文芸部のお嬢様

フレイディア

入学

入学


「人はなにかに意味を持たせようと努力するけれど、意味なんてただのおためごかしにすぎませんわ」

 彼女はそういいながら紅茶を口に運んだ。静かに涙をぬぐいながら。


 校門の前に桜が咲いていた。新入生たちが期待と不安に胸を膨らませ体育館に向かっていく。何人かの生徒は以前から面識があるようで、雑談に花を咲かせていた。

 私、桐ケ谷晴香きりがやはるかもそのうちの一人だ。中学校から一番近いというだけで選んだ学校には同じ出身校の生徒も数多くいた。東雲高等学校しののめこうとうがっこうはほんとうに平均的な学校だ。進学校ではなく、かといって自称進学校でも、不良高校でもない。ありきたりで面白くもない学校だ。そして、私自身もありふれている人間で、特別な才能も特技もなく、特別端正な顔立ちでも醜い顔立ちでもない。

 中学の頃仲が良かった友人を探していると、不意に、静かな香りが後ろを通った。振り返ると、女神のような後姿が目に入った。

つい、見とれてしまっていると、突然、体育教師らしい風貌の教員が新入生をまとめあげ、入学式の説明をし、並び替えまで行った。段取り良く進んだおかげで七分ほどでそれらは終わり、入学式が始まった。

 入学式が終わると新入生たちはそれぞれの教室へと案内された。私は一年二組。友人は隣の一組になったようだ。

 教室に入ってからは単調で昼前までオリエンテーションを行った。新しいクラスメイトの自己紹介やアイスブレイクを兼ねた簡単なゲームもあったがどれもこれも目立って面白いものはなかった。私は教室の一番後ろの席で黒板を眺めながらぼーっと頬杖をついていた。

 すべてのオリエンテーションが終わり、帰宅しようとしたとき突然名前を呼ばれた。誰かと思っていると中学からの友人、朝倉美緒あさくらみおが机の前に立っていた。

「美緒、他のクラスの教室って入っていいんだっけ?」

「そんなのはどうでもいいの!」

後ろで担任の先生が、どうでもよくないが?という表情をしていたのでとりあえず荷物をまとめてすぐに廊下に退散した。

「この高校、全然男子いなくない?」

美緒は心底がっかりしたように言っていたが私は当然だ、と思った。

「あのさ、ここ女子高だよ?」

美緒の叫び声が廊下にこだましていた。


 家に帰ると、親が優しく出迎えてくれた。学校はどうだった?友達はできた?なんて、ありふれた質問を軽く流していると、父が後ろから部活はどうするんだ、と聞いてきた。じつのところ何も考えてなくて、どんな部活があるのかもよくわかっていなかったため、まだ考え中、と嘘をつき部屋に戻った。制服姿のままベッドに寝転がり部活を考えていた。学校指定のボストンバッグからプリントを一枚出す。部活動一覧が乗っていた。東雲は他の学校よりも部活がそろっている。薙刀部や弓道部、茶道部に演劇部、そのなかで一際異彩を放っていたのが文芸部だ。文芸部なんて小説の中でしか聞いたことがなかったのだが本当に存在していたのだな、と思っていると美緒から着信が入った。寝転がったまま、スピーカーにして美緒と通話する。

「ね、東雲ほんとに女子高なの?」

「うん、名前には女子高って入ってないけど、学校説明のときも先生言ってたよ」

「まじかぁ~…ショック…昔から高校生の恋愛あこがれてたのに」

「まぁ、でも、他の高校のこと付き合うのもありなんじゃない?インスタとかで出会えばいいじゃん」

「そうは言うけどさ、逆に考えて。晴香、朝起きてインスタに新規フォロワー通知が入るとするじゃん?全く知らない人からの。怖くない?」

「まあ、確かに不審ではあるかも」

「ね、だから陸の孤島なんだよ、この高校」

そういって少しの沈黙が流れた後、美緒がつぶやいた。

「部活…合同練習…」

「美緒?どうしたの?」

美緒は不敵に笑うと意気揚々と話し始めた。

「私ね、気づいちゃった。他校と合同練習する部活に入ればさ、自然と仲良くなれるよね?互いに鎬を削って、気づいたら普通に話して…決めた!わたくし、朝倉美緒、部活動に加入いたします!」

私は手を鳴らしながら賛美した。

「晴香はなんか部活入るの?私、晴香と同じ部活にする」

「いや~まだ考え中。でも入るなら楽なやつがいいから美緒の期待には応えられないかも」

美緒ががっかりしているとき一回からお母さんがご飯と呼んできたので、電話を切り、階下へ降りた。


 翌日、放課後に美緒に誘われて部活動紹介に行っていた。部活動紹介は4日に分かれていて、一,三日目は運動部、二、四日目は文化部となっていた。今日はサッカー部に行くらしい。練習場に到着すると、ひとしきり説明を聞いて、軽くボールを回したりした。けれど美緒はずっとそわそわしていて部活動紹介が終わるとすぐにマネージャーテントに向かっていった。

 私も少し遅れて向かうと、どうやら仲良くなったらしくちょうどインスタを交換したところだった。遠巻きに見ていると、美緒が私の方に駆け寄り、「耳寄りな情報」を私に提供してくれた。

「サッカーと演劇は他校と合同練習するときがあるらしいよ!」

「そうなんだ。でも私楽なところ入るから」

「これだからインドアラブレスガールは…じゃ、私楽な部活聞いてくるね!」

なんやかんや言って外交的だしすぐ人の役に立とうとするのは彼女の癖、というより人となりだ。なぜ彼女は人のために自分を犠牲にできるのだろう?

「耳寄り情報だよ!吹奏楽部楽だって!」

「嘘つかれてるじゃん。あの部活実質運動部だからね?」

「じゃあもっかい聞いてくる!」

そういうと彼女はロケットのように飛び出し、またすぐに戻ってきた。

「ごめん!吹奏楽じゃなくて軽音楽の方だった!でもバンドによって厳しさ変わるから入部後のバンド選びが大事なんだって!」

私は有益な情報は得られないと判断し、「そう、ありがとう。お礼言いに行こうか」と話を終わらせた。

そうして校門を出るとき後ろから一人の生徒が走ってきた。長い髪を動きやすいよう一本に結んだ女子生徒だった。

「こんにちは!新聞部の部長、新宮透子しんみやとうこです。よかったら、取材よろしいですか?」

「美緒、受けてきなよ。私ここで待ってるから」

そういいながら校門に向かっていると、「私なら、あなたの知りたいこと知ってるかもしれませんよ?」と投げかけられた。

「私の知りたいことって、何ですか?」

「先ほどサッカー部の部活動紹介を見学していましてね、そこであなたとご友人のコミカルな動きに目を奪われてしまいまして。マネージャーテントの裏から観察していたんですよ。楽な部活、でしたよね?」

確かに、私がいちいち美緒を走らせていたのは妙な動きだったな、と思い返し、質問を噛みしめる。少しの思案を巡らせ口から出た言葉はイエスだった。

 取材と言っても大したことはなく、学校のどこに魅力を感じたか、とかどの部活に惹かれるかとかそんな内容だった。そうして一連の問答を終えると、新宮は一枚のメモを渡してきた。なんとなく、美緒に見られないようにそっとスカートのポケットに隠し、家に帰った。

 ベッドでメモのことを思い出し二つに折られたそれを開いてみた。中には簡潔に「文芸部。しかし。」とだけ書いてあった。

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