無知の知

第1話 無知が見る世界



人が死ぬ瞬間は人それぞれで、全てを成し遂げ満足を持って逝く者や、その反対で何も成し得なかった理不尽と不満に満ちて逝く者も、不満も満足もなく中途半端に逝く者もいるのだろう、そんなことを考えたのは、自分の今の状況からだろう。

「.....まだっ!...死..ねな...い!」

自分のすぐそばに死がいれば、不満を持つ者は離れようと文字通り必死に抗うのだろう、現に自分もその一人だ、何故こうなったのか?自分には何が足りなかったのか?自問自答を繰り返す中、''また''自身が事切れることを悟りかけた時だった。

ドコドコドコドコドコ…

足音...?いや、人の足音と人じゃない足音、両方聞こえる、助かるのか?死ぬのか?なんでもいい。誰か、助けてくれ。

「.....生存者!!?くっ!直ちに魔物を駆除する!!ミラ!彼の治癒を!!」

話は少し前に遡る




~





俺は高校一年G高に通う厨二病が悪化した一般人だ、厨二病が悪化しているからといって友達がいないわけでもなく、自分基準だが周りとはうまくやれている…と思う。そんな中高校初の夏が始まった。


「おーい!結人!!それ部室に運んでくれー!」


「わかった!このかごでいいか!?」


「そう!」


波川結人、俺の名前、親が人と人との関係を多く結んでほしいという思いを込めてこの名前をつけたらしいが、男に結は少し可愛らしくないか?そんなことを思う俺は時代遅れなのだろう、きっとそうだ、でも今はそんなことはどうでもいい、早く部室に行こう。


「よし!ご苦労!それでは練習を始めるぞ!」


この人は月原唯出(つきはらゆいで)二年の先輩で自分と同じ「ゆい」だからとよく面倒を見てくれる、普通に優しい人だ、同時に部活動での俺の今の目標でもある。一年でG高シングルス二番手になり県大会でも他校の三年を押し退け1位、ブロックでは足の不調で予選を辞退したものの、おそらく出ていれば全国出場は確実な人だ。俺はこんなすごい人と共に練習している。



練習後~



「結人、来週ブロックは補欠だそうだ、」


「え……はい、補欠ですか?」


「あぁ、あんなに頑張ってたのに、惜しかったな」


「…いや!僕は一年なので!むしろ補欠でも出させてくれることがありがたいです!!先輩も!ここ一年での練習の成果、見せてきてください!!」


「ああ!!結人の分も勝つさ!!」


「だか今日はもう帰るぞ!休息も大切な練習だからな!」


「はい!」


この人は強い、テニスの腕前だけじゃない、誰にも屈しない精神、自分をどこまでも追い込むストイックさと自身の限界を知ったからこそ常に自身の状態を知る分析力、テニスだけじゃなく、この人は「人」として強い、だからこそ今の俺の憧れだ、俺もいつか、先輩みたいに心も体も、強くなりた

「結人!!!!危ない!!」



ドッ




目覚めて最初に感じたのはすごく気持ち悪い焦燥感だった。自分は轢かれて、全部が台無しになったと意識が混濁する中、その焦りと生きていた世界への未練が自分の心を蝕んでいた。だがそれならおかしい、何故俺は考えられる、何故俺は直前までの記憶を持っている?死んだんならもう俺は何も残らないんじゃないのか?そう言う疑問の中、微かに声が聞こえた


『面白いな、世界というものは、再度お前のような魂に会えるとは、次は最後まで、共に征こうぞ、異分子(イレギュラー)』









そんな言葉が聞こえた後、俺は今、雲ひとつない青空と、人工物の気配ひとつない草原の上に立っていた。



「......ぁあ?」


なんだ、ここ、俺って轢かれて多分病院に行ったんだよな?

なんでこんな草原の上に立ってるんだよ、

体はいたって健康、傷一つなしの健康体、だからこそ自分の直前までの現象から現代を見てきた俺は一つの結論を出そうとしていた。


「...!......いやいやいや、こんなこと現実で起こり得るわけない、所詮は人の想像の産物、『異世界転移』なんて、あるわけがない!」


「いや、これが自分の心象情景で今は目覚めないことで見れている可能性は、ある…か?」

そんな超常を否定しようとこじつけで理解しようとしているが、自分はその事実をその身で理解しようとしていた。


「とりあえず動くことはできそう...だな、何か探すか」

そう、何も情報がなければ何も始まらない、自分に置かれた状況を理解するため、その体はすでに動き出していた。


移動中


「…なんだよ、俺の心象ってこんな歪なのか?」


そこにはまるで草原の緑を拒絶するように反転した色の、言うなれば『魔界』が局所的に存在していた、


「...まぁここは避けるか」


呼称『魔界』を避け、迂回して先にゆこうとしたその時

ガァァァァァアアアア!!!!

