ピンクの神様

井荻のあたり

 ある意味、潔いと思います

 1992年の2月半ばに日本神話の聖地・高千穂で夜神楽を見たりしたのを覚えているから、ぼくが九州をふらふらとさまよい、阿蘇の町中を歩いていたのはその頃だったのだと思います。

 阿蘇という、周囲を火山の外壁で覆われた、そう、火山のカルデラのど真ん中に人々の街があるという不思議な世界。

 こんな大噴火と紙一重みたいな土地に……、人間って凄いなぁ。


 古い家々の軒先には「オウムお断り」の張り紙がしてあるのをいくつも見ました。オウム真理教が阿蘇にサティアン(オウム真理教の宗教施設群。自治国に近いイメージ)を作ろうとして、地元住民と大衝突を繰り返していたころでした。


 「オウムお断り」の張り紙もそうですが、道行く老婆の髪が鮮やかなピンク色だったりしたのも非常に印象深かったです。

 少し地元の人とおしゃべりする機会がありました。

 「お兄ちゃん、どっから来た人?」

 「東京です」

 「阿蘇はどう?」

 「はぁ、オウムお断りの張り紙とかピンク髪のおばあちゃんに少し驚きました」

 「ああ、今ピンクの神様が大はやりしてるから……」


 ピンクの神様? ははぁ、阿蘇でピンクと言ったら阿蘇ピンク石関連か。日本書紀には、628年、第33代推古天皇は子供である竹田皇子の墓に合葬されたとあり、その推古天皇陵の玄室にある石棺は、たしか阿蘇ピンク石だったと思います。

 古墳時代において、阿蘇ピンク石は神様級の偉い人の棺専用。つまり、まごうことなき聖なる石。阿蘇は聖なる石の産地=聖地であるということです。


 まぁ実際、ぼくとおしゃべりした人にそういう知識があって話してくれたわけではないでしょうから、なんでピンクなの? というその辺はぼくの想像です。

 で、(オウムの脅威に対抗するため?)けっこう熱狂的にはやっているのだそうでした。

でも、

 「教祖が言うには、2年後には阿蘇がニューヨークを越えて世界の大都市になる」んだそうでした。

 ええ!? そんな予言が? いや、それは、いやそれがさらに信者を熱狂させているんですって? マジですか。

 ニューヨークを越えるって、う~ん、標高で越えるというのは考えたけど、海辺のニューヨークとは比較するまでもなく元々阿蘇の方が高いです。

 へぇ~、としか感想を返せませんでした。


 で、その頃はまだ携帯電話も無い、インターネットなど想像もつかない時代でしたが、20年30年と時代が進んだ現代では、ネット検索で何でもお手軽に調べられます。それこそ20年近く前ですが、ふと思い出した時に阿蘇のピンクの神様、調べてみました。


 「2年でニューヨーク越え」ってどうなったの?

 教祖様、金持って逃げたみたいです。



 

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