「迷い込む影」

人一

「迷い込む影」

「やばいやばいやばい、本当にやばいことになった。」

俺は縛られ猿轡を噛まされ、なにかの台に載せられていた。

なぜこうなったのか……それは、遡ること数時間前になる。


~~~

俺は雑誌記者をやっている。

ノノマっていう3流オカルト雑誌だがな。

なんでも編集長が失踪して廃刊になる予定が、読者の変な人気により畳めず他の部署で腐ってた俺があてがわれたみたいだ。

オカルト雑誌なんて、興味無かったが実際取材してみると、これまた面白い。

超常現象に遭ったことはないが、十分にその雰囲気は味わえてるし本文も前より筆が乗ってる気がする。

まぁ、そんなわけで俺は取材のためにとある廃村に来ていた。


「ここが桵栄村か。恐ろしい儀式が行われてたって噂の……」

村の見た目は、外観は至って普通の村。

廃村になって長いのか、草木に侵食され所々崩壊しているが、何十年も前の様子が見てとれる村だ。


――ガシャッ、ガラガラガラ

近くにあった民家の扉に手をかけたら、あっさり開いたので中を見学させてもらう。

「へ~中ってこんな感じなんだ。他の村とそこまで変わらないな。」

埃と草木に覆われた居間、朽ち果てた土間など廃村ならよくある光景だ。

「あっ!本が、これは日記か?あっ……くそっ……」

持ち上げた瞬間ボロボロと崩れてしまった。

紙片を拾って見ても、掠れていたり汚れていたりそもそも消えていたりと崩れなくても内容には期待できそうになかった。

「他のところ見てみるか。」

そう言って民家を後にした。


目に付いた建物に近づいた。

「ここはなんだ?」

――ガラガラガラ

「だ……がし屋か?と言ってもお菓子はもうないけど。」

昔ながらの駄菓子屋の店内、ここも草木に呑まれているが風情はまだ残っている。

「駄菓子屋か……子供の時にも来たことなかったな。」

古いレジが開いていたので中を見ると、硬貨はともかく見た事ないお札が数枚入っていた。

「この札なんだ?これ1円札って奴か?見た事ないな……この村何年前から止まってるんだ?」

店内を写真に収めたら、そこを後にした。


次に目に入ったのは、この村でも一際大きな建物だった。

集会所だろうか、近づいて中に入る。

ここに入ったのが1番の間違い、俺の運の尽きだった。

「広いな、2階は……無いのか。」

中は大きな玄関を抜けるとだだっ広いホールがあった。

「体育館よりかは狭いか?でも、村の規模感の割に結構デカいな。」

ただ広い、それだけで他に目ぼしいものはなかった。

「特に収穫なしか。」

――ガラガラガラ

カメラを確認しながら外に出ようとしたら、

――ドンッ、ガチャン!

ぶつかってカメラを落としてしまった。

「あっ!カメラが、じゃない。ごめんなさい!前を見てなくて……え?」

人?人とぶつかったのか?こんな廃村で誰と?

恐る恐る顔を上げると……そこには大男が立っていた。

顔はボサボサの髪に覆われ見えない。

服もボロボロでハエがたかっており、その手には大きな袋が握られている。

「え?え?え、だ、誰だ?どうしてここに――ウッ」

いきなり頭を掴まれ袋に詰め込まれた。

「おい!なにすんだ!出せよ!ここから!」

男は担いで歩いているのか、不自然な揺れの中暴れる。

拘束されてないので、出れはしないが殴る蹴るの大暴れだ。

男はそれでも、こちらのことを意にも介さず進んでいる。

「おい!出せったら出せよ!ってうわぁ!」

唐突な浮遊感に肝が冷える。

そして、

――ドカン!

「ぐはっっ、」

痛い、全身に衝撃が巡る。

痛い、何が起こった?叩きつけられた?

痛い、手足を動かそうとするも痺れて動けない。

再び男は歩き出したようだ。

俺は意識を保っていられず、そのまま暗闇に沈んだ。

~~~


そして時間は現在に戻る。

目覚めた時には俺は、縛られ猿轡を噛まされ台に載せられていた。

僅かに動く首を振って周りを見る。

どこかの洞窟?仄暗い闇がロウソクの火によって淡く照らされている。

近くになにか大きな物があった。

目を凝らして見ると、それは俺を運んだ大男だった。

だがその男は逆さ吊りにされ腹を捌かれていた。

洞窟の湿った匂いの中、気持ち悪い臭いが混ざって鼻を刺激する。

――なんで?どうして?こいつなんで殺されてんだ?仲間じゃないのか?

いくら考えても誰も答えを教えてくれない。

次は自分の番かも知れない。そう思うと、今すぐ逃げ出したかったが俺を縛る縄がそれを許さない。

――カツン

藻掻くこともできず、ただ待っていてどれくらいの時間が経っただろうか。

遠くから足音が聞こえてきた。

この村の奴だろうか、いや俺と同じもの好きならワンチャン助けてくれないだろうか。

永遠にも感じるその時間の中、現れたのは髪と髭に覆われた老人?だった。背後には鞄を持った従者が控えている。

――ああ、多分、いや絶対にこの村の奴だ……

絶望していると爺は俺の服に手をかけ、ゆっくりと脱がし始めた。

――おいおいおい、どういうことだ?

俺は男だぞ?服を剥いでも嬉しくないぞ?

身を捩ることもできず、あっという間に上半身を脱がされた。

――な、何をするんだ?

爺は振り返り鞄を漁り始めた。

ガチャガチャと不快な音がしている。

選び終わったのか音が止み爺は再びこっちを向いた。


その手には――

銀色に冷たく光るナイフと砥石が握られていた。

――おい、それをどうするんだ?

爺は見せつけるように俺の傍に砥石を置いて研ぎ始めた。

シュッシュッシュッ……

満足したのか舐めるように眺めて、俺に見せつける。

そして、その艷めくナイフを俺の腹の正中にあてがう。

――おい、やめてくれよ。それをどうするんだ、

プツリ。

爺はナイフを押し当てた。

血の玉が溢れる。

ゆっくりとナイフが沈んでゆく。

痛い、頭が焼き切れるようだ。

悲鳴ももう上げれない。

ナイフが腹を進む不快な感触に襲われる。

言葉にならない痛みに支配される。

――ああ寒い痛い熱い痛い……どうして、なんでどうして……

あぁ謝るから、謝るからすぐに出ていくから許してよ、やめてよ……

俺は……熱くて寒い、痛くて痛くてもう痛くない、もう分からない。

意識をくらやみに手放した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「迷い込む影」 人一 @hitoHito93

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