3-12

 もとは一対の短剣だったらしいが、もう一つの片割れはナズナの母と共に墓の中で眠っている。また、刃の色も使い手の魔力によって変わるようだ。ナズナの母が神威の主だった時は淡い翡翠色で、神威の人間形態の時の服装も今のような執事服ではなく、東にある青藍チンラン大陸のとある民族のような服装だったらしい。

それはともかくとして、一体何故ここでその短剣を出す必要があるのだろうか。横で見ていたソルーシュが騎士の意図を察し、ナズナに説明した。


「どうやらヴィルは貴方に、その短剣を使って護身術を学んで欲しいそうですよ」


「え…?」


でも、と躊躇うナズナに従兄は突き放すように言った。


「僕らも努力はするけれど、万が一という時のために覚えて欲しいんだ。

 君には神威達がついているけど、彼らもずっと君を守ってくれる訳じゃないしね。それに、これからのためにもいい体力づくりになると思うよ」


 ヴィルヘルムの言葉は正しかった。こうして家を出た以上、彼らに頼りっぱなしではいけない。精霊達の力を借りず、いざという時に自分で自分を守る術を身につけねば。

そうは思っても、やはり不安ではある。手にしている形見の短剣が急に重く感じた。


「私に…出来るでしょうか…」


「出来るんじゃない。やるんだ。そうじゃないと、君は死ぬよ」


歯に衣を着せないヴィルヘルムの物言いに慌ててソルーシュがフォローを入れる。


「大丈夫ですよ、ナズナ姫。貴方のペースで学んでいけばいいのですから。ダンスの練習みたいなものです」


言い方はともかく、従兄はナズナの身を案じてくれたのだ。これから旅をしていく以上、彼の言う通り体力が第一となる。従兄達にこれ以上迷惑を掛けないためにも必要なことだ。

ぎゅっと短剣の柄を握り締めて、ナズナはヴィルヘルムに頭を下げる。


「よろしくお願いします、ヴィル!」


「もちろん。ただ、僕は優しく教えてあげるつもりはないからその辺はよろしく」


「ちょ…ヴィル…そこは優しくしてやれよ…」


ソルーシュの突っ込みも虚しく、ナズナとヴィルヘルムは燃えていた。とりあえず今日は馬に慣れることを優先して、本格的な訓練は夜から始めることになった。決意を新たにしたところで再び三人は馬に跨り、行けるところまで距離を縮めて行く。

 やがてソルーシュ達は街道を外れ、森の中を通って行く。ぎりぎり馬一頭が通れる獣道があった。道中、木の幹に何か彫ってあるがレガシリアの共通語ではない。見慣れない文字にナズナが首を傾げていると、ソルーシュが彼女の耳元に唇を寄せて囁いた。

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