3rd No match for the strongest assassin~最強の殺し屋には敵わない~

 なんとか追いついた。

 だがすでに状況は絶望的だった。


 辿り着いた先で見えたのは、マシンガンを構えた蔵井の姿。

 その向こうにキラを庇うように抱きかかえた霧崎の背中。


「カネなんて関係ぇねぇ、コロシができればいいんだよ」

 蔵井はすでにこの状況を支配していた。


 オレが背後から追いついたのも知っている。

 同時になにもできないことも分かっていた。

「動くなよ、オッサン。この銃は引き金が軽いんだ」

 この状況、止まらないわけにはいかなかった。

 そうして少しでも時間を稼ぎ、なにか打開策を見つけるしかない。


「ハハ。簡単楽勝だったぜ! 皆殺し、全員血祭、虐殺パーティーの始まりだ!」

 蔵井が勝ち誇って笑い声をあげる。

 

 キュイイ……キュィィ……

 キラの怯えたような悲しそうな鳴き声が聞こえる。


 このまま何もできないのか?

 何かできることはないのか?

 せめてあいつらの盾になるだけでも……


「ハハハハハ、おまえらみんな死亡決定ッ!」

「待て! やめろ!」

「待つわけねぇだろ!」


 そして蔵井の銃が火を噴いた。


   🔫


 その後に続いたことはまさに一瞬だった。


 竹藪の中から突然大きな人影が現れ、霧崎の前に立ちはだかった。

 その巨体がキラたちに向けられた銃弾の全てを吸い込んだ。


 同時にオレの真横を風が吹き抜けた。

 視認できるスピードではなかった。

 だがそれが誰であるかは感覚で分かった。


 そして目の前で蔵井の全身から血が噴き出し、その体が崩れ落ちた。

「この、老いぼれが……最強はオレなのに……」

 その背後に立っていたのは小さなナイフを持ったク・リーリンだった。

 あの一瞬で奴の体中の急所を残さず突き刺したのだ。 


「終わった、のか?」


 キュイイ……

 キラの可愛い鳴き声が聞こえた。それが答えだった。

 良かった。とにかくあいつは無事だったのだ。


   🔫


 オレは足を引きずりながら、キラと霧崎の元へと歩いた。

 そして二人の前で崩れ落ちている人物、二人を銃弾の雨から庇った人物の正体に驚愕した。


「まぁな。オレは不死身なのさ。それよりランランは無事だろうな?」

「ランラン?」

「あいつの名前だよ」


「無事よ。あなたのおかげでね」

 答えたのは霧崎。彼女の腕の中にキラが見えた。改めてホッとする。


「あたりまえだ、オレが体を張ったんだからな」

 カノンはそう言って血を吐いた。全身が穴だらけだ。そう長くはもたないだろう。だが前回もそうだった。こいつのタフさだけは規格外らしいから。また今回もしぶとく生き残るかもしれない。


「悪いが、ランランは返してもらう。そのためにこの家も買ったんだ。竹林付き、ランランの好きなリンゴも植えた。だから退院したらおまえらにはすぐに出て行ってもらうからな。それまでお前たちに預けてやる」

「いいや、キラはもうオレたちのものだ。この家も気に入ったからありがたくちょうだいするつもりだ」


 オレの言葉にカノンが笑みを浮かべる。


「まぁなんだっていいか。あいつが幸せなら、オレはそれだけでいい」


   🔫



 そうだった。ここにはク・リーリンもいたのだった。


「ブンブンは初めからわたしのものだ。おまえたちは無理やり強奪した泥棒にすぎない、それを忘れたとは言わせんぞ」

「ブンブン?」

「そう。その子は最初からそういう名前だったのだ。さぁ、キリサキジャッコ、その手を離し、ブンブンを返すのだ」


「キラちゃん、あなたずいぶん名前がいっぱいあるみたいね」

 霧崎の言葉にキュイイと可愛い鳴き声が応えた。


「でも、キラちゃんは渡せないわ」

「勝手なことを言うな、盗人猛々しい」

「なんなら今ここでアンタと勝負をつけることもできるけど?」

「小娘が、ワシにかなうと本気で思っておるのか?」


 うーん。これはまずい雲行きになってきたようだ。

 もうこれ以上血を見るのはごめんだった。



 ほかの三人はオレの言葉にニヤリと笑った。

 自信たっぷりに。


   🐼


 なにはともあれ、それが幸せな解決方法だろう。


 

