3-14

「そろそろ、武芸の稽古といかないか?ナズナ、短剣を持って外に出るんだ」


「あ、はい!」


「そんじゃ、オレは横で見学とでも洒落込みますかね」



 山小屋の前にナズナとヴィルヘルムが向かい合って立ち、扉の前にある階段にソルーシュが腰を下ろしてナズナの初めての訓練の様子を眺めていた。本日は構え方の講義のようで、ヴィルヘルムがまず手本を見せている。

 彼の武器は片手剣と盾。盾を持つ左手は胸の前で固定し、剣は刃先を下ろした状態で背筋を伸ばして立っている。ただ立っているように見えるのに、隙無く感じるのはヴィルヘルムが騎士として日々鍛錬を積んできた賜物だろう。


「じゃ、ナズナも適当に構えてみて」


適当にと言われても…とナズナが無茶を言う従兄の言葉に戸惑っていると、彼女の中から神威がアドバイスをしてくれた上、ナズナの身体を操って適切な構えの姿勢を取ってくれた。


『ナズナ、まずは身体の力を抜くことが大切です。身体に余計な力が入っていては、いざという時思った通りに動かせませんからね』


「な、なるほど…」


神威が取ってくれた構えは少しヴィルヘルムと似たような構えだった。短剣はナズナの利き手が右手なのでそちらに握り、刃先を下ろした状態で膝を軽く落とし、肩の力を抜いた姿勢だ。多分これが一般的な構え方かもしれない。

神威の力を借り、ぎこちないながらも構えたナズナの姿を見てヴィルヘルムは頷いた。


「よし、思ったより構え方がよかったからこのまま次の段階へ行こうか」


「はい、先生!」


先生と言う言葉の響きが気に入ったのか、ほんの少しだけヴィルヘルムの表情が柔らかくなった。それに気づいたのは彼の幼馴染の商人だけだったが。


「このままどこからでもいい。僕に斬りかかっておいで」


「おいおい、いきなり最終段階じゃねぇか!」


 まだ短剣の扱い方も知らないナズナに、自由に斬りかかってこいなどと無茶なことをいうヴィルヘルムに思わずソルーシュが突っ込んだ。せめて斬る・突く・払うくらいの基本動作を教えてからでもいいだろうに。こいつは一体騎士団でどんな訓練を積んできたのかとソルーシュは頭を抱えた。

 だが先生であるヴィルヘルムの言うことは絶対だと言わんばかりに、ナズナが元気良く返事をして走り出した。初めての旅の疲れもあってか、いつも以上にナズナの足が遅く感じるのは仕方のないことだったが。

しかし、ナズナがヴィルヘルムに近づき、短剣を振り上げたところで彼女から妙な威圧感をヴィルヘルムとソルーシュは感じていた。それと同時に微かな違和感も。

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