天気は変わる【ご用命は雨乞神子フリットへ】

Resetter

第1話 晴天に降る



 「ア~メッフラッセ~イヤ~」


 私は、天を仰いで、両手を精一杯広げる。


 こんなうら若き十六歳の乙女が、ばかみたいに……延々、この歌と踊りを繰り返してる。


 これが、雨乞神子フリット・ヴェーデルわたしの仕事とはいえ、正直きつい。

 

 

 「イェイェイア~」


 隣に立つ男……合いの手のワイルも、声が掠れてきてる気が……。


 

 それでも私は、拍子を刻む。足を踏み鳴らす。請けた仕事には、責任がある!


 額から、雨のように雫が落ちた。床に、水玉模様を描く。

 


 「おい! 全然降らねぇぞ? まだか?」


 ひとが頑張って祈りを捧げてる背後から、罵声を浴びせてこないでっての。今必死に雨乞いしてるでしょうに!

 

 と、内心では悪態をつくものの。実は、ものすごく焦っている。空、めちゃくちゃ晴れてるし……。


 やっぱり、ヒーデリー村、噂通りなんだ……。何十年も、雨乞い成功してないって……。


 ――視線が痛い。

 


 「おい、フリット」


 ワイルが、小声で話しかけてきた。まだ祈りの最中なのに!


 やばいって……! 失敗したら、下手したら殺されるよ?! 超高額依頼だよ?! アンタが持ってきた話でしょうよ?!


 ……ちらりと横目にワイルを見ると。


 顔面蒼白、汗びっしょりだった。

 

 「……なに?」


 仕方なく、囁いた。

 


 「飛べ!」


 小声で叫んだワイルに、一瞬……耳を疑った。


 ずいぶん器用な真似を……。


 ――じゃない!


 飛べ? って、なに? まさか、この――舞台の上から? 儀式を見守る人で、下はごった返してるけど?! 100人くらいはいるよ?!


 

 「誤魔化せ!」


 「はぁ?!」


 誤魔化すって……? はぁ?! 何の話?! 儀式の最中だっての!



 「……早く行けよっ!」


 ドッ――と、背中に衝撃が走った。


 

 「――えっ?!」


 蹴られた……?! と、気が付いた時には、人々の頭が見えた。


     「……これぐらい役に立っとけよ」


    ――ワイル……?


 

 「おお? 落ちたぞおぉー!?」


  村人の声……


 

     ――落ちてる……?


 

 迫る……人々の頭――


         驚いた、顔――


 

 そして、蜘蛛の子を散らしたように……


      ぽっかりと丸く空いた地面……


 

  ずいぶんと……ゆっくり……


   汗が……舞ってる……

 

        ――あ、これまずいかも。


 ……と、薄っすら考えたところで、


      意識が……黒く塗りつぶされた。




 

 ▽▽▽



 

 

「本当に申し訳ない……。この通り、神子も限界まで力を使い果たし……。自分も、念を送ったのですが……」


「チッ……。仕方ねぇか。もう何人も失敗してる……。この村にゃ、雨は降らねぇんだ……! ちくしょう!」


 

 ――どこか遠くから、声がする……。

 


「力及ばず……。申し訳ない……」


「ケッ……。失敗したんだ。報酬は払わねぇからな!」


「……はい。それはもう……」


 ――ワイル……? と、村人……?


 ……うっ?! 身体が……! だめだ。起き……上がれない……。


 それどころか、指一本すら、まぶたすら動かせず。途方にくれた。

 

 

 すると、ドカドカと大きな足首に続き。

 

 ――バンッ!

 

 乱暴に扉の閉まる音がした。


 

 そして数瞬の後、ワイルの独り言が始まった。


「……はぁ。クソッ。失敗かよ……。コイツ、役に立たねぇなぁ……。せっかくの高額依頼がパアかよ……」


 勝手なことばかり言っているワイルに、怒りを覚えた。


 ……んだけど。


 どうにも起き上がれる状態じゃなさそうで。


 

「チッ……。このクソ女も運ぶか……。置いといて余計なこと言われても、面倒だしな……」


 ぶわりと、浮遊感に支配された。意識がまた、朦朧とする。


「あー、だるっ……。重てぇなコイツ……」


 ドッと、肩に担がれたみたいだ。ワイルめ……。びちゃびちゃで汗臭いな。

 

 文句のひとつも言ってやりたかったけど……。


 結局そのまま、私の意識は……旅に出た。

 


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