ビックリ仰天な水中ウォーキング

智月 千恵実

ビックリ仰天な水中ウォーキング


ああいう経験は、そう頻繁にできるものではない。


私は雨雲を写して墨色の海のような、冠水した道路を自転車を引きながら進んでいた。


Airbnbエアビーアンドビーの体験プログラムだって、こんな体験ないでしょ」と思いながら、びっくりしすぎて笑いさえ込み上げてきた。家まで帰れるんだろうかと心配になりながら進んでいく。


横断歩道は、50センチほど溜まった水の底に沈んでいた。信号が青になると、次々停まった車からの波がパワーを積み重ねて押し寄せてくる。

よろよろしながら必死で歩みを進めていた。


「これはまさに水中ウォーキングだ」と思った。

それも、ジムで人気のリラックス効果のあるものではなくて、ただストレスが掛かるだけの水中ウォーキング。


横断歩道を渡り、大通りから離れると道が見えた。そこでやっと自転車に乗れた。

当然いつも通る裏道は冠水しているところが多く、そこを避けて違う道へと入っていく。


まるで迷路を彷徨っている気分になった。

行き止まり、引き返して、次の道を探す。


幹線道路に出た。

交差点の辺りは大きな水たまり。水たまりというよりも、これは海の浅瀬といったほうが正しい表現かもと思った。

その交差点の浅瀬にある横断歩道を、仕事帰りのサラリーマンが渡っている。

サラリーマンのキャメル色の革靴が上質そうに見えた。私は同情を込めた「かわいそう」を心で繰り返しながら眺めていた。


キャメル靴のサラリーマンが浅瀬の深みにはまった。もう一度目線を向けると、靴を片手に持っていた。


他人事ながら、少しホッとして私は帰路を急いだ。

その頃には、雨は止んでいた。




これは、2024年の8月に起こった出来事で、「台風10号によるもの」とされている。

ビックリ仰天なことは、時が笑い話に変えてくれる気がする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ビックリ仰天な水中ウォーキング 智月 千恵実 @chiemi_tomozuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画