第5話 ハコの幽霊

 夜、好海さんからメッセージが入った。

「今日、警察署に呼び出されました。ママに一緒に行ってもらいました。ボランティア合宿のことを色々聞かれた。

 サトさんたちが櫂さんのことを話したらしくて、聞かれたので助けてもらったことを話しました。ごめんなさい。多分、櫂さんにも刑事さんから連絡があると思います。」

「了解。そのつもりしておきます。」

 早太子さんに見せると、「来たら、私は消えていますから」と言っただけだった。

「造成地で、早太子さんに乗り移っていた霊が居たことを早太子さんに言ってなかったけど、それは話して構わない?」

 隠し続けるわけにも行かなくなりそうだったから、僕は訊ねた。

「そうなのですね。あの二人のせいで亡くなった女性がいるのは、私も感じていました。その人が私を支配して、手を貸してくれたのでしょう。

 重機を二台、同時に動かせるというのは、恐ろしく強い力を持った霊だと思います。櫂さんには影響はありませんでしたか?」

 今になって背筋がゾクっとした。

「無かった。逆にありがとうって言われた。」

 霊の表情は寂しげだった。翠さんのように苦海に沈んでいたのだろうか。

「強くて善良な幽霊なのですね。救われることを祈りましょう。」

「善良な幽霊?」

「真面目な念を持つ人しか幽霊にはなれませんから。」

 面白がって幽霊になる人なんかいないし、悪意を持って幽霊になることも無いということか。

「おそらく、あの悪党の二人は、幽霊に追いかけられて殺されかけたと話すでしょう。もし、刑事さんからその話が出たら、見たことを話して構わないと思います。誰も信じたりしないでしょうが。」

 早太子さんはニッコリと笑った。

 翌日、会社から戻って着替えていると、ドアをノックする音がした。早太子さんは消えた。着替えを済ませて出ると、男が二人、手帳を出して立っていた。

「藤原さんから既にお聞きおよびだと思いますが、CPTのボランティア合宿の件で少々お伺いしたいことがあります。中でよろしいですか?」

 それからダイニングテーブルで小一時間、合宿所で起きたことを話した。

 警察が関心を持っているのは、労働搾取の方ではなく、放火と二人の悪党に対する傷害行為の方らしい。僕は重要参考人だったのかも知れない。

 藤原さんからSOSの連絡をもらったので、すぐに現地に出かけた。

 その後、起きたことをあらかた説明した。

「食堂には入らなかった?」

 出火原因を特定したいのだろう。

「直接二階に上がりました。」

「なぜ、二階に居た参加者たちを外に連れ出したんですか? 貴重品を持ってとあなたは言っている。それはなぜ?」

「時間を稼ぎたかったんです。八時十分までまだ時間があったから、女子が連れ戻されない為に、男たちの注意をこっちに引きつけたかったんです。他に方法が思いつかなくて。

 貴重品の件は、外に出るのだから、それが当たり前だと思って言いました。」

「かなり危険な感じはしませんでしたか? 二人の男に対してあなたは一人だ。それとも他に仲間が居たのですか?」

「食堂で見て、ヤバい連中だと感じました。でも、ここまで来たら身体を張るしかないと覚悟を決めました。」

「勇敢ですねぇ」と言って若い方が手帳に何やら書き込んでいる。

 中年の刑事が言った。

「その後のことを教えてもらえますか?」

 僕はビルの前で二人の悪党が造成地の方に駆け上がっていくのを大学生と一緒に見て、その後を追いかけて、重機二台が二人に襲いかかっているのを見たと話した。

「なぜ後を追いかけたのですか?」

「なんだか様子が普通じゃなくて、何かもの凄く怖がっているように見えて。鳥肌が立って、よく分かりません。いつの間にか追いかけていました。」

「時盛さんは、重機の操作は出来ますか?」と若い方が言った。

「いえ。車の免許も持ってません。」

 二人刑事は顔を見合わせた。

「操縦する人の顔を見ましたか?」と中年の刑事が言った。

「いえ。暗くて見えませんでした。」

「他に、何か見たものはありますか? 人影とか、話し声とか、物音とか。」

「これは、話す価値があるかどうか分かりませんが、女の人を見ました。」

「女の人?」

「すみません。見たままを話すと、ウソっぽいんですけれど、女の人が重機に挟まれた二人の顔を覗き込んでいるのを見ました。

 何て言ったらいいか、身体の輪郭がゆらゆらと陽炎みたいに揺れていて、蒼白く光って見えていました。それから消えてしまいました。」

「消えた? 立ち去ったのではなく?」

「はい。エッと思いました。一瞬自分の目が変になったのかと思ったくらい、突然居なくなったように感じました。それでゾーッとして、道を駆け降りました。

 何度か振り返ったけれど、誰も追いかけては来ませんでした。慌てすぎて、合宿所を通り越してバス停まで行ってしまって、三人の女子の顔を見たら大学生たちのことを思い出して、みんなを連れてきますと言って、また合宿所に戻りました。その後、全員で東京まで帰ってきました。」

