4-7

 怒っている彼に油を注ぐような愚かな真似は誰にも出来ない。出来たとしてもその先に待つのは死のみだ。彼にはそう出来る力がある。だから力を持たない者は耐えることしか出来ない。

扇子を叩きつけることで少し苛立ちが解消されたのか、リェンハイは荒々しく玉座に座り、彼の側近の一人を呼びつけた。


「ジンフー!」


「ここに」


 皇帝の元に音も無く背の高い青年が姿を現した。黒を基調とし、赤の装飾が施された衣服を身に纏っている。水妖族の証である瑠璃色の髪は短く切り揃えられ、緑の瞳は凪いだ湖のように穏やかだ。

ジンフーと呼ばれたその青年は皇帝の前に恭しく跪く。その所作はとても優雅で、彼の端正な容姿も相まってとても絵になった。皇帝は自身の紫色の前髪の一房を弄びながら側近に尋ねる。


「リュウシンからの報告はまだか」


「はい。未だ何も」


ごく短い側近の報告に皇帝は唇を噛む。送り込んだ側近は一体何をぐずぐずしているのか。

神の花嫁からは神の魔力を感じるので、すぐに見つかるはずである。一刻も早く花嫁と、花嫁の身体に宿る神を連れ戻し、儀式を行わねば長年続いてきた栄えあるこの帝国が滅びてしまう。

今は他国とは停戦状態にあるとはいえ、絶対に攻め込んでこないという保証はない。リェンハイは一度目を伏せ、決断する。


「ジンフー、お前もリュウシンの後を追い、シェンジャの捕縛を手伝え」


「かしこまりました。すぐにでも出発致します」


「定期連絡だけは怠るなよ。お前の代わりは適当に用意しておけ」


「承知致しました」


跪いたまま頭を下げるジンフーにリェンハイが行けというように右手を振る。それを見届けたジンフーは音も無く姿を消した。



 休息を取り終え、ナズナ達はひたすらに上へ上へと向かっていた。外から見た以上にこの灯台内は広い。

だが今彼らがいる階層は放棄されてから大分人が訪れていなかったようで、下の階層よりはあまり荒れていない。魔物や不死者の数も下の階層に比べればずっと少なかった。

 おそらくはメルセデスの魔力の気配によるものだろう。上へ登るにつれて彼女の魔力の気配はずっと濃くなっているが、それに混じって背筋がぞくぞくするようなものも混じっている。ただの精霊の気配ではない。

だがナズナにはそれが何かを何となく理解していた。ナズナの記憶の欠片の気配だ。しかし最初の欠片はそのような気配を感じなかった。

ぎゅっと自身の首に掛かっている最初の欠片を握り締める。ナズナの不安の応えるように欠片は一瞬だけ光を放ったが、服の下に隠れているため見えなかった。

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