怪しい車

水乃タマ

怪しい車

怪しい車が、家の駐車場に止まっています。黒い、高価そうな車で、窓は外から中が見えないように加工がされ、ナンバープレートは外されています。

このことに気がついたの30分くらい前のことです。この車は一切動く気配がありません。恐ろしい。新聞載っていた気がします。突然家にやってきて、外に出てきた住民や、家に帰ってきた住民を殺して回っている集団がいると。今駐まっている車はまさに新聞に載っていた、殺人鬼の車の特徴と一致しています。

警察に通報しようと思いました。しかし、私は重大なことに気がつきました。

手元に携帯電話がない。携帯電話を取りに行くためには、駐車場の横の部屋を通る必要があります。そして、その部屋はカーテンは空いていて、外から中の様子が伺えます。

私はどうすることもできませんでした。できることといえば怯えて、部屋の隅でうずくまって震えることだけでした。これではなにも状況は変わりません。あと1時間ほどで母も帰ってきてしまいます。

このままだと恐らく、母は殺されてしまうでしょう。

しかし、私が車の中の人物に見つからないように移動し、警察に通報することができれば全てが解決するのです。私は、身震いを必死に抑え、携帯電話を取りに行くことにしました。

私はできるだけ足音をたてないように、気配を悟られないように、車の影で薄暗くなった部屋を静かに歩きました。正直、いつ泣き出してもおかしくなかった思います。私がゆっくり、ゆっくりと進んでいると、日常にありふれている音のはずなのに、私が今、最も聴きたくない音が聞こえてきました。

ガチャリ……

玄関のドアを開ける音です。私は見つかったのだ。きっとそうだ。殺されてしまう。そう思うと、もう、ダメでした。その場に膝かれ崩れ落ち、失禁してしまいました。

こちらに足音が近づいてきます。私が死を覚悟した時、足音をたてていた生物の姿を私の目が捉えました。

「うわ!何やってるの!」

「母さん……?」

足音の正体はなんと、いつもより早めに帰宅した母のものだったのです。私は心の底から安心し、私の痴態に驚いている、帰宅したての母の胸で泣きました。初めは困惑していた母も、いつの間にか、私の背中をさすってくれていました。5、6分程そうしていたでしょうか。落ち着いてきた私は、なぜ私がこんな状態になっているのかを事細かく説明しました。それを聞いた母は大笑いしました。そして、言葉を続けました。

「たしかに、あの車はなんなんだろうね……。この辺じゃ見ない車だし……。私、カバンを置いてくるね。」

母はそう言って寝室に向かいました。精神的に参っていた私は、母と離れるのが恐ろしかったため、母と一緒に、普段は自室で寝ているので入ることのない、寝室に向かうことにしました。

ガチャリ……

寝室のドアを開ける音です。私はその音が恐ろしくてたまりません。私はさっきから、この音を聴くと、嫌な予感がするのです。

私たち親子が寝室に入ると、家の中はすぐさま母子の悲鳴でいっぱいになりました。眼の座った、細身で無精髭を生やした男がいたのです。クローゼットの前に男は座っていました。

シャン……

鋭い音がしました。男は私たちの存在を認めると、なにも言わずに、コンバットナイフを取りだし、刃をじっとみつめました。私は恐怖のあまり動けず、母は気を失いました。

謎の怪しい車に乗っていた人物は、私が帰宅するより先に我が家に侵入し、寝室に住民が入るのを待っていたのでした。実はあの怪しい車、窓にはなにも加工がなされておらず、人が乗っておらず、中になにも載せられていなかったので、私は外から見えないように加工が施してあると勘違いしていたのでした。動く気配がなかったのも当然です。人が乗っていないならば、車は動くはずありません。

ぐちゃ……ぐちゃ……

まず、母が静かに刺されました。母を刺している男の表情は、恍惚の極みと言った感じでした。寝室の床はあっという間に血の色に染まりました。次に刺されるのは私でしょう。母が刺されたショックと、次は私だという恐怖で私は気を失いました……。私が最期に見たのは、光が宿っていない、漆黒の、こちらを見つめる男の目でした。

……皆さんも、怪しい車には注意してください。まだ、私たちを殺した男は、逮捕されていないようですから……

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