3-8

代わりに不審に思った神威がエリゴスをつついた。


『エリゴス殿、何かご存知でしたら包み隠さず話した方が良いのでは?』


『知らんと言っているだろう!と、とにかくナズナよ、俺は今から公務に赴かねばならんので少し席を外す。何かあったらすぐに呼ぶのだぞ!』


そう早口に捲し立ててエリゴスは一方的に会話を打ち切った。明らかに怪しい彼の態度にソルーシュもヴィルヘルムも神威も疑う。絶対何かあると確信したソルーシュが行く先をフェアデルプ灯台に決定した。

 ともあれ、すでに夜が更けてきている。舞踏会での疲れもあってナズナも眠そうにしていた。出発するのは明日にした方がいいだろう。

幸いここの酒場の二階は宿になっている。ソルーシュは部屋を借りるため、受付にいるであろう女将の元へと向かった。

その間うとうとと船を漕いでいるナズナをヴィルヘルムが見守っている。従妹の眠そうな顔を見てヴィルヘルムも眠気が襲ってきた。騎士団の厳しい訓練と街と王宮の見回り、加えてあの舞踏会での襲撃事件。ヴィルヘルムにもそれなりに疲労が溜まっている。少し休めば問題ないだろう。

 部屋を借りてきたソルーシュが戻ってくると、ヴィルヘルムはナズナを横抱きにして運び出す。ソルーシュが何か言いたげにヴィルヘルムとナズナを交互に見ていたが、従妹の意識がすでにないことを知るとそのまま沈黙を守った。


「僕達の部屋は?」


とヴィルヘルムが尋ねると、ソルーシュが無言で二階に通じる階段を指差す。細心の注意を払いながら二階へ上がり、与えられた部屋の中へナズナを抱えたヴィルヘルムとソルーシュが入っていく。

三つ並んでいるベッドのうちの真ん中へナズナを横たわらせ、毛布を肩まで掛けてやるとヴィルヘルムは手早く鎧を脱いで楽な格好になり、窓際にあるベッドに横になった。


「ごめんソル、僕も先に休むよ…」


疲労の滲んだ幼馴染の声を聞いてソルーシュは短く挨拶を返す。しばらくして二つの寝息が聞こえてきた。


「オレも寝るか」


そう一人呟いてソルーシュもバンダナを解き、空いているベッドに横になって目を閉じた。



『ああ、お前が今回の選ばれし我が花嫁か。我が花嫁、お前の名は何と言う?』


優しさと憐憫がこもった低い声音で、彼は幼いナズナに問い掛ける。焼け爛れたナズナの背中を労わるように筋張った大きな手で撫でながら。


 ああ、これは夢だ。徐々に戻りつつある自分の記憶の。


だけど肝心な声の主の姿は霞がかったように分からない。

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