第3話 児童公園の幽霊

 長野の事故現場を訪れて以来、僕自身にとっては「幸せになる」ということが極めてハッキリとした生きる意味になってきた。

 具体的に言うと、僕は本格的に恋活をする決意を固めた。

 心に巣くっているこの寂しさを埋める必要がある。

 このまま放っておくと、僕は早太子さんに恋をしてしまいそうだった。そうなれば、自分の命を削り落とすだけではない。僕が死んでしまった後に、幽霊の翠さんを彷徨(さまよ)い人にしてしまうことになりかねない。僕の中には早太子さんを僕の元に送ってくれた、翠さんに対する感謝の念があった。だからそんな残酷な結果を招くことは、絶対にあってはならない。

 さてそれではどうするか。マッチングアプリは使わない。別に抵抗があるとか、不純だとか、危険だとか、そういう意味ではない。

 恋活を通じで、自分の世界を広げたいと思うのだ。ん? 逆か? 自分の世界を広げることを通して恋活をしたい、そうそう、そういうことだ。

 僕は高卒で就職をしたから、生きている世界が狭い。

 大学で色々な体験をしている友だちと話していると、どうしても自分が灰色な日々を送っているような気がしてくる。

 しかし、僕には大学生の友だちに比べて決定的なアドヴァンテージがあった。お金はある。これだ。これを活用しないでどうする、と考えた。

「出会いを求めて、色々な人たちと関わりを持ちたいと思っているんだけど、早太子さん、どう思う?」と聞いてみた。

「良いことだと思います。幸せへの第一歩は、色々な人たちと関係を持つことです。」

 幽霊だけど、早太子さんはいつももっともなことを言う。その知見はどこからやってくるんだろう。世の中の色々な人たちの心の中を覗き見したりとか、するんだろうか。

「まず、料理を習おうかと思うんだ。そうすれば、出会いの前に、早太子さんのお手伝いが出来るようになるし、一緒に買い物をするときも、戦力になって、もっと楽しくなるんじゃないかと思うんだよね。」

「それは素晴らしいアイデアですね。」

「それから、可愛いウェイトレスの居るカフェを探して、常連になっちゃうなんてのはどうかな。」

 ふざけ半分な言い方をしたのは、照れ臭かったからだ。

「それは良いアイデアとは思いません。」と早太子さんは言った。

「どうして?」

「水商売をする女の人は、女であることだけではなくて、自分を売る意識があります。非常に冷静で、現実的です。一見良いように聞こえますが、普通、そういう子はピュアを演じたり、かわいらしさを演じたり、知性をちらつかせたり、とにかくあらゆる手を使って自分の価値を上げようとします。そして目標は、大抵はお金です。手段が自分のイメージです。冷静で現実的というのは、そういう土台の上に築かれています。だから、そんな女の人と一緒に生活しても、良いことはありません。お金にプラスが生じなくなったら、男はすぐに取り替えられてしまうでしょう。そのくらい、現実的だということです。」

 ちょっと極端な意見かなとは思ったが、僕は反論しなかった。

「了解しました。鋭いご指摘をありがとうございます。でも、早太子さんはどうしてそういうことが分かるの? だって、幽霊なんだし・・・」

「私は人の心の中を覗き見ているのです。」

「ヤッパリっ!」

「ウソです。櫂さんがそう思っているんじゃないかと思って言ってみました。理由は分かりません。知っている、ただそれだけです。」

 謎だけが残った。

 結局、僕が思いついたアイデアの内、早太子さんの承認を得たのは料理教室、テニススクール、読書サークル、そして大学生になった友だちに連絡を取って、合コンに呼んでもらう、この四つだった。

 さっそく近所の図書館に出かけていって、読書会というのを見学させてもらった。驚いたことに、来ているのは高齢の方ばかりで、若者は一人もいなかった。そりゃそうかもしれない。僕たちの世代はスマホで読書を済ませてしまうし、スマホで感想を共有したりするのだ。こういうアナログな場には来ないのだと納得した。

 次に料理教室に当たってみた。

 入れそうなところを見学してみると、ある程度年齢のいった主婦層が中心で、そこに中年のおじさんたちが混ざっている感じだった。若い女性はどこに居るかというと、婚活の一環として料理を学びたい女性のための教室だった。当然そこには下心のある男性は入れない。

