RUKA‪

モノノクロ

第1話 少女

……どれほどの距離を歩いただろうか。

二人は歩みを止めない。

どんな障害が立ちはだかろうとも、その足は止まることを知らなかった。

止まる理由が、最初から存在しないかのように。


「ねえ、オルカ姉」


隣を歩く妹が、前方を見据えたまま声を落とす。


「街が見えてきたよ」


「……うん」


短い返答のあと、姉はわずかに歩調を緩めた。


「少し、休もうか。……アルカ」


視線の先に広がる街は、かつての姿を失っていた。

建物は崩れ、道は荒れ、機械に踏み荒らされた痕跡が至るところに残っている。

それでも——そこには、かすかな活気があった。


生き延びた人間たちが集まり、

失われた世界の残骸を使って、必死に形作ってきた場所。

崩壊の中で、なお存在し続ける街だった。


「嬢ちゃんたち、避難者かい?

それとも……旅人かい?」


門の前に立つ、筋骨隆々な男が声をかけてきた。

鍛え上げられた体つきは、この街が“まだ生きている”証のようだった。


「私たちは……一応、旅人」


妹が一拍置いて答える。


「今は姉と二人で、生き延びている人の街を巡っている」


男は二人をじっと見つめ、

それ以上深く踏み込むことはしなかった。

軽く身分と目的を確認すると、通行を許すように門を開く。


街に入ったあと、二人は案内された宿へ向かった。

建物は質素で、贅沢とは程遠い。

だが、雨風をしのぎ、身体を休めるには十分だった。


宿主は二人の姿を見ると、少しだけ表情を曇らせた。


「……少女二人で、旅か」


そう呟き、警備の行き届いた部屋を用意してくれる。

気遣いだったのか。

二人はそれを断らず、静かに受け入れた。


疲れていたのだろう。

横たわると、二人はほとんど同時に眠りに落ちた。


深い眠りの底で、時間の感覚は失われていく。

そして——月が最も高く昇った頃。


ブォォォォォン——

耳を切り裂くような警報音が、街に響き渡った。


機械兵が見つかったのだろうか。

それだけで状況は十分に理解できた。


「オルカ姉」


短く名を呼ぶ。


「……うん」


姉はそれ以上何も言わなかった。


「行こうか」


二人は立ち上がり、

武器を手に取ると、迷いなく門の方へと向かった。


夜の街に、再び足音が重なっていく。


「ぐっ……くそ。

こいつら、もうこんな所に……!」


先ほど、少女たちを案内した門番だった。

彼はたった一人で、全高三メートルはあろうかという機械兵を足止めしている。


「……あぶないよ、おじさん」


声と同時に、純白の髪が夜風に揺れた。

月光を受けて紅い瞳が淡く輝き、白いスカートが一瞬、視界を横切る。


「……あ、あんたら。昼間の……!

こいつは危険で——」


「……いいから。まかせて」


言葉を遮るように、今度は対になる色の少女が前へ出た。


「こいつは」

「私たちが」


二人は左右に分かれる。

腰に拳銃を差し、同時に刀を抜く。


「……じゃあ、やろうか」


黒髪の少女が踏み込んだ、その次の瞬間。

純白の髪もまた、夜に溶けるように消えた。


_____


あっという間だった。


鈍い音が連なり、

金属が悲鳴を上げる暇もなく、機械の巨体が崩れ落ちていく。


「おじさん、大丈夫?」


瓦礫を背に、白い少女が振り返る。


「……生きてたんだ」


黒い少女が淡々と告げる。


「運が良かったね」


門番は、ただ言葉を失ったまま、

目の前の光景を見つめることしかできなかった。

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