2-11


 住み慣れた我が家に戻ると、ソルーシュは礼服から普段着に着替え、ナズナも華美なドレスから比較的質素で動きやすいドレスに着替えた。

父であるジークはまた王宮へ赴かなくてはならない為、騎士団の制服のままだった。

彼らはジークの私室に通され、例のある物を取りに行った部屋の主を待つ。程なくしてジークが控え目に装飾が施された小箱を大切そうに抱えて戻ってきた。

それをテーブルに置き、中に入っていたものを取り出す。


 それは淡い翡翠の光を放つ、歪な形をした宝石を抱くペンダントだった。


宝石は球体が割れたような形で、宝石を留める装飾と鎖は白銀。シンプルだがとても美しい。おそらくオーダーメイドで造られた物だろう。

ジークはそれを丁寧な手つきで娘の手に渡した。受け取ったナズナはまじまじとそのペンダントを観察してみた。


「これは…?」


「お前の記憶の欠片だ」


「私…の?」


 一体何の為に、と問おうとしてナズナは思い留まった。急いては父を困らせるだけだ。ソルーシュも同じ気持ちなのか、口を挟まず黙ってジークが話出すのを辛抱強く待っている。


「そうだ。ただ、中身は知らない。お前の記憶の一部を取り出し、このようにしたのは我が亡き妻のヒスイだ」


「お母様が…」


そうは言っても、ナズナには母の記憶が全くと言っていい程無い。ナズナが物心ついた時、すでに彼女の母はこの世にいなかったからだ。

父やその知り合い達からは病気で死んだと聞かされていた為、ナズナが母について知っていることはそれと彼女の名前、そして肖像画に描かれている在りし日の姿だけ。

在りし日の母はナズナと瓜二つで、唯一違う点と言えば瞳の色が違うくらいだ。ナズナは父親譲りの紅い瞳だが、亡き母は淡い翡翠色をしていた。


 例えるならそう、このペンダントの宝石のような。


「この記憶の欠片は一部に過ぎない。欠片はこれを含めて5つあるらしい」


「らしい?」


不確かな情報にソルーシュの片眉が上がった。ああ、とジークは頷き苦い表情を浮かべる。


「情けないことに、この件に関して私は部外者だったのだ。真相は当事者である私の妻にしか分からない」


そう言ってジークはナズナの後ろの壁に掛かっている肖像画に視線を移す。肖像画に描かれているヒスイ=フォン=ビスマルクが変わらぬ微笑みを浮かべたまま、夫を見返していた。

 父の視線の先を見てナズナはぎゅっと今受け取った記憶の欠片を握り締める。宝石がナズナの魔力に反応して一瞬だけ強い輝きを放つ。それと同時にナズナの頭の中で記憶が鮮やかに蘇った。

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