 いきなり二つ消えてしまった。三つ目のテニススクールは、少し状況は違って、初心者コースでも高校生や大学生くらいの女子がたくさん居た。早太子さんもやるだけの価値があると言ってくれたので、そのスクールに申し込むことにした。

 あとは大学に進学した友だちに連絡した。

 仕事場では、コンプライアンスの関係であまり夜のお付き合いがないので、合コンとか飲み会なんかがあったらぜひ誘って欲しい、と言うと友だちは喜んでくれて、さっそく飲み会の誘いが来るようになった。


 さて僕は週一回、日曜日にテニススクールに通うことになった。

 まずウェアとラケット、シューズを購入した。早太子さんと一緒にスポーツ用品店にゆき、早太子さんにも勧めたが「私は結構です」と断られた。

 幽霊がテニスをするなんて話は聞いたことがないけれど、ちょっと見てみたかったのだ。

 テニススクールは近所にあったから、部屋で着替えて走っていった。初心者クラスには、僕の他に二十代の男性一人、女性四人、女子高校生が二人、合計八人だった。二十代の女子の姿が眩しかった。高校生は学校の体操着だろうか、ブルーのクォーターパンツで、まだまだ子どもにしか見えない。

 技術的には二十代女子たちが上手だった。経験者なのだろう。男子二人と女子高生は、その後をヒーヒー言いながら付いてゆく感じだった。

 第一回目の教室が終わって、クラブハウスのラウンジで休憩していると、高校生二人がニコニコはしゃぎながら隣のテーブルにやってきた。

「お疲れ様です」と声を掛けると「お疲れ様です」と明るく返事をしてくれる。二人とも長い髪をポニーテールにしていて、一人はどことなく翠さんに似ていた。

「僕は時盛櫂って言います。今日初めてテニスをした初心者なので、色々教えてください。」

 相手は高校生なので、下心はなかったけれど、女子と話せる雰囲気がコートの中に欲しかったので、ともかく人間関係を作ろうという一心で話しかけた。

 二人は顔を見合わせてクスッと笑うと、自己紹介をしてくれた。

 一人は藤原好海ふじわらこのみさん。もう一人は高塚寧音こうづかねねさん。二人とも高校二年生で、二年生になってからテニス部に入ったのだが、下手すぎて部活を諦めるかどうかという瀬戸際なのだそうだ。

 先生に相談しにいったら、「お金はかかるけれど、スクールに行って習えばすぐに遅れは取り返せるよ」と言われたそうだ。「プロに習っていうことは、それほど凄いことなんだぞ」と言われたらしい。

「じゃあ、僕も頑張ってみますよ。希望が出てきました」と言ったら、二人とも「一緒に頑張りましょう」と同調してくれた。

 翌週は高校生は藤原好海さんだけだった。

「高塚さんはどうしたの?」と聞くと、風邪を引いたらしい。スクールの最中に藤原さんと話しながら、他の参加者たちとも話した。コートの中に少し雰囲気が作れたのは良かった。

 終わってラウンジで休憩していると、藤原さんがやってきた。

 一人のせいか少し緊張している。その分、表情が大人びて見えた。

「お疲れ様」の挨拶をして、さっそく今日の課題の話をした。

「バックハンドのストロークって、難しいですね。僕は苦手だなぁ。」

「私も苦手です。」

 結構上手に出来てたのに? と思ったので聞いてみた。

「ラケットをしっかり引く、ってコーチは盛んに言ってたけれど、なんかコツみたいのあるんですか?」

「肩を入れるって学校で習いました。」

 藤原さんは立ち上がってその動きを見せてくれた。

 僕も立ち上がって、その格好を真似してみた。

「肩を、入れる? こう?」

「そうです。そうするとラケットの引きが上手く出来るみたいです。その上で、打つ前のタイミングで右足を踏み込む。」

 藤原さんは言いながら自分でやって見せてくれた。

 そう言われてみると、確かにそんなフォームでみんなは打っていた。僕は打つ瞬間くらいに踏み込んでいたらしい。だから、必ず差し込まれて上手く前に飛ばなかったのかもしれない。

