あ~したてんきにな~れ~愛の女神付き680円~

『うつろといしはら』

前半

 修学旅行1日目。

 僕は今、普段より少し高い場所から景色を見ている。

 がやがやと賑わう車内。

 観光バス独特の匂い。

 正直、オアシスには程遠い。

 

 が、しかし。

 僕の隣に咲く一輪の花は、どんなオアシスよりも僕の心を潤してくれる。


「楽しみだね!沖縄!

 ね!太陽たいようくん!」


 目を煌めかせながら流れる景色をみる女の子。

 彼女は風音香織かざねかおり。僕の想い人だ。


「う、うん。そうだね……」

「でも、あいにくの雨だなんて……私雨女なのかな?」

「いや、風音さんのせいかわかんないよ?みんなもいるし」

「はは、そうだね!優しいね太陽くんは」


 決してかばったわけではありません。

 すみません皆さん。これ、きっと『僕』のせいです。

 幼稚園児の時からイベントはことごとく雨でした。

 体質なのか、ただの偶然か。

 どちらにしてもこのままでは困るのです。



 ◇



 狭い空き教室で向かいあい駄弁る男女。


「でさぁ、告白しようと思うんだけどどうしたらいいかな?召子」


 そのうだつのあがらない二人は、僕と幼馴染の呼野召子よぶのしょうこだ。


「なんでいつも私にきくの……」

「お前しか相談できないからいってるんだよ」

「はぁ……で、なんだっけ?雨男体質をどうにかできないかって悩みだっけ?」

「そうそう。

 僕の夢はさ、美しい夕日の中、世界一愛する人に告白することなんだから」

「それはいいけどさ。私オカルト研究部だよ?わかってる?」

「だからこそだ。こんなの医者にいってもバカにされるだけだ」

「ふっ。ならいいのがあるよ?これ」


 そういうと召子は何か古い紙のようなものを手渡してきた。


「これってぇ———」




 ◇




 その夜男子部屋のベランダには一つの影が蠢く。


「よし。何々……ぱぴりぱぱぴりぱぴるぴるぴ~~~女神“ラヴィクス”よ!願いを叶えたまえ~~~」


 彼女に渡されたものは、古の『”愛の女神ラヴィクス”』を呼び出す魔法陣だった。

 教えられた呪文を唱えると昼間と見間違うくらいの光量とともにそいつは現れた。


「汝の願いをいいなさい」

「まぶしッ!ちょっ———みんなにバレるじゃん!!」

 

 光っているのはそいつの足元。

 魔法陣に僕の身体を覆いかぶせる。


「で?願いは?」


 何か女神様は不機嫌のご様子。

 まぁ無理やり呼んだのは僕だが、なんか器が少し小さくないか?


「僕の雨男体質をどうにかしてくれ!」


 願いを口にしたにも関わらず微動だにしない女神。


「ど、どうしたんだ……」

「あぁ~……それ無理だわ」


 なんていった……?


「はぁ?!女神だろ?」

「体質改善は、ちょっと専門外というか。

 お医者にでもいったら?」

「……なら、せめてあの雨雲をなんとかしてくれ!!」

「はぁ……めんど、ごほんごほん!

 わかったわ、迷える子羊よ。

 でも代償は払ってもらうわよ?」


 前言撤回だ。

 “少し”ではなく、器など皆無に等しいくそ女神だ。


 

「ああ……好きな人のためでもあるんだ。やってくれ」


 無言でうなずき、女神は手を合わせた。

 するとそこからさっきより強い光が発生する。


「さっきよりまぶしッ!?ちょっとあんた話をきいてたのか?皆にバレるって!!」

「うるさいなぁ黙ってて。

 はぁあああぁああぁぁあッ、め~が~み~、砲オオオァアアアアアアーーー!!!」


 そいつは、その溜まった光を一斉に雨雲に向かって放った。

 それはアニメに出てくるビームや気弾のような嘘のような迫力。


「あ、雨が……」


 雨雲が霧散していく。

 光は遠く宇宙の果てまで飛んでいく。

 こんなでもほんと神様なんだな。


「さてさてっと。願いは叶えたよ?

 それで代償の内容だけど——————」

「代償の内容は……」




 ◇




 修学旅行2日目。


「晴れたね!」

「う、うん」


 朝起きた時夢じゃないかとも思ったが、結果晴れているなら問題なしだ。

 ただ、気がかりなのは———




『代償の内容だけど……』

『代償の内容は……』


 しばらく間が空く。

 随分もったいぶるな……

 そう思っていると女神は一つ息を吸い込んで


『明日のお楽しみでぇ~す。ばいば~い』

『ええ?!はぁ!?』




 そうして消えていった。


 適当すぎるだろあの女神。


「ねぇ太陽くん?今日一緒に回らない?」

「ええ?!いいの?!?!」


 まさかの願ってもない提案!

 ありがとう女神様!!


 バスは人気スポットの有名商店街に向けて走り出した。



 ◇



「このハイビスカスのブローチどうかな?」


 彼女がブリーチを髪にあてがいはしゃいでいる。

 ここでは、お土産の購入、食べ歩きが定番だ。

 もうこの姿を見れただけで十分な気がしてきた。


「はは、いいかもね!地元にはない……し?」

「? どうしたの?」


 突如違和感を感じた。

 なんか胸の奥が熱い気が……?


「似合うかな?」


 テレ顔でそんなことを言われたら答えなど決まっている。

 だから僕は素直に答える。


「ああ!う、うん!とてもおおおッ!!」

 

 その時、身体に強烈な電流が流れる。


「んお˝♡おお˝ッお˝ッほッ♡♡!!」

「ええ?!ど、どうしたの?大丈夫?!

 なんで晴れてるのに落雷が……」


 どうやら被雷したらしい。

 いやいや、なんだこれッ———!

 カンカン照りで落雷?

 しかも生きてる……ちょっとまて。

 ま、まさか……お楽しみに~ってこのこと……ッ


『どう?代償の具合は?』


 その時、頭の中にあの女神の声が響いた。


『おいこれなんだよ!』

『“気持ちを素直に言わない”と感度100倍にする稲妻が君に落ちま~す』

『は、はぁ?!なんだよそれ!今すぐ解除しろ!!』

『いや、無理無理そんなの。愛の試練とでも思ってくれる?

 でも安心して、10時間もすれば治るから。

 ちょうど君の望み通り夕日には間に合うさ。

 それに好きな人のためなんでしょ?』


 ひ、卑怯な……!

 なんか頭からケツまで全部卑怯ッ!!


『……覚えてろよ』




「た、太陽くん。ほんと大丈夫?」


 風音さんが可愛い心配顔で僕の顔を覗き込んでいた。


「う、うん大丈夫大丈夫。

 そんなことよりもそのブローチ」

「え?」


 素直に……素直……に


「可愛いし似合ってるけど、風音さんの可愛さには敵わないかなっ!」


 ウインク付きの人生初のセリフ。

 目を見開き顔が紅潮する彼女。

 そりゃこんなこといきなりいわれても困るだけだよな。


「ええ?!そ、そう……かな?

 ……ありがと」


 まったく前途多難だ。

 早く次の夕方になってくれと願うことしか僕にはできなかった。

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2026年1月13日 06:58

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