魔女裁判
「いたた!ちょっと、離してください!」
「だめ、離しません。詳しく聞きたいことがありますので」
ポニーテールを強く握りしめ、こちらに強く引く。重心が崩れ、ポニーテール、新宮透子は尻もちをついてへたり込んだ。
「あなたですよね、今回のスキャンダル。なんであんなことしたんですか?」
透子は気まずそうに眼をそらした。その姿は幼子がいたずらを叱られているときのような気まずさを醸し出している。
「もう一度聞きますね、なんであんなことしたんですか?」
語気を強め再度確認する。彼女は言葉を発さず、ただうつむいた。このままでは埒が明かない。どのようにして聞き出すべきか、考えているうちに彼女の姿が消えた。逃げたわけではない。美緒に制服の襟をつかまれすばやく旧体育倉庫に引きずり込まれたのだ。
ガタンと音を立て横開きのドアが閉まる。目元の腫れたれた美緒が透子の胸倉をつかみ、マットに投げ飛ばした。止めるべきかと思ったが、マットに投げ飛ばすほどの理性があるのなら大丈夫だろうと、一方的な信頼を押し付けた。
「ふざけないでください。私たちの愛を弄んだだけでなく、大事な友人まで傷つけるなんて。そんなこと許されるわけないじゃないですか。なんで、なんでこんなことしたんですか…?」
「…ない」
小さく透子がつぶやいた。時間が止まり、静寂が訪れる。続く言葉を私と美緒は唾をのみ待つ。
「言えない」
期待外れ、だが予想通りの答えだ。美緒は落胆し、透子にまたがる。右の拳を振り上げ、狙いを定めた。
ガタンと音を立て扉が開いた。外からの光が一瞬目を眩ます。けれど、臭いでわかった。私の嫌いなホワイトムスクの香り…
「おはよう、朝倉美緒ちゃん、桐ケ谷晴香ちゃん、それから…透子ちゃん」
御剣祷夜はにっこりと笑いながらこちらを眺めている。なぜ、笑えるのだろう?透子は暴力を受け美緒は暴力を与えている。そんな残酷な光景をなぜ笑って見つめられる?
「…想定通りの展開、ですか?」
予想し、導き出された言葉を呟く。祷夜は笑みを崩さぬまま首をかしげる。やはり、想定通りの展開なのだろう。
「祷夜先輩…?」
美緒は祷夜を見ると使い物にならなくなってしまう。このままでは逃げられる、真実を聞き出せない。そう思い、透子をどうにか繋ぎ止めようと彼女を見た。彼女は目を見開き、足元は濡れていた、その染みは段々広がっていく。彼女は脅されているのだと、そう思った。
「美緒ちゃん、暴力はよくないな。透子ちゃんは僕の大事な友達なんだ」
朗らかな笑みは、フィルターを介さなければ邪悪そのものだ。
「暴力をふるう美緒ちゃんなんて、僕見たくないよ…」
しおらしい表情で美緒に言い寄るその姿は、グロテスクだ。ただの純粋な少女を私利私欲のために唆す姿はやはり悪魔だ。
「美緒…?どうして味方するの?私は騙されたんだよ…?」
こちらも対抗して上目遣いで美緒を見つめる。美緒はどうしたらいいかわからずどぎまぎとしていたが、「私のお姫様、どうか少し席を外してくれるかい?」と、言われ、黙って外に出た。ご丁寧にドアも閉めて。
祷夜があの日のように近づいてくる。ゆっくりと、威圧感を与えながら。
「僕からの忠告、守り切れなかったようだね、晴香ちゃん、透子ちゃん」
透子は息をするのもままならないようで、過呼吸気味になっていた。
「まずは、晴香ちゃん。君には僕の信者たちが必ず制裁を加えることになるだろう」
「そして、透子ちゃん」
透子は体を大きく震わせて、力の入らない腕でどうにか這って逃げようとしていた。
「心外だったよ、君のことは信頼していたんだけどなぁ…晴香ちゃんと一緒にいる美緒ちゃんを共倒れさせて、晴香ちゃんを完全に壊そうと思っていたんだけど、君じゃ力不足だったみたいだね?」
そういって祷夜はまた一歩透子に近寄る。その度に透子の呼吸は不安定になり、這う手が遊び始める。
「やっぱり、撮れてなかったんだね。君には心底がっかりしたよ。でも、君は僕がこの手で、制裁を与えてあげる。光栄に思うべきだよね」
祷夜は透子のカメラを奪い取った。透子はその一瞬力を取り戻し、祷夜からカメラを奪い返そうと手を伸ばしたが、結局床に崩れてしまった。
ガシャン、と大きな音を立て、破片が周囲に飛び散った。その破片は透子の頬を切り裂き赤い液体が滴っている。
人の声とは思えない声が、倉庫にこだました。
次の更新予定
文芸部のお嬢様 フレイディア @Fraidia
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。文芸部のお嬢様の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます