千年破滅願望──消えたいと願う度、世界が壊れた。

濃紅

破滅願望

破滅願望の生誕 ❶

───


目を覚ました。


天井が近い。

木目が、やけに細かい。


……あー。

なんか、変なの操作しちゃったかな。


フルダイブだと、たまにある。

没入度の設定をいじりすぎたとか、デバッグ用の項目を触ったとか。

現実寄りになるやつ。

珍しくはない、はず。


起き上がると、床が軋んだ。

音がちゃんと重い。

軽く喉が渇いている。


「……ごめん」


誰にでもなく、そう言った。

癖だ。

操作ミスをしたときは、いつもそうしている。


ここに長居する意味はない。

イベントが始まる前に、外に出た方がいい。


そう思って、扉を開けた。


外は荒れていた。

家屋は傾き、道は割れている。

でも、想定内だ。

ポストアポカリプス系。

最近流行ってるし。


歩いて数分もしないうちに、気配が増えた。

足音。

複数。


あ、これ。

たぶん、エンカウント。


逃げようとは思わなかった。

自分で不用意に出てきたのだから、仕方ない。

もっと慎重に設定を確認すればよかった。

ちゃんとチュートリアルを読めばよかった。


「……あー」


前から男が出てきた。

刃物を持っている。

目が合った。


ああ、そっか。

こういう役割の人。


胸が少しだけ苦しくなったけど、それだけだった。


自分が悪い。

こんなところを、ひとりで歩いている方が悪い。

この人は仕事をしているだけだ。

生活がある。

やらなきゃいけないことがある。


だから――


抵抗しなくていい。

言い訳もしなくていい。


早く終わらせてくれればいい。


「……もういいから」


声が、思ったより小さかった。


「殺してくれていいよ」


どうせ、明日には忘れる。

人間なんて、そんなものだ。

ログも残らない。

誰も気にしない。


自分なんか、最初からいなかったみたいに消えた方が、

みんな楽だ。


そう思った瞬間――


視界が、ぐらりと揺れた。


次に気づいたとき、男は倒れていた。


……え?


近づく勇気は出なかった。

確認もしていない。

でも、動かない。


「……あ」


おかしくなったのかな。


自分が、変な操作をしたのかもしれない。

条件分岐を飛ばしたとか、当たり判定を壊したとか。

そういうの、ある。


「……ごめんなさい」


ゲームを作った人に向けて、また謝った。

迷惑ばかりかける。

現実でも、ゲームの中でも。


早く出たい。

どうしたらいいんだろう。


考えようとして、やめた。

考えるほど、自分が余計な存在だって分かるだけだ。


歩き出す。


……あれ?


少し歩いたはずなのに、景色が変わっている。

城壁。

門。

人の気配が多い。


都市だ。


「……スキップしたのかな」


まあ、そういうこともある。

長距離移動は省略されることが多い。

ゲームだし。


でも、気が重かった。


さっきの人も。

おかしくさせちゃった。

きっと。


辛い。

自分なんて、やっぱり死んだ方がマシだ。

いるだけで、変なことが起きる。


壁際に寄って、座り込む。

通行人は、ちらりと見るだけで通り過ぎていく。

それでいい。

それが正しい。


声がかかったのは、そのときだった。


「おい」


顔を上げると、武装した男たちが立っていた。

都市の人間。

管理側。


「お前、どこから来た」


答えられなかった。

分からないし、言っても迷惑だ。


「急に現れたって報告が上がってる。不自然だ」


ああ。

やっぱり。


「ちょっと来い。確認が必要だ」


連行。

イベントだ。


抵抗しなかった。

言い訳もしなかった。


どうせ自分が悪い。

知らない土地でも、迷惑をかける存在なんだ。


歩かされながら、思う。


早く、ゲームオーバーにしてほしい。

これ以上、誰にも迷惑をかけたくない。


でも――


まだ、続くらしい。


それが一番、嫌だった。




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