4-3. 呪詛の実験
特別部隊への編入が決定してから一週間後、リオは再び王立魔刀研究所に呼び出された。前回は説明だけだったが、今回は「実験」という名目で、実際にリオの力を確認することになっていた。
研究所の地下には広い実験室があった。天井は高く、三メートル以上あった。その高さが、リオを小さく見せた。壁には古い魔術の文献が並び、中央には大きな机が置かれている。机の上には、さまざまな実験器具と、小さな檻に入った動物たちが並んでいた。魔導灯が、青白い光を放ち、実験室を照らしている。
「リオ・アーデン、よく来た。今日は、君の力を実際に確認させてもらう」
エレナは白衣を着て、無表情でリオを見つめている。その目には、科学者としての冷静さと、わずかな興奮が混じっていた。エレナは記録をめくりながら、心臓が早鐘を打つ。これは、科学史に残る発見だ。だが、その代償がリオという一人の人間の苦しみだという事実が、胸の奥で重くのしかかる。
「実験って……何をするんですか?」
「簡単なことだ。君に剣で動物を切ってもらう。その傷が治るかどうかを観察する」
その言葉を聞いた瞬間、リオの手が震えた。心臓が早鐘を打ち、息が浅くなる。動物を切る――それは、リオが最も避けたいことだ。
「でも、僕は……動物を傷つけたくありません」
「だが、これは必要だ。国家のために、協力してほしい」
エレナの言葉は論理的で、リオは反論できなかった。王国のために――それは、リオが選択した道だ。
エレナは助手に目を向け、小さな檻を持ってこさせた。檻の中には白いウサギが入っていた。ウサギは怯えた様子で、檻の隅に縮こまっている。
「まずは、このウサギで実験する。君に剣で、軽く切ってもらう」
エレナはウサギを檻から出し、机の上に固定した。ウサギは暴れようとするが、助手が押さえつけている。
「リオ・アーデン、剣を抜け」
リオは剣を抜き、ウサギを見つめた。ウサギの目には、恐怖が浮かんでいる。リオは目を閉じ、剣を軽く振った。ウサギの前足に、浅い切り傷がついた。
「これで……いいですか?」
「ああ。では、傷の観察を始める」
エレナは助手に命じ、ウサギの傷を詳しく観察し始めた。傷は浅く、血が少し滲んでいるだけだった。普通なら数日で治る傷だ。
「まず、治癒魔法を試す」
エレナは手をかざし、治癒魔法を唱えた。緑色の光がウサギの傷に当たり、傷口が光る。だが傷は治らない。光が消えても、傷はそのまま残っている。傷口は黒ずみ始め、血が暗い色をしている。
「治癒魔法が効かない……予想通りだ」
エレナは記録を取り、さらに観察を続けた。ペンを走らせる手が、わずかに震えている。これは科学的発見だ。だが、その代償がリオという一人の人間の苦しみだという事実が、胸の奥で重くのしかかる。時間が経つにつれ、傷口が黒ずみ始めた。血が固まり、結晶のような粉が滲み出ている。傷口は広がり、ウサギは苦しみ始めた。実験室には、血の生臭い匂いが漂っている。
「傷口から結晶が発生している……これは、旧文明の呪詛体系の特徴だ」
エレナは興奮を隠せず、さらに詳しく観察した。ペンを走らせる音だけが、静かな実験室に響く。ウサギの苦しむ声が、壁に反射して聞こえる。
「エレナさん、ウサギが苦しんでいます」
「治癒魔法は効かない。これは呪詛だ。観察を続ける」
エレナの言葉は冷たい。胸の中心が凍えるように痛む。リオはウサギを見つめた。自分の力がどれほど恐ろしいものかを目の当たりにした。手のひらに汗が滲み、指先が震える。
「お願いです。ウサギを助けてください」
「助ける方法はない。呪詛は治らない」
エレナは記録を取り続け、ウサギの苦しみを無視している。リオは剣の柄を強く握った。指先に力が入り、手のひらに爪が食い込む。それでも何もできない。実験室の壁に、リオの影が長く伸びている。
「僕の力は……呪詛なんですか?」
「そうだ。旧文明の呪詛体系だ。エリーザが封印した魔術だ」
エレナは資料を広げ、旧文明の呪詛体系の記録を見せた。
