守ってくれた靴下の片方|百合しっとり

岡山みこと

守ってくれた靴下の片方|百合しっとり

低い音をたてて回るドラム型洗濯機。

去年ボーナスをはたいて購入をした、このワンルームで一番高価なもの。

入社2年目の女子社員の少ない財布から捻出した可愛いわが子なんだ。

名前は”うぉっしゅちゃん”一歳。


揺れるメタリックなボディを撫でた。

耳を澄ませば遠くから夜の静寂と一緒に、強い雨の音がする。

それを私は洗濯機の横に座って聞いていた。


仕事帰りに雨に濡れ、シャワーを浴びてから何もする気が起きない。

だらしない部屋着と半乾きの髪。

そして目の前にはずぶ濡れの靴下がひとつ。

あと濡れていない靴下もひとつ。


朝から降っていた雨。

私服で仕事をしている私はいつもどおり、デニムパンツとスニーカーで職場に向かった。

汚れたら嫌だなと思って、少し着古したものにしておいたのは秘密。


一日の仕事が終わった秋の長い夜の中、同僚の女友達と一緒に傘をさして歩いていた。

雨音に何度も声がかき消され、何度もお互い聞き直し。

それでもずっと話をしながら。


お別れするバス停近くで立ち止まり、私は手を振る。

名残惜しそうに見えたのかな、少しバカにされた。


その時、後ろから強めのヘッドライトに照らされた。

振り返ると道路を走る大きなトラック。

駆け寄った彼女が私の手を引き、自分の傘を私にかぶせてくれた。


水たまりを通過したトラックがまき散らした大量の水。

守ろうとした彼女の傘を飛び越えた大量の水。


ずぶ濡れになったふたり。

一瞬の間をあけて向かい合って大笑いしちゃった。


それからバスをあきらめて、濡れたふたりでのんびり歩いて帰った。

この右足の靴下は彼女の傘が唯一守ってくれた場所。

奇跡的な角度で死角になって濡れなかった。


あの人の思いやりは結果的にはすごく可笑しなことになっちゃったけど、私を守ろうとしてくれた。

その行動が。


「私に勘違いさせるんだよな」


靴下を洗濯籠に投げる。

乾いた方は入り、濡れた方は床に落ちた。

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