どす黒く、見ることも億劫になるその紫の草原から生まれるようにその異形は俺の前に立ちはだかった。


「!!?」


困惑した。目の前にある事実のはずの光景、夢であれ、自身の空想であれと願うように思考していた頭は、その痛烈な衝撃によって、その事実を受け入れた。


ポタポタッ...


「ぁあ、ぁぁああああああ!!!!!」


ガァァア!!

ザァン!!

「ぁあああ!!はぁぁあっ!!はっ!はぁっ!!」

痛い!!くっそ!なんで!なんだよあれ!!


ガァァァァア!!


ザシュッ…


...死ぬっ!心の中でも死ぬ!!いやだ!まだ生きれるかもしれないのに!!なだ何も成してないのに!!


____その時、完全に痛みと死へのさらなる焦燥感によりまともな思考ができない自分に重く、同時に懐かしく感じるような声が響く


『もう死にそうになるとは、【異分子】よ、本来今は馴染ませるの期間だが、仕方がない、借りよ、そして唱えよ、『光擁』と』


疑問も恐怖も、より強い死を目の前にしたとき、その全てがなかった。迷いも疑問も捨て、囁かれた文言を自分は唱える


『光擁』


読み終わった後、自分が光に包まれたかと思うと、すでに全身を灰燼とされた骸が自身の目の前に横たわっていた


「…あー!!もう何が何だかわかんねぇ!!なんだよ夢みたいなもんだからなんでもありってか!?突然人面熊は出てくるし!よくわかんねぇ声も出てくるし!!『光擁』って唱えたら目の前の怪物は死んで俺の怪我は治ってるし!!」



「もう意味わかんねぇー!!!」



少しして


「...ふぅ、少し、落ち着いたな、」


整理しよう、探索していたら紫の草原に淀んでる?ような空気で避けてみたら、そこから人面熊が出てきたと思ったら、謎の声と『光擁』とかもう完全に心象とかの次元超えてる。ほんとにしたのか『異世界転移』を、


「...確かに、実例はある、」


そう、実例はある、人間の空想だと思われていたものが実は本当に存在していたという実例、代表的なのはアインシュタインのブラックホールの話。アインシュタインはブラックホールが存在していることを予想していたが、生きているうちに発見されることはなかった。だが、実際にいつかは忘れたが、観測技術の向上に存在を発見した例。つまり人間の知らないものだとしても、時に予測と仮説で導き出していることもある。ならばこれもおんなじじゃないのか?


「...痛い」


ほっぺをつねったら当然痛い。さっきも痛かったし当然か。


「とりあえずほんとに転移したなら何かしら人の痕跡とか村とかを探してみよう」


何か、行動しないと、人を、見つけないと、改めて自身の置かれた状況に恐怖心が芽生え始めた。



夕方ごろ



「はぁ、はぁ、何も…ない!水を半日飲まないで歩き続けるってこんな大変だったのか」



その時、唐突に目の前に現れた“それ”に俺は反応することもできなかった


ザッ!


「………!?」


俺を刺したかと思えば次の瞬間には過ぎ去っていた、何も気づかなかった、まるで認知できない意識の外から無理やり存在が捻じ込まれたような異物感の残穢が、おどろおどろしく眼前に残っている。


「…ぁあ、まだ死にたくない」


くっそ、現実を飲み込もうとした、自分の中のオカルトでもsfでも厨二病でもなろうでも独自の解釈だろうとなんとか今を受け入れたかった、これからまだ生きることができるって、何も成せてない“子供”から何かを成せた“大人”になれるって…本当にまだ淡い希望に縋っていたんだ!!それが、なんで!!


冷静になってしまう、二度も死の淵も経験しているからこそ何かしら手があるのだろうと、あの声がなんとかしてくれるだろう、死んでもまたどこかしらに征けるのだろうと、期待してしまう、その先に何も存在しない、暗い闇の、絶望のどん底だとしても…


人が死ぬ瞬間は人それぞれで、全てを成し遂げ満足を持って逝く者や、その反対で何も成し得なかった理不尽と不満に満ちて逝く者も、不満も満足もなく中途半端に逝く者もいるのだろう、そんなことを考えたのは、自分の今の状況からだろう。


「……まだっ!…死 ねな…い!」


自分のすぐそばに死がいれば、不満を持つ者は離れようと文字通り必死に抗うのだろう、現に自分もその一人だ、何故こうなったのか?自分には何が足りなかったのか?自問自答を繰り返す中、''また''自身が事切れることを悟りかけた時だった。

ドコドコドコドコドコ

足音...?いや、人の足音と人じゃない足音、両方聞こえる、助かるのか?死ぬのか?なんでもいい。誰か、助けてくれ。


「………人!!?...くそっ!直ちに魔物を駆除する!!ミラ!!彼の治癒を!!」

その声に安堵し、深く意識を沈めた…




___俺が次に目を覚ましたのは、2日後だった。



「無知が見る世界」完

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