3-15

その妙な威圧感と違和感に呑まれる前に、思わずヴィルヘルムが剣の峰を使ってナズナの手から短剣を叩き落とした。

あまりの一瞬の出来事にナズナの足が止まり、目を丸くしている。短剣を落とした時点で、彼女からあの妙な威圧感と違和感は霧散していた。当のナズナは首を傾げながら飛んで行った短剣を拾いに行っている。


「…ヴィル」


「分かってる」


ソルーシュの呼び掛けにヴィルヘルムが短く応じた。短剣を拾って戻ってきたナズナが不思議そうに尋ねる。


「何がでしょうか?」


「…ナズナが鈍くさいってことかな」


咄嗟にごまかしたヴィルヘルムにナズナが心外だと言うように頬を膨らませた。


「こ、これからもっと素早く動けるようになる予定ですから!」


「そうだといいね」


「もう!ヴィルの意地悪!」


「はいはい。じゃ、今日はここまでにしようか。あんまりやり過ぎちゃうと、身体に負担が掛かって明日に響いちゃうからね」


 拗ねる従妹の頭を宥めるように撫でながら、ヴィルヘルムは山小屋の中へ入るよう促す。ソルーシュが火を起こしてくれたおかげで室内はかなり暖かくなっていた。汗を拭い、ヴィルヘルムから簡単に筋肉を解すマッサージを教えてもらって実践する。そしてナズナは疲れもあってか今日も早々に休ませてもらった。

 従妹が眠ったのを見計らって、ヴィルヘルムは幼馴染に先程ナズナから感じた妙な威圧感について話し合う。


「ソル、さっきナズナから感じた妙な威圧感のことだけど…」


「神威のものでも、ましてやあのエリゴスのものでもなかったな」


「ナズナ自身のものでもなさそうだけどね」


眠るナズナをじっと見ているソルーシュとヴィルヘルム。当の本人は何かの夢を見ているのか、時折むにゃむにゃとよく分からない寝言を言っていた。

 あの妙な威圧感は二人の気のせいで片づけられるようなものではない。だが、手がかりが何もない以上、話し合っても何の進展もない。とりあえず彼らも体力回復の方を優先しなくてはならないため、休むことにした。



 こうして最初の夜が過ぎ、ノイシュテルン王国を出てから四日後。その頃にはようやくナズナも馬に慣れ、短剣を構える姿勢も様になってきた。まだ野宿することに慣れてはいないが、初日に比べればずっとましになっている。頼もしい従兄と幼馴染の教育もあって、魔物との戦いにて自分がどう動くべきかそれなりに学習している。

ほんの少し余裕が出てきたところで、ついに彼らは今回の目的地であるフェアデルプ灯台前に到達した。

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