「あぁ、このタイミングか。難しいですね。来週、そこを集中的に練習します。ありがとう、教えてくれて。」

「ただ憶えていただけで、コートに立つと、なかなか出来ないんです。」

 藤原さんはかわいらしく謙遜した。

「そんなことないですよ。出来てましたよ。なるほど、そういう意識でやってたからかって今、納得がいきました。」

 なんかプレーをずっと見てたみたいで、嫌な感じがしないか心配だったが、藤原さんは少し頬を染めたくらいで許してくれた。

「僕は歩きなので」とクラブハウスの前で別れようとすると、「途中までご一緒して良いですか?」と言ってきた。それで藤原さんは自転車を押しながら、二人で並んで歩き始めた。

 藤原さんたちは私立の女子高に通っているそうだ。中学時代から仲良しのクラスメイトで、今はクラスは違うけれど、学校の行きも帰りも一緒なのだという。

「テニス以外には、何か興味のあることありますか?」と聞くと、「音楽を聴くことと、テレビドラマを観ることと、マンガを読むことが好きです」と言う。

「音楽とドラマは僕も好きです。マンガは最近はあまり読まなくなったな。」

「ドラマは何を見てますか?」と聞かれた。

「デストピア2030。」

「それ! 観てます!」

 近未来の行き詰まるような監視洗脳社会を描いて、その中で主人公の女子二人が監視と洗脳のネットワークから逃れてゆくという知的な脱出ものだった。藤原さんも面白がって見ていた。

 超売れっ子女優のダブル主演ということもあって話題だった。そのうちの一人、愛澤乃愛あいざわのあは、僕の推しでもあった。

「愛澤乃愛が可愛いし、演技も好きで、ドラマの内容もスリリングで面白いし、今一番好きかな。」

「乃愛ちゃん、可愛いですよね。私は木村 うた派なんです。」

「木村詩も良いよね。」

 去年主演したドラマ「永訣」というホラーの迫真の演技でファンになったという。

 あれこれ話しているうちに、僕のアパートの前に着いた。

「僕はここの三階に住んでるんです。それじゃ。」

「あの、SNS、交換してもらって良いですか?」

「良いですよ。」

 最後にごく自然にそんなやり取りになった。

 部屋に戻ると早太子さんがコーヒーを淹れてくれていた。

「楽しかったですか? お友だちも出来たみたいですね?」

「お友達ってほどのことはないんだけどね。今、一緒に帰ってきたのは高校二年生だから。二十代の女子とはこれから仲良くなろうとしてるってところかな。」

「二十代というのは、同じ年齢か歳上かということですね?」

「まあね。良い雰囲気の子たちだから、友だちになるには良いかなと思って。」

「その、高校二年生とは仲良くなれそうですか?」

「うん。ドラマの話で盛り上がった。SNSも交換した。」

 そこにスマホの新着通知が鳴った。見ると藤原さんからだった。

「今日はありがとうございました。また一緒にお話ししてください。」とあった。

「さっそく連絡がありましたか?」

「うん。返信します。『こちらこそ ありがとうございました ドラマの話ができて楽しかったです またお話ししましょう』これでいいかな?」

 早太子さんに見せると、「よろしいんじゃないでしょうか」と合格点がでた。

「高校二年生と仲良くなってもしょうがないんだけど、スクール中のテニスコートに気楽に話せる雰囲気があると良いなと思って、積極的に話しかけてるんだ。」

 僕は言い訳でなくて、正直に話した。でも、早太子さんの考えは違った。

「その方は今は十七歳かも知れませんが、三年後には二十歳ですね。その時に櫂さんはおいくつですか?」

「三年後なら、二十三。」

「ちょうどよろしい年齢じゃないでしょうか。」

 なるほどそういう見方もあるか。三年後に恋人になれたなら、それはそれでお互いのこともよく分かっていそうだ。藤原さんの姿を思い出したが、グッとくる感じは起こらなかった。

「そうだね。」と言いながら僕は、他の二十代の女性たちを思い浮かべていた。


 翌週も高校生は藤原さん一人だった。教室を終えてラウンジで休んでいると、藤原さんがやってきた。

 「高塚さん、まだ具合悪いの?」と聞くと、「風邪は治ったんですけれど、ちょっと困ったことが起きて・・・」と歯切れが悪かった。

 「そう?」と言いかけて踏み込んで良いものかどうか分からずに黙っていると、「少しご相談しても良いですか?」と聞かれた。

 「どうぞ。お話を伺うだけでも良かったら、聞きますよ」と言うと、堰を切ったように藤原さんは話し始めた。

 高塚さんは先週末に風邪を引いたが、日曜日にしっかり身体を休めて、月曜日には登校してきた。ところが、定期入れのストラップをカバンから外していたことをすっかり忘れていて、通学路のどこかで落としてしまった。

