5-2

「あの…?」


伸びてきた手に怯えながらもナズナはやや控えめに隻眼の青年を見返した。

怯えるナズナを見て、彼は伸ばした手を一旦引っ込めてふっと微笑む。その笑みの意味が分からずにナズナもつられて微笑み返した。その笑みは微妙にぎこちないものだったが。


『我が花嫁、ナズナよ』


「!!」


てっきり夢の中だから、まさか話し掛けてくるとは思わなかった。名前を呼ばれてナズナの肩が微かに跳ねる。

玉飛星君ユーフェイシンジュンはそれに構わずに続けた。


『欠片が二つになったことで我が魔力がただ漏れになり、追跡されやすくなる。気を付けることだ。

 一応他の者達と同じように外に出られるようにはなったのだが…如何せん、まだ戦うには足りぬ。欠片が三つになれば我も戦えるようになる。その時は昔教えたように我が名を呼ぶのだ』


 果たしてそれは助言なのか、それともナズナ自身が見せた夢なのだろうか。

玉飛星君ユーフェイシンジュンが言った意味を考えていると、彼はいつの間にかナズナの目の前に立っていた。身体が触れ合いそうな距離にナズナは驚きつつ距離を取ろうとする。

だが、それよりも先に彼の手がナズナの細い手首を捕らえていた。


『よいな?我が花嫁よ。ユーフェイシンジュンではなく、ユーフェイだ』


確認しつつ覗き込んでくる端正な顔にナズナは必死に頷いていた。それを見て彼…ユーフェイは満足そうに微笑むと彼女の手を離さないまま、ある場所を指差した。そちらの方に視線を移すと、立派な城が映し出されている。

見たことが無い城にナズナは首を傾げた。


「ここは…?」


『汝が次に向かう場所だ。気高き狼の血が流れる一族が所有する城のどこかに、お前の記憶の欠片があるらしい』


 何故彼にそんなことが分かるのだろうとナズナは疑問を抱くが、戻ってきた記憶を思い出しすぐに理解した。

彼は神威達と同じようにナズナの内にいる。今は何かしら理由があって、ナズナの夢の中でしかこうして話したり触れたり出来ない。おそらくユーフェイの意識と魔力は欠片と共にあったのだろう。だから次の欠片がある場所が分かるのだ。


 それにしても気高き狼の血が流れる一族とはどこのことだろう。

ナズナがその立派な城をぼんやりと眺めていると、城の壁に深い青色の生地に銀糸で描かれた剣を抱く狼の紋章の旗を見つけた。

その紋章はノイシュテルン王国の歴史書の中で出てきた、建国の五大貴族の一つであるミッターマイヤー家のものだった。実際に彼の城には行かなくても、五大貴族それぞれの紋章はナズナも歴史書の中で何度も見ている。

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