天体観測

阿々 亜

前編

 夕方、雨がやんだ。

 予報では夜から晴れるらしい。

 俺は観測器材を車に積み込み、郊外の田園地帯に向かった。

 このあたりは民家もまばらなので、深夜になると比較的星が良く見える。

 小高い丘の上に車を停め、器材のセッティングを始める。

 望遠レンズをミラーレス一眼カメラにとりつけ、赤道儀に固定する。

 いつもの観測であれば、低空から天頂に向けて少しずつ範囲をずらして、できるだけ広範囲を撮影していくのだが、今日は最初からある一点に向けてカメラを合わせた。

 夜十時過ぎ、ようやく雲が居なくなり、星空が姿を現した。

 ファインダーを覗き込むと、その中心には今にも消えそうな小さな淡い光が映っていた。

 小惑星だ。


 この小惑星を見つけてから1週間……

 今日あたり発表があってもいいはずだ……

 発表が出るとすれば、早くても0時過ぎ……


 俺はスマホを取り出し、MPC Minor Planet Centerの公式ページを開く。


 Minor Planet Centerとは、国際天文学連合の監督の元、スミソニアン天文物理観測所が運営している機関で、惑星と彗星の発見に関する情報の提供、観測の受付などを行っている。

 新しい天体を発見した際、第一発見者として世界に認められるには、このMinor Planet Centerに申請を出し、認定されなければならない。


 俺は1週間前、この小惑星を発見し、Minor Planet Centerに申請を出した。

 もし、俺が第一発見者として認められれば、MPCの公式発表で俺の名前が表示される。


 今日発表が出ると決まっているわけではないし、0時に出るとも限らない。

 そもそも、第一発見者になるのは世界中の観測者たちの競争であり、俺より早く申請出した人間が何人もいるかもしれない。

 明朝確認する方が時間を無駄にしなくて済むのだが、俺はどうしてもこの空の下で発表を確認したかったのだ。


 初夏で気温は低くはないが、深夜にこの郊外の丘の上は少し冷える。

 それでも俺はその場から動かなかった。


 そして、0時過ぎ。

 公式ホームページの画面を更新する。

 小惑星新発見の表示が1件でている。

 俺は急いで中身を確認する。


 The minor planet 2026 BC11 was discovered on 2026 May. 23 by

 Ryota Ymada at Nagano, Japan.


 Ryota Ymada……


 間違いなく俺の名前だった。


 俺は天に向かってガッツポーズをし、歓喜の叫び声を上げた。


 そして、望遠レンズが向けられた空を見つめた。

 肉眼では見えないほどの淡い光だが、そこにその星は存在する。


 俺はその星のある方角に向かって呟いた。


「やっと見つけたよ……晴菜はるな……」



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