気高き令嬢は、その秘めやかな彼<イチモツ>をただ愛でたいだけ

詠夢 凛(よみゆめ りん)

序章:華麗なる彼女の秘密

序章 華麗なる彼女の秘密 前編

 私立聖真玲愛(セント・マリア)学園。

 京都市北部の山間部に切り開かれた広大な土地に存在する巨大学園施設。


 かつては由緒ある貴族階級の子女のみが通うことを許された、伝統ある女子校だった学び舎である。

 政財界のあらゆる要人に対し強力な発言権を持つことから、日本社会を影で牛耳っているとも噂されている。


 数年前に共学化されたとはいえ、その高貴な校風はいささかも揺らいではいない。広大な敷地に広がる英国式の庭園、白亜の洋館を思わせる校舎、そしてそこを行き交う生徒たちの品位ある振る舞い。

 すべてが、この学園のブランドを形作っていた。


 そんな学園に、一人の「象徴」が存在する。

 彼女が登校してくると、正門付近の空気すらも変質するかのようだ。

 ロールスロイスの後部座席から優雅に降り立つ、輝くような金色のロールヘア。

 朝露を弾く白百合のような肌と、制服の上からでも分かる豊満な肢体。

 物集女財閥の令嬢にして、学園理事長の孫娘。

 才色兼備、眉目秀麗。歩く芸術品。


 ――物集女もずめ 一華いちか


「ごきげんよう、物集女様!」

「今日も素敵ですわ、一華様!」

「ああ……尊い……」


 すれ違う生徒たちは、男女を問わず彼女に憧憬の眼差しを向け、道を譲る。

 男子生徒たちは頬を赤らめて敬礼し、女子生徒たちは溜息交じりに手を振る。

 彼女はその一つ一つに、慈愛に満ちた聖母のような微笑みで応えていた。


「ごきげんよう。皆様も、良き一日を」

「……はいっ!!」


 鈴を転がすような美声。

 完璧なカーテシー。

 一華は優雅に歩を進める。その背中には、一切の隙がない。

 まさに学園のアイドル、いや、支配者たる風格が漂っていた。


 だが。


 誰も知らない。知るよしもない。

 その完璧な美貌の裏で、彼女の脳内が、どす黒く、いや、ピンク色に煮えたぎるマグマのような欲望で満たされていることを。


(……ああ、退屈ですわ。どいつもこいつも、ツマラナイ顔をして)


 一華は微笑みを絶やさず、心の中で毒づいていた。

 彼女の視線は、挨拶をしてくる生徒たちの顔なんぞ見てはいない。


 もっと下。


 そう、男子生徒たちの股間。

 そこにのみ、焦点が合わされていた。


(あの男子……なによあれ。あんなふにゃふにゃした歩き方じゃ、股間の彼も泣いていますわよ。もっと堂々となさい!)

(そっちの彼は……ふん、サイズは悪くないけれど、形が下品ね。手入れがなっていませんわ。きっと蒸れていますよ、不潔極まりない!)

(ああもう! どいつもこいつも帯に短したすきに長し! 私の心を震わせるような、真に愛くるしい『おちんちん』はいませんの!?)


 そう。

 物集女一華は、真正の変態おちんちん好きであった。

 しかも、ただの異性好きではない。

 彼女にとって男性とは、単なる「おちんちんの運搬係」に過ぎない。

 彼女が愛しているのは、その生物学的器官としての形状、伸縮性、そして何より、持ち主の意志とは無関係に反応してしまうあどけない「生態」そのものだった。


 彼女にとっておちんちんとは、小動物だった。

 ハムスターやウサギを見る目と、何ら変わりはない。

 ただ、その愛情表現が著しく歪んでおり、かつ攻撃的であるだけだ。


(……可愛いおちんちん。あどけなくて、ちょっと意地悪するとすぐに泣いちゃうような、繊細な子……)


 靴箱の前で上履きに履き替えながら、一華は荒くなる鼻息を必死に抑制した。

 うっかり油断すると、スカートの中で太腿が擦れ合ってしまう。

 いけない、いけない。私は淑女。学園の模範。

 こんなところで、見ず知らずの男子生徒の股間を見て発情するなど、あってはなりませんわ。


「ふぅ……」


 熱い吐息を漏らし、ハンカチで口元を拭う。

 その仕草さえも絵になると、遠巻きに見ていた男子数名が撃沈していたが、一華は気にも留めない。


(けれど、限界ですわ……。最近のペットショップ動画サイトもマンネリ気味。画面越しの彼らも可愛いですけれど、やっぱり生の質感が足りませんのよ!)


 彼女は飢えていた。

 自分だけの、理想のペットを求めて。

 誰にも邪魔されず、思う存分に愛でて、育てて、いじり倒せる、生きたおちんちんを。


(神様。どうか私に、運命の出会いをお与えくださいませ……。極上の、未開発で、私が一生をかけて愛するに値する、可愛らしい一本を!)


 教室へと向かう廊下で、彼女は祈った。

 その祈りが、あまりにも邪で、かつ純粋すぎるがゆえに、ほどなくして叶えられてしまうことを――この時の彼女はまだ知らない。

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