5-14

その時のヴィルヘルムの返答は、彼にとってのナズナは妹みたいなものだとのことで、見た感じではそれは今も変わっていないように思える。

 好きなヴィルヘルムがそう彼女を思うのならば、パウラもそう思い込むことにした。そうすることで無用な嫉妬を抱かずに済むからだ。

パウラがナズナを見た感じは、彼女もまたヴィルヘルムを兄のように慕っているように見える。ヴィルヘルムに恋するパウラとしては何だか一安心した。

騎士として私情を持ち込むことはいけないことだが、パウラも騎士である前に一人の乙女なのだ。恋の前では仕方のないことである。


「じゃ、自己紹介が済んだところでそろそろ行こうぜ。あいつが追ってくるかもしれないし」


「あいつ?」


首を傾げるパウラにヴィルヘルムが説明した。


「ほら、あの舞踏会の襲撃者だよ。ナズナを攫おうとしていた…」


彼の手短な説明にああ、とパウラは思い出す。

 自身の腕に覚えがあるパウラでも捕縛できなかったあの青年。彼女にとっては苦い思い出らしく眉を顰めている。

その青年との再戦に臨みたいと思うものの、今はナズナ達をノイシュテルン王国まで送ることが最優先事項だ。

パウラが率先して馬に跨り、続いてヴィルヘルム、そしてソルーシュが跨る。ナズナはソルーシュの方へ行き、行きの時と同じように馬上へと引き上げて貰った。

ソルーシュが後ろを振り返り、リュウシンが追ってこないことを確認しつつ馬の腹を蹴った。後に続いてくる騎士達に道を示す。


「帰りは少し飛ばして行くからな!」


「了解!」



 行きとは違い、少々無理をしてナズナ達はノイシュテルン王国に戻ってきた。

ほんの少しの期間しか離れていなかっただけでとても懐かしく感じる。

早々にナズナ達はビスマルク邸に向かい、暖かい屋敷の中へ入った。彼らを出迎えたのは馴染みの執事だった。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


「ただいま戻りました。えっと…お父様は?」


「旦那様は今、王宮へ参内しております。後一時間程でこちらに戻られると思いますが…」


「そうですか…」


執事の返答を聞いてヴィルヘルムが提案する。


「じゃあ、叔父上が来るまでここで少し休ませてもらいなよ。

 僕とパウラはこのまま騎士団の方へ顔を出してくるついでに馬を戻してくるからさ」


「おいおい、大丈夫なのか?休むならお前らも休んだ方が…」


「パウラも僕も、届出してあるとはいえ道中一度も報告していないからね。

 それに騎士団にはミッターマイヤー将軍やエミール殿、ジェラルドもいるからついでにお邪魔する旨を伝えようと思って」

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