砥石のトシオ

加賀倉 創作【FÅ¢(¡<i)TΛ§】

そしてゆきどけへ———

 あるところに、原始人の村がありました。


 そこに、トシオ、フツオという名の、若いの原始人が二人。

 

 トシオは、いつも自慢の狩猟用の槍の石刃いしばを、入念にいでいます、ギラギラに炎耀かがやくまでジャキジャキと。




 ———≫尖ったやつ。




 一方フツオは、石研ぎをはじめとするあらゆる手入れが、大嫌い、生粋の面倒くさがりでした。




 ———•図法螺ずぼらなやつ。



 

 二人の狩猟の腕は、どっこいどっこい。


 しかし、フツオの方が、その性格のせいか、手入れに割くような時間があれば狩に出かけてしまうので、トシオよりも圧倒的に、村の食料の獲れ高に貢献していました。


 ある日の夕暮れ。


 トシオ、

ウホホガゼルウホいちウホにい!」

 八時間でそれだけ。


 フツオ、

ウホホガゼルウホいちウホにい! ウハウハマンモスウホワンウホツウ!」

 十六時間でそんなに。


 その日の晩御飯は、お祭り騒ぎでした。

 

 なのにトシオは、最低限のガゼルの肉をつまむと、いつもお決まりの人気ひとけのない洞穴ほらあなこもって……




 «<〈ジャキ、ジャキ———ジャギィ!〉>≫

 



 これでもかと、砥石で研ぎ研ぎ。


ウホオォォォいいぞぉぉぉ……」


 トシオはそんなふうにいつも、丹精たんせい込めて磨いた槍の刃を、宝玉をでるように、うっとりと、見つめるのです。




 そこへ偶然……




 フツオが通りかかりました。


「あ、トシオじゃん。こんなとこで何してるの? あっちでパーリナイ、盛り上がってるよ? おいでよ!」


 フツオは、普段使いのウホウハな〈普通原語〉ではなく、〈いざという時に大切な相手にしか使わない語〉で、トシオに話しかけます。


「うーん……お誘いありがとう、なんだけど、俺は、こうしてる方が落ち着くんだよなあ……」


 トシオも、〈いざという時に大切な相手にしか使わない語〉で、返します。


 するとフツオは、


「今度さ、一緒にさ、光で草木が鮮明になる前に、一狩り行こうぜ?」


 と、やや詩的な表現で、別な誘い。


 しかしトシオ、かたくなに、


「いやぁ、早朝は面直つらなおしに限るからなぁ……」


 と、妙な断り文句。


「何だよ、『ツラナオシ』って。どうした? トシオお前、何か辛いことでもあるのか?」


 フツオにはわからない概念——面直つらなおし。


「おいおい知らないのか? あれだよ、まず、砥石で槍を研ぐだろう? じゃあ、槍を研ぐ砥石の方の手入れだってしないと、しっかりと研げないだろう? そこで面直し。砥石で槍を研ぐ前に、砥石を、面直し砥石で平らにするのさ」


 へへっと、鼻高々に、トシオ。


「アーコリャソノウチ砥石ヲ研グタメノ砥石ヲ研グタメノ砥石モ出テキソウダナア……」


 フツオは、トシオに聞こえるか聞こえないかくらいの声で呆れます。


 そしてトシオ、自慢げに、


「ほら、見てよ」


 見せびらかすように、研ぎたてギラギラの槍を高くかかげげるも……


 高く掲げ過ぎたようで、




 /\/\/\バキバキィン!/\/\/\




 トシオのギラギラ槍の切先きっさき

 洞穴の天井にぶち当たり、

 粉砕。



「あーあ。やっちまったな」

「うーわぁ! 最悪だ!」



 足元。

 夜空の星屑のように、

 砂地に散る黒耀石こくようせき'∵°•.∵。.


莫迦ばかだなぁ。いっつもいっつも、ぎすぎなんだって」

「そうか……確かに、そうだ。認めるよ」


 トシオは今、

 仄暗ほのぐら洞穴どうけつの殻を

 破る。




「刃、研げば鋭く。が、研ぎも過ぎれば、ひ弱に———」

 二句、フツオの先導。


「———薄平うすぺらやいばは彼誰時かはたれどきのみずうみ氷膜ひょうまく。身軽来訪者踏み入り一歩、いと、瓦解がかいし易し」

 もう二句、トシオの悟り。




 二人三脚、〈原始吟詠げんしぎんえい〉が決まる。


 槍を砥石で研ぐのは、槍をギンギラギンにして、芸術作品にするためではなく、あくまで生きるために、獲物を攻撃的に"狩る"ためだと、トシオは気づいたのでした。




   «—猟—•

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砥石のトシオ 加賀倉 創作【FÅ¢(¡<i)TΛ§】 @sousakukagakura

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