 家に帰ってから気が付いて、駅までの道を探したが見つからない。仕方なく最寄りの駅に届けて、翌日の火曜日は切符を買った。帰りに駅の窓口に寄ると、定期入れは届いていた。

 身分証も入っていたからかなり焦っていたのだ。

 届けてくれた人の記録は無く、善意の人に拾ってもらって良かったと思っているところにスマホが鳴った。

「定期入れを駅に届けた者ですけれど、もうお手元に戻ったかどうか、気になりまして、お電話してしまいました。」

 定期入れを拾ってくれた人が、心配して掛けてくれたのだと思った。

「ありがとうございます。助かりました。」

「いえ、良かったです。」

「あの、お礼をさせてください」と言うと、「いつも使っている駅に届けただけで、大した手間ではなかったですが」と言いながらも、「最寄り駅の改札でお会いしましょう」ということになった。住所だけ聞いて何か送るつもりだったが、個人情報は言いたくないのかもしれないと考え直した。

 翌日水曜日に会ってみると、スーツを着た三十歳くらいの大人の人だった。身なりもきちんとしていた。

 雑貨店で購入したストラップを上げたら、「いや、こんな素敵なものをもらうほどのことをしていませんよ」と大袈裟に喜んで、逆にお礼をしなきゃ、ということに話が進んでしまった。断るのを無理矢理近所のファミレスに連れていかれた。

「こんなに素敵なJKがこの駅を使ってたなんて、全然気がつきませんでした。利用する時間帯が違うせいですかね。ぜひ記念に写真撮らせてください」と言って、承諾もなく写真を連写された。これには鳥肌が立った。

 高塚さんは、塾の時間があるからと言ってすぐに店を出た。後ろから「ありがとう」という声が追いかけてきた。

 部屋に戻り、失敗したと思って落ち込んでいると、メールが入った。

 定期入れの中に手作りの名刺を入れていたのだ。新しい友だちにアドレスやスマホの番号、趣味などを知ってもらう為のカードだった。

 「また、会いたいので、明日は何時頃に最寄り駅に帰ってくるの? 四時半くらいかな?」とあった。急にタメ口になったのも気持ちが悪かった。

 それから執拗にメールが送られてきた。会いたいと言ってくる。怖くて無視していたら、土曜日にとうとうこんなメールが来た。

「会ってくれないなら、寧音ちゃんの画像に住所と電話番号添えて、誰とでもやる女ってコメント付けちゃって、ネットに晒しちゃったりして。そんなことはしないかな、どうするかな。一度アップされちゃうと、コピーされてネット上で二度と削除出来なくなるかなな。」

 脅しだった。善意の人ではなかったのだ。

 「やめてください」と返信すると「また会ってくれますね?」と言ってきた。

 親にも話せなかった。

 身体がだるいから今日のスクールは休むと連絡して来た時、藤原さんはおかしいと思ってよくよく話を聞いてみた。

 「怖くて家から出られない」ということだった。

 「聞くかぎりでは、警察に言えばすぐに対応してくれそうですけれど」と僕は言った。

「私もそう言ったんですけれど、寧音は『もし手遅れになって画像が出回ったりしたらって思うと怖くて話せない』と言って泣いてました。」

 藤原さんの眼も潤んでいた。大切な友達なのだ。

 別れ際に僕は、何か良いアイデアが思いついたらすぐに連絡すると約束した。帰宅して早太子さんに事情を話した。澄玲さんのケースと比べても遙かに悪質で許しがたい、と話した。