「二人の男性と直接接点はなかったということで、いいですか?」

「はい。こっちは向こうの姿を見てますが、向こうは僕のことを知らないと思います。直接面と向かうことはなかったから。」

 二人の刑事さんは礼を言って帰っていった。帰り際に、合宿の労働搾取の方は問題になっていますか? と聞いたが、そちらの方は民事なので分かりかねます、という返事だった。

 翌日の夜にまた同じ刑事二人が訪ねてきた。玄関先で写真を五枚見せられて、「この中に知っている顔がありますか」と聞かれた。

 どれも若い女性の写真だった。その中に一人、造成地で見た幽霊と同じ顔があった。

「この人、造成地で見た女性、に似ていると思います。確証はないですが。」

 「ありがとうございます」と言って二人は去っていった。何の説明もなかった。

「造成地の幽霊の人、誰だか分かったみたいだよ」と早太子さんに言うと、「そのようですね。悪党の二人も観念して全部話すでしょう」と言った。

「そうだと良いけど。」

「必ず話します。あの二人、もう逃げられない身体になってしまったのに、病院にまで追いかけてこられたら、溜まらないでしょう。」

「え・・・もしかして、出てるの? 病院に?」

「そう思いますよ。ありがとう、って彼女言ったんですよね? 相手に通じる道を付けてくれて、無念を供養してもらえる可能性が出てきたから、櫂さんにお礼を言ったんです。」

 事件のその後の進展については、早太子さんにも分からなかった。

 それで早太子さんの能力の特殊性を、僕は知ることが出来た。

 早太子さんは、時盛櫂に直接関係する事柄に対してだったり、時盛櫂が居る空間では、抜群の能力を発揮できる。逆に、時盛櫂とは直接的に関係しない領域や、時盛櫂が居ない場所では、早太子さんの力はほとんどないらしいのだ。


 ボランティア合宿の労働搾取問題の方は、主催者側が無条件で、交通費を含めた全額を参加者に返金するという申し出があって終結したようだ。

 裁判になると他にも色々とほじくり返される恐れを感じたのかも知れない。参加者の大学生や保護者の方も、この問題にこれ以上関わりたくないという思いが強かった、と好海さんから聞いた。

 日曜日になった。好海さんとテニススクールに出かけるのは久しぶりだった。

「櫂さん、嬉しそうですね?」と早太子さんに言われてしまうほど、僕は気持ちが浮き立っていたらしい。「ゼンゼン! フツウフツウ!」と口では言ったけれども。

 ドアをノックする音がした。早太子さんは消えた。玄関を開けると好海さんが真っ白なテニスウェア姿で立っていた。

「おはよう。わ、カワイイ!」

 これまでは学校の体操着で参加していたのだ。

「似合いますか?」

 好海さんはポーズを取ってみせた。スコート姿が眩しかった。

「素敵です。似合ってる。」

「ありがとう。初心者なので温和おとなしめの白にしました。」

 歩き始めると、好海さんは料理教室に通うことにしたという話を始めた。

「前から料理が習いたかったんですけれど、合宿費が丸々浮いちゃったので、パパに抱きついて落としました。」

「泣きついたじゃなくて、抱きついた、なんだ!」

「抱きついたは大袈裟で、スリスリくらい。」

「スリスリ!」

 返ってリアルに想像出来て顔が熱くなった。

 翌週のスクールに向かう道すがらでも、料理教室の話になった。

 第一回目からペアを組んでもらっているのは、女性警察官の八井田真奈美さんという、どことなく沈んだ感じの人だったが、昨日はいっそう苦しげで、帰り際に思わず「大丈夫ですか」と声をかけたそうだ。

 真奈美さんは正直に「仕事場の嫌なことを紛らわそうとして無理して来てるの」と話してくれた。高校生の自分にそんな話をするのだから、よほど辛い思いをしているのだと感じたという。

