確定してしまった僕と彼女たちの距離 —戻れない僕と彼女たちの瞬間について
@PEDRONE
第1話『駅まで送る』
大学に入ってすぐの頃だった。
隣の席になった彼女を、部屋に招いた。
誘ったというより、
そういう流れになった、という方が近い。
彼女は、特に迷う様子もなく来てくれた。
部屋で話しているうちに、
彼女の言葉の端に、
少しだけ別の気配が混じることがあった。
一晩、という言葉を、
僕は頭の中で一度だけ思い浮かべた。
でも、そこで止まった。
夕方になり、
近くのレストランで食事をした。
大学のこと。
地元のこと。
どちらでもない話。
店を出たとき、
僕は自然に言った。
「駅まで送るよ」
そのとき、
彼女は一瞬だけ立ち止まり、
僕の顔を見た。
「……がっかりした?」
責める感じではなかった。
確認、
あるいは、
最後の合図のような。
僕は答えなかった。
言葉が見つからなかった、
というより、
言葉を、選ばなかった。
二人で歩き、
改札の前で別れた。
それだけだった。
もし、
あのとき別の言葉を選んでいたら、
という想像はできる。
でも、
それを書き始めると、
この話は別のものになる。
それから何年も経って、
同窓会の知らせの中で、
彼女の名前を見た。
メガバンクの役員。
仕事のできる女性の成功例として、
記事と写真が載っていた。
学生の頃の面影は、
ほとんど残っていなかった。
美しく、
自立していて、
僕とは別の場所にいる人だった。
幸せそうだ、と思った。
あの夜、
駅まで送らずに、
部屋へ戻っていたら、
どうなっていただろうか。
想像はできる。
いくつも。
でも、
ここでは書かない。
現実には、
僕は駅まで送った。
それだけが、
確定している。
その確定の上に、
今の僕がいる。
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