「これは『永劫縛鎖』と呼ばれる呪詛だ。傷を治らなくし、時間とともに広がっていく。最終的に、死に至る」
「死に至る……」
「そうだ。君が切った相手は、必ず死ぬ」
その言葉を聞いた瞬間、リオの足がすくんだ。視界が狭まり、周囲の音が遠のく。必ず死ぬ――それは、リオが最も恐れていたことだ。
「そんな……でも、僕は……」
「これが現実だ。君の力は、傷をつけた者を必ず死に至らしめる呪詛だ」
エレナは少し間を置き、リオの反応を観察した。その目には、わずかな同情が混じっていた。だが、それはすぐに消えた。科学のため、国家のため。それでも、リオを実験材料として扱うことへの後ろめたさが、胸の奥で重くのしかかる。エレナは目を閉じた。この実験を続けるべきなのだろうか。その疑問が、エレナの頭の中で響く。
そして、さらに資料を広げ、リオの母親アリアの記録を見せた。
「君の母親、アリア・アーデン。彼女は魔法使いの残党だった可能性が高い。旧文明の呪詛体系を継承していた」
「母さんが……」
「そうだ。だが、彼女は若くして亡くなった。おそらく、呪詛の力に耐えられなかったのだろう」
その言葉を聞いた瞬間、リオの胸が締め付けられる。息を深く吸い込むと、肺が痛む。母さんは呪詛の力に耐えられず亡くなった――それは、リオが知らなかった真実だ。
「でも、なぜ……なぜ僕だけが?」
「それは分からない。だが、一つだけ分かることがある。君の力は、魔刀ではない。旧文明の呪詛だ。この力を継続して使えば、世界が破滅するかもしれない」
その言葉を聞いた瞬間、リオの背筋が冷たくなった。手のひらに汗が滲み、心臓が早鐘を打つ。使い続ければ、世界を滅ぼす――その可能性が、リオの胸を締め付ける。
「でも、王国は……この力を使い続けるんですか?」
「そうだ。王国は君の力を戦争に使いたい。だが、それは間違いだ。君の力は、戦争のためだけのものではない」
エレナは記録をまとめ、さらに実験を続けた。その手の動きは、何千回と繰り返してきた動作だ。だが、その手が、わずかに震えている。これは科学的発見だ。だが、その代償がリオという一人の人間の苦しみだという事実が、胸の奥で重くのしかかる。
ウサギは苦しみ続け、やがて動かなくなった。傷口は広がり、黒い結晶が全身に広がっている。実験室の空気が重く、リオの喉が渇く。エレナは記録を取り続けた。その手の動きは、何千回と繰り返してきた動作だ。だが、その手が、わずかに震えている。
「ウサギが……死にました」
「予想通りだ。呪詛は治らない」
エレナは記録を取り、助手に命じてウサギを片付けさせた。リオはウサギの死体を見つめ、自分の力がどれほど恐ろしいものかを目の当たりにした。
「僕の力は……触れた者を必ず死に至らしめる力なんですか?」
「そうだ。君が切った相手は、必ず死ぬ」
エレナの言葉は冷たい。胸の中心が凍えるように痛む。リオは剣の柄を握った。指先に力が入り、手のひらに爪が食い込む。うつむくことしかできなかった。
エレナは記録をまとめ、レオナルド国王への報告書を完成させた。机の上には、古い文献のコピーが散らばっている。その中に、エリーザが封印した呪詛についての記述があった。エレナはその文字を見つめながら、リオの目に映った恐怖を思い出す。科学のため、国家のため。それでも、リオを実験材料として扱うことへの後ろめたさが、胸の奥で重くのしかかる。エレナは目を閉じた。この実験を続けるべきなのだろうか。その疑問が、エレナの頭の中で響く。だが、エレナには選択の余地がない。国王の命令は、絶対だ。エレナは報告書を握りしめた。指先に力が入り、手のひらに爪が食い込む。この発見は、科学史に残るものだ。だが、その代償がリオという一人の人間の苦しみだという事実が、胸の奥で重くのしかかる。
次の戦いが、リオ・アーデンという人間を決定的に変えるものになることを、まだ誰も知らない。エレナも、リオも、ゼロも、誰も知らない。
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