 霧崎が決めたルールは一つだけ。


 オレたちは四つに分かれて座った。

 その真ん中に一頭のレッサーパンダ。


「キラ、おじちゃんのとこに、おいで」

 と甘い声で囁くのは、もちろんオレ。


「きらちゃん、お姉ちゃんだっこしてあげる」

 両手を広げて晴れやかな笑顔の霧崎。


「ブンブンちゃん、おじいちゃん迎えに来たよぉ」

 すっかりにやけ顔に崩れたク・リーリン。


「ランラン、オレん所来たらリンゴたくさんあげるぜ」

 まだ血まみれのいかつい顔のカノン。


   🐼


 キラちゃんはその真ん中で尻尾の手入れをしている。

 どうもオレたち四人にあまり興味が向いてないようだ。

 だが、そんなところがまた可愛い。

 シマシマの尻尾を丁寧に舐めて、夢中になってコロンと転がった。


 オレたちみんなでそんな様子を微笑みつつ眺める。


 と、それからキラが急に立ち上がった。

 だらんと垂れた短くてふさふさの手。先端の白い耳をピクピクと動かしている。それからヨチヨチと二本足で歩き出した。最初は霧崎の方へ向かってしまった!


(まずい!)

 残されたオレたち三人の意志がピタリと重なるのがわかる。


「あー、やっぱりお姉ちゃんのトコ来てくれたのねぇ」

 その体を受け止めようと両手を広げる。

 と、その動きが急にピタリと止まった。

 そしてぐるりと首を巡らせて血まみれで横たわるカノンを見つめた。


   🐼


 なんとカノンの手に笹が握られていた!

 サラサラとその枝を振っている。

 たしかにルールは破っていない。だが……


(あれは卑怯じゃないか?)

(あれは卑怯じゃない?)

(カノンの奴め、卑怯な手を)

 残されたオレたち三人の意志がまたピタリと重なる。


 と、キラちゃんがカノンの元へ歩いてゆく。

「おいで、ランラン、この笹、オレがお前のためにとってきたんだ」


 が、ここでキラちゃんは足を止めた。

 そう、もう笹は十分に食べたのだ。

 と、キラちゃんはまた真ん中のポジションに戻って尻尾の毛づくろい。

 やっぱり可愛い。夢中になってる姿がまた可愛いすぎる!


「くくく、おまえらはまだブンブンのことをよく理解していないようだな。悪いがこの勝負、わたしがもらったぞ!」

 そう言ったのはク・リーリン、自信たっぷりにキラに向けて言葉をつないだ。

「ブンブンちゃん、!」


 その言葉にキラの耳がピクリと動き、ゆっくりと、しかし楽しそうに尻尾を揺らしてク・リーリンの元へと歩いてゆく。


「な、なによ、あれ?」と霧崎。

「ピングォは中国語でリンゴなのだよ。ブンブンは中国の出身、たとえこの手にリンゴがなくとも、その意味が伝わるのさ」


!)

 またしても残された三人の意志が重なる。


 だがまだオレには最後の切り札があった。


   🐼


「キラ!」

 キラちゃんがク・リーリンの元に着く直前、オレは鋭く呼び止めた。

 その声はなじみ深いものだったのだろう、キラが一瞬こちらを見た。


 オレは耳の横に手を当てていた。


 それは


 キラの眼がキラリと輝くのがわかった。


 そう、オレたちは長い間一緒にいたのだ。

 キラが何が一番好きなのかもわかっている。


 キラちゃんもまたバンザイするように手を上げた。じぶんを少しでも大きく見せるために。だがその手が微妙に短くて、手の先は耳までしか届いていない。


(ああ、なんて可愛いんだ!)

 再びオレたち全員の意志がピタリと重なる。

 もうこの可愛さの迫力にかなうやつはいないだろう。

 どんな殺し屋をも殺す最強の殺し屋。


 キラちゃんがガォーっとばかりに後ろ足で立ち上がり、オレにヨチヨチと向かってくる。


!」


   🐼


 この先はもう分かってるだろう?


 バンザイしてハイタッチしてゴロン。


 それがオレたちの一番好きな遊び。


 残りの三人がうらやましそうにオレとキラを見ている。


 キラが目をキラキラさせて万歳ポーズで近づいてくる。

 それからガォーとばかりにオレに倒れてきた。


 キラ、ホントにかわいいなぁ。

 ホント殺しも勝負もどうでもよくなっちまう。


 さすがは殺し屋を殺す殺し屋。


 オマエには誰もかなわないぜ。



 ~おわり~


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最強の殺し屋を殺す殺し屋を探す殺し屋を追う殺し屋 関川 二尋 @runner_garden

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