「そうですね。懲らしめてやりましょう。それに、櫂さんが好海さんの信頼を得るまたとないチャンスです。この機会をぜひ利用しましょう。」

「早太子さんは、藤原さん推しなんだね。本人の僕はまだピンときてないけど。」

「可愛いと思いませんか?」

「可愛いとは思うよ。同時に子ども子どもしているとも思う。」

「それで良いのです。まだ表面に大人の部分が現れてきていないだけです。女の子はあっという間に変わりますよ。それはそうと、藤原さんに連絡して、高塚さんの家の住所を教えてもらってください。すぐに下調べをして、今夜の内に終わらせる必要があります。」 僕は藤原さんに電話をして、高塚さんの住所を教えてもらった。自転車なら十分ほどのところだ。僕たちはさっそく地図を持って現地の視察に向かった。

 静かな住宅街だ。近くに公園がある。行って実際のところを見てみると、緑が多くて心地良い空間だった。しかし夜には暗闇がちょっと多くなり過ぎる気配があった。早太子さんはここにしましょうと言った。

「ここに相手の男性をおびき寄せます。高塚さんに待ち合わせの約束をしてもらいましょう。親に内緒で、夜の十二時、三十分だけの約束で会う、公園に着いたら、必ずメールで到着したという連絡をくれる、そんな設定で良いと思います。至急、藤原さんに連絡してください。」

 僕は電話を掛けた。早太子さんの言葉を高塚さんに伝えてもらい、しばらくして約束が成立したという返事があった。僕たちは一旦アパートに引き上げた。

 十一時過ぎに僕たちはアパートを出発した。コンビニの袋に歯磨き粉のチューブを入れて、買い物帰りのふりをした。

 公園の入り口は交差点の角を挟んで二カ所ある。僕たちは夜の街角をぶらぶらと行ったり来たりしながら、公園の二つの入り口を監視した。

 十二時十分前にスウェット姿の男が一人やってきた。公園の広場にある鉄棒に寄り掛かってスマホを取り出した。「今着いたよ」と高塚さんに連絡しているのだ。僕は入り口脇の暗がりに潜んだ。早太子さんは消えた。

 見ていると、いきなりパーンという破裂音がして、男の持っているスマホが爆発した。「アイッ!」

 男は指を抱え込むようにしてその場に蹲った。爆発の勢いで指が吹っ飛んだか、火傷をしたらしい。地面に落ちたスマホは火を噴いている。

「イテー・・・」

 苦痛に呻く声が聞こえている。

 その背後に早太子さんがフッと現れた。蒼いオーラがゆらゆらと燃えている。

オ・・・オ・・・オ・・・

 あの地響きのような怨の声が聞こえてきた。

「ワタシノ・・・ネネヲ・・・ドウスル・・・ツモリダ」

 早太子さんの姿に気付いた男が「ヒーッ!」と叫び声を上げた。

 真っ白な眼が男を睨み付けている。

 そして霊ワープ! 早太子さんは男の上に覆い被さった。

「ヒッ!」

 男はそのままドサリと地面に倒れ込んだ。失神してしまったらしい。早太子さんのオーラが消えて、こちらに顔を向けた。普段の顔に戻っている。

 僕は安心して駆け寄った。

「どうだろう? こいつ、懲りたかな?」

「大丈夫そうです。念はないようです。いずれにせよ、スマホは破壊しましたし、こちらで処分してしまいましょう。」

 なんか臭かった。焼け焦げた精密機器の臭い、ではない。

「もしかして?」

「ええ。この人、大小便を漏らしています。まあ、それも含めて、大変な思いをしてもらいましょう。」

「痺れるような解決・・・だね?」

 僕はその場で藤原さんに電話をした。起きて待っていてくれた。男のスマホを破壊したこと、それからもう二度と高塚さんに近寄らないと約束させたと少しウソも織り交ぜて報告をした。

「写真データはもうなくなったということですか?」

 藤原さんは驚いて言った。

「そうです。そのことを高塚さんに話して、万が一、今後何か起きた時には、安心して警察に相談するようにと話してあげてください。」

 帰り道に僕は言った。

「早太子さんは、女の本質は自己中だって、言ってたけど、藤原さんは、友だちのことで涙を流せる子じゃないかなと思うよ。僕の見立ては甘いのかな。」

「いいえ。そこが藤原さんの良いところだと思います。そういう気持ちを持てるということです。だからあの子はお勧めなんですよ。」

 早太子さんの女性を見る見方は変わらないらしい。でも、僕の見方はちょっと違うような気がする。藤原さんを見ていて、その違いがハッキリしてきたような気がした。

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