 先日、警察で初めて参考人聴取を受けた時、不安で泣き出しそうになっていた好海さんに、優しく接してくれた女性警察官のことを、好海さんはとても感謝していた。

 だから辛そうにしている八井田さんのことを、何となく放っておけないような気がしたのだ。教室が終わってから、八井田さんを誘って、すぐ傍にある公園に立ち寄った。

 そこで自分と友だちが、時盛櫂さんという男性に助けてもらったことを打ち明けた。

「年齢は二十歳で、八井田さんから見れば、年下で頼りないと思うかも知れないんですけれど、意外と行動力があって、私たち二人だけでなくて、合宿に参加した大学生たち全員も助けられたんです。」

 そう話すと、八井田さんは縋るような表情を見せた。それでもし櫂さんの都合がつくようだったら、来週の教室に見学に連れてきます、ということになったそうだ。

「若すぎて、頼りない感じなんだ?」と僕は笑いながら聞いてみた。

「イジワル。そこが話のメインじゃないです。来週の土曜日の教室に見学に来て欲しいんです。可能ですか?」

「取り敢えず、話を聞くだけなら良いですよ。助けてあげられるかどうかは、その話を聞いた後ってことで良いなら。」

「良かった。私は櫂さんのこと、信頼してます。感謝してます。」

 好海さんは自転車を転がしながらぺこりと頭を下げた。


 見学はする分には自由にして良いということを確認して、翌週僕は料理教室の見学に出かけた。

 片付けを終えて教室を後にし、三人で近くの公園に寄ろうとした。

 公園の入り口で「好海ちゃん、私の話、長くなるかも知れない。だから、好海ちゃんは先に帰って? ごめんね。ありがとうね」と真奈美さんが言った。

 好海さんはすぐに納得して「櫂さん、お願いします」と言って帰っていった。

 僕たちは富士山の形をした滑り台の頂上に座りながら話した。

 真奈美さんはこんな話をした。

 彼女は去年から、歌舞伎町にほど近い町の交番勤務になった。五十代のごま塩頭の先輩が指導役で、もう一人、三十代の先輩との三人での勤務だった。

 ある夜勤の時、二階の仮眠室で指導役からマッサージをするように言われた。もう一人の先輩はパトロールに出ていた。

 嫌な感じがしたが、下着姿になった指導役の警察官の全身をマッサージした。

 最初の内は「ありがとう、身体が軽くなった」と言われるだけだった。

 ある時、マッサージしてやるから横になれと言われた。結構ですと断ると、「俺のサービスが受けられないのか!」と怒鳴られた。

 仕方なく横になると、上着ぐらい脱げと言われた。上着を脱いで横になり、全身のマッサージを受けた。

 体中をいじられるようで、嫌で嫌で堪らなかったが、目を瞑って我慢してしまった。先輩に逆らえなかったのだ。

 その内に飲み会の席で、「お前少し肉付き良くなってないか」と言いながら腰や尻を触られるようになった。

 「止めてください」と言っても「何馬鹿なことを言ってるんだ、いつも触り合ってる関係だろうが」と止めてくれなかった。

 もう一人の先輩は、居心地が悪そうにしているだけだった。

 この間はマッサージの間に股間に手が伸びてきた。慌てて起き上がって逃げると「ふざけるな」と怒鳴られた。

 構わず仮眠室から飛び出して、その夜はずっと交番の外に立った。怖くて中に入れなかった。

 それから仮眠室を使えなくなった。同時にその先輩から、ちょっとのことで怒鳴られるようになった。

「こんなことも出来ないのか。辞めちまえよ!」

「だから女は使えないんだよな」と言って髪の毛を摑まれて揺さぶられた。

「ここ以外にどっか役に立つとこがあんのか?」と言って尻を触わられた。

 もう続けられそうにない、もう辞めたい、と真奈美さんは言った。

 僕は悲しくなったし、怒りが込み上げてきた。

「次の夜勤はいつですか」と訊ねた。

「明日の日曜日。でも、病欠しようと思ってます。もう耐えられなくて。」

「それが良いです。連絡先、教えてもらって良いですか。八井田さんのお役に立てれば嬉しいので、じっくり考えてみたいと思います。」

「ありがとうございます。無理をなさらないでください。話を聞いてもらえただけで、気持ちが楽になりました。本当にありがとうございます。」

 僕は帰宅して早太子さんに相談した。

「虫唾の走るような嫌な話ですね。」

「まったく。正義の門番であるはずの人間が!」

 腹立たしさがまたぶり返した。

「その人は、元々そういう人なのです。道を間違えてしまって、そういう人だからストレスも大きくて、負の衝動を溜め込んでしまうのです。」

「八井田さんのこと、助けてあげられるかな。」

「そういう人は、放っておけばエスカレートするし、仮に八井田さんが辞めて居なくなったとしても、すぐにまた次のターゲットを探します。女性警察官でなくても、一般人の女性たちだって標的にされかねません。」

