アマトはただ指で了解の意のジェスチャーをし、フォード署長に殴りかかった。フォード署長は彼の腕を掴み、彼を持ち上げた。その瞬間、俺はナイフを取り出し、フォード署長の胸を抉った。そして、俺はフォード署長の傷口に手を押し込み、体内で音を鳴らす心臓らしき臓器を発見した。俺は右手に力を入れてその心臓をフォード署長から取り外した。彼は、生気を失い後ろに倒れ込み、心臓は再生することなく死亡した。彼に持ち上げられていたローレンス・アンソニー・アマトは地面に叩きつけられた。その様子を眺めていたローランド・マックデルやダルトンらユニットのメンバーは不的な笑みを浮かべた。その中でトミーだけは何ともいえない表情をしていた。恐らく、トミーは俺の作戦に気づいていたのだろう。
俺はレギーの葬式を終わらせてから家の床に座って考えを張り巡らせていた。
俺の母が勤めていた会社はクソだった。上司は絶対的存在で、カリスマも何も感じない権力に縋るだけの畜生だった覚えがある。会社は終身雇用が前提で、会社を辞めることは裏切りに値した。俺が母に心配をかけても、会社はもう1つの家族だからとしか答えない。母の免罪符だ。次第に母は、家族や個人よりも組織を優先する生きた屍へと変貌してしまった。つまり、会社は、身の安全と引き換えに自由を差し出す場所なのだ。
一方、マフィアは、表向きは暴力的で違法行為に手を染めてばかりいると思われている。実際そうだ。しかし、マフィアを批判する奴らはマフィア社会の内側を知らない。マフィアに加入することも、脱退することも個人の自由で、脱退しても仕事への姿勢を死ぬまで評価される。マフィアへの忠誠は強制ではなく契約だ。何より、マフィアは家族という言葉を安売りしない。
つまり、皮肉が生まれる。合法な社会の方が不自由で、非合法はマフィアの方が自由なのだ。母は会社を人生にした。俺は、母を反面教師に、マフィアを人生の1部として利用している。合法か非合法かで決めつけてはならない。自分の意思で道を選べるかどうかこそが自由のなのだ。だから、俺は、マフィアに居続ける。そして、マフィアで功を上げる。
だがしかし、その理由だけで国家を敵にするのはおかしいと思う輩が何千、いや、何万といる。強ちその考えは間違っていないが、物事を俯瞰的に考えれば済む話だ。
国家は言う。「君は自由だ。」ただし、その自由とは、限られた枠の中で、時間に制限され、違反は取り押さえられる自由だ。自由は制限があってこそ成り立つものだが、国家はそれを履き違えている。
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