アブラムシを飼う

ともゆり

10月半ば 昼

仕事を終えて電車で帰る。

最寄駅の改札を出て、

すぐ右にある小さな花屋さんに入った。

僕は、ここにある見切り品のバケツを覗くのが、日々の小さな楽しみだ。


「日持ちしません」

手書きの紙が貼られた、

シルバーのバケツの中に、

目を引く黄色い花があった。

二つに分かれた枝に、

小さな黄色い花がいくつもついている。

「素敵。この子にしよう」


家に帰って、花瓶にいけたとき、

異変に気づいた。

枝に、黄緑色の胡麻の粒みたいなものが、

びっしりとついている。


アブラムシだ。

除去するために使うお湯を沸かし始めた。

すると、

アブラムシたちが、次々に喋り出した。

「僕たちは、この黄色が気に入ったのに」

「ここに住みたいと思ったのに」

「あーぁ、残念だなぁ」


僕は言った。

「僕もこの黄色が気に入ったんだ。

同じセンスだね。友達になろうか」


そうして、飼うことにした。


花瓶は、食卓の真ん中に置いた。

僕は毎日、アブラムシたちを眺めながら

ご飯を食べていた。


ふと、

一匹ずつ、名前をつけようと思った。

でも、

みんな同じ色、同じ形を

していることに気づいた。


「個性がなくて、つまらなくないのかい?」

僕が聞くと、


アブラムシは答えた。

「個性がないのが、

長生きのコツなんですよ」


他のアブラムシも言う。

「目立つと天敵にすぐ食べられるんですよ」

「僕が1番足が遅いってことがバレたら、

真っ先に僕が狙われます」

「だれよりも綺麗な体をしていたら、

すぐ天敵に見つかり食べれちゃいますわ」


「人間さんも、

天敵に狙われたら大変でしょ?」


僕は、職場での人間関係を思い出した。


僕は天敵に一番最初に狙われるタイプだ。

だから、個性を持たないほうが

僕は長く生きられると思う。


それでも、

僕は個性を持っていたい。


反撃しないのは、

僕が弱いからじゃない。

僕を傷つけた相手であっても、

傷つけないほうを選ぶ

この個性を持ち続けたい。


天敵が近づくことを恐れず

この優しさを必要とする誰かが、

僕を見つけてくれるように...


僕は、

僕の美しい個性を隠さずに生きたい。

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アブラムシを飼う ともゆり @yuri0428

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