「そういうヤツか・・・」

 僕は唖然としてしまった。そこまでの人間だと思っていなかったのだ。

「そういう念を持った人間です。」

「もしかして、八井田さんの前にも被害者が居るってこと?」

「居るでしょうね。」

「ただ脅かすだけじゃ、終わらないということか。」

 これは早太子さんの出番だなと思った。

「まず警察権力から外れてもらいましょう。それで改心するとは思えませんから、消せないスティグマを押しておく必要があります。

 明日はテニスを休んでもらって、午前中に小型カメラと、それを内蔵できるお弁当箱と、それを入れる保冷バッグを準備してください。

 帰ってきたら、すぐにカメラをお弁当箱に取り付けて、保冷バッグは盗撮が出来るように工作をしてもらいます。」

 僕はワクワクしてきた。

 翌日の午後、早太子さんの見守る中、僕は隠しカメラの準備をした。我ながら見事な出来映えだった。発信器を取り付けてPCに映像を飛ばし、リアルタイムで見られるようにもした。

 早太子さんは保冷バッグの取っ手にどこかで購入してきたスカーフを巻き付けて、おしゃれ感を演出した。

 それからこれもどこかで購入したらしい下着とセパレーツに見えるミニのワンピースに着替えて、僕の前に立った。

「どうでしょうか。キャバ嬢に見えますか?」

 僕はスマホでキャバ嬢のファッションを検索して早太子さんに見せた。

「お化粧を濃くして、アクセサリーも必要だと思うよ。」

「では急いで買いにいきましょう。」

 さっそくデパートに買い物に出かけた。安くて派手な感じのアクセサリーを揃えた。

 コスメカウンターでは「今日、キャバクラに初出勤なんです」と言って、早太子さんは濃いめの化粧を施してもらった。つけまつげを乗せると、全くの別人になった。

 使った化粧品一式とタトゥーシール、ロールタイプの香水、ネールシールも買った。かなりの出費だったが、僕はまるで早太子さんのお客さんになったような気分で嬉々として支払いを済ませた。

 帰宅してから、真奈美さんに今日は予定通り欠勤するようにメッセージを送った。

「今晩、ちょっとおしおきをします。首尾はまたSNSで連絡します。」


 宵の口に一度交番を訪ね、道を聞くフリをして、五十代のごま塩頭と三十代のキリッとした感じのと、二人の警察官を確認した。

 夜10時頃に若い方が自転車でパトロールに出た。

 早太子さんが動いた。酔っ払ったキャバ嬢になっていきなり交番に入っていった。

「ちょーっとね、酔っ払ったのでー、豚箱で休憩さしてくんなーい?」

 呂(ろ)律(れつ)の回らない状態で、デヘヘと笑いながら早太子さんは言った。

「お嬢さん、呑みすぎだよ。ここ、座って、酔いを醒ましていきなさい。」

 ごま塩頭の巡査は奥からコップに水を汲んで持ってきた。ここまでは優しいおじさんだった。

 早太子さんの保冷バッグは状況を上手く映し出していた。僕は交番の裏の公園のベンチに座って、映像を見ながら録画していた。

「ケチだねー、これお水じゃん。おまわりさーん、でもね、ワタクシ、ちょっと寝たいのですよ、ワータクシは。横にならしてー。」

 そう言って早太子さんは勝手に奥の階段の方に向かってヨタヨタと進んだ。

 ごま塩頭の巡査は慌てて早太子さんのふらつく身体を支えながら、二階の仮眠室に連れていった。一瞬顔が映ると、ニンマリと笑っているのが分かった。

 早太子さんはふらつきながら絶妙の位置に保冷バッグを据えると、簡易ベッドにドサッと横たわった。

「ミレイはここで寝まーす。おじさんは外で見張りをしていなさーい。」

 早太子さんは誘っていないということを明確にしたが、ごま塩頭の巡査は我慢出来なかったらしい。すぐに早太子さんに覆い被さっていった。

「こうされたくて来たんだろ?」

 そう言いながら早太子さんの服を脱がしに掛かる。早太子さんは激しく抵抗した。

「イヤー! ヤダ! ヤダって!」

 明白な不同意だ。

 半裸の状態にされた時、早太子さんの身体が激しく痙攣し始めた。僕もビックリしたが、ごま塩頭の驚き方はそれ以上だった。

 ベッドの上で早太子さんの身体は遂に反り返り、硬直し、動かなくなった。

「なんだ? どうした?」

 ごま塩頭はオロオロしている。頸動脈に手を当てている。

「ウ? 死んでるのか? ウソだろ?」

 口元に頬を寄せて呼吸を確認し、胸に耳を当てて鼓動を確認する。動いていない。そりゃそうです。始めから死んでいるので。

 ごま塩頭は呆然と立ち尽くした。するといきなり早太子さんの身体が浮き上がった。

 ごま塩頭は目を大きく見開いていた。身体がワナワナと震えている。

 照明が消えた。闇の中に早太子さんの背を向けた身体が蒼白く浮かび上がった。

 オ・・・オ・・・オ・・・

 交番の建物を震わせるような苦悶の声が立ち上がってきた。

 ワタシノ・・・カラダヲ・・・モテアソンダ・・・

「ち、違う! 何もしてない! ヒーッ!」

 早太子さんは振り向いた。白い目が睨み付ける。髪の毛が蛇のようにのたうつ。そして霊ワープ!

「ギャッ」と叫んでごま塩は腰を抜かした。それから仮眠室の奥のスペースにオタオタと這いつくばってゆき、金庫をガタガタ言わせながら開けるとそこから拳銃を取り出した。

「くっ、来るなー!」

 叫びながら拳銃を早太子さんに向けた。早太子さんが怯むはずがない。

 オ・・・オ・・・オ・・・

 怒りに部屋を震わせながらごま塩頭に迫ってゆく。パン! パン!

 二発銃声が響いた直後に「ウワーッ」とごま塩は叫んで拳銃を放り投げた。

 拳銃は真っ赤に燃えているように見えた。発熱したのか、次の瞬間に爆発して、拳銃は飛び散った。

「ウワッツ、イテー・・・」

 ごま塩頭は両方の手のひらに火傷をしたらしい。しかし、流石に警察官だ。早太子さんの前で気絶はしなかった。

 それでもその場には居られなかったらしい。ごま塩頭はヒーヒー言いながら階段を転げ落ちて外に走り出ていった。どこに行ったのか分からなかった。

 早太子さんは保冷バッグを回収すると、僕の前に霊ワープしてきた。

「帰りましょう。まだ少し仕事があります。それは部屋でやりましょう。」

 僕は公園の駐輪場に止めてあった自転車で、夜中の内にアパートに帰ってきた。

 家で、キャバ嬢のミレイちゃんが死んで幽霊になって復讐する動画を、メッセージと共に公安警察とスキャンダル好きな雑誌の編集部に送りつける準備をした。

「この警官は人殺し? 証拠は両手の火傷だ。死体はどこに隠された?」

 効果は即座に現れた。交番からごま塩頭が消えた。

「あの親切なごま塩頭のお巡りさんを最近、見ませんね」と鎌かけてみると、「あの方は退職されました」とのことだった。

 それからすぐに雑誌がスクープ記事を出した。動画はまるで幽霊が実在するような内容だったから、それ自体は公にはならず記事も面白半分だったけれど、それで十分だった。

 両手の火傷の痕を見る度に、ごま塩頭の頭には、恐怖と悔恨が蘇るだろう。

「社会的な制裁が厳しいだろうね。」

 僕はごま塩頭には、家族があるだろうに・・・と思った。

「それも含めて大変な思いをしてもらいましょう。」

 早太子さんの横顔にはゾッとするような冷たさがあった。

 真奈美さんには、僕が動く前に都合の良い事件が起きてしまった、と伝えた。キャバ嬢のミレイちゃんと僕とは無関係という体にしたのだ。

 真奈美さんがその話をどんな風に受け止めたかは分からなかったけれど、ともかく真奈美さん自身は、女性警察官として再スタートを切ることが出来た。その点は本当に良かった。その後も料理教室で、好海さんと楽しく学んでいるということだった。

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