第24章 二人の技術者の決着

魔導機関が停止した瞬間、魔王城全体が揺れた。


         ◆


「何が起きた!?」


 兵士たちが、慌てふためいている。


「魔導機関が止まった——これで、魔王軍の力の源が——」


 魔導機関は、魔王軍に魔力を供給していた装置だった。


 これが停止したことで、魔王軍の兵士たちは急速に弱体化していった。


「今だ! 魔王を倒せ!」


 連合軍の精鋭部隊が、魔王の間に突入していく。


 鋼太郎は、その場に立ち尽くしていた。


 ——ヴェルナー……


 目の前には、何も残っていなかった。


 ヴェルナーは、魔導機関と共に消滅した。


 自らの命を犠牲にして、機関を止めたのだ。


「神崎殿!」


 将校が駆け寄ってきた。


「大丈夫ですか」


「……ああ」


「魔王が討たれました。連合軍の勝利です」


 鋼太郎は、頷いた。


 だが、その心には、喜びよりも悲しみが勝っていた。


         ◆


 戦いが終わった後、鋼太郎はヴェルナーがいた場所に戻った。


 そこには、崩壊した魔導機関の残骸が転がっていた。


 その中から、一冊の手帳を見つけた。


「これは……」


 手帳を開くと、びっしりと書き込みがあった。


 設計図、計算式、メモ——全てが、ヴェルナーの技術の結晶だった。


 最後のページには、こう書かれていた。


「神崎へ


 お前がこれを読んでいるなら、俺はもういないだろう。


 この手帳には、俺が50年間で開発した全ての技術が記されている。


 俺は、間違った道を歩んだ。


 技術を、復讐のために使った。


 それは、技術者として最大の過ちだった。


 だが、お前は違う。


 お前は、人のために技術を使っている。


 その姿を見て、俺は思い出した。


 かつての自分も、同じ想いを持っていたことを。


 この技術を、託す。


 人のために、使ってくれ。


 俺にはできなかったことを、お前が成し遂げてくれ。


 良いものを作れ。


 それが、技術者としての本分だ。


              ヴェルナー」


 鋼太郎の目から、涙がこぼれた。


「……分かった。お前の想い、受け取った」


 手帳を胸に抱きしめ、鋼太郎は静かに誓った。


 ——ヴェルナー。お前の技術は、俺が受け継ぐ。人のために、使ってみせる。


         ◆


 魔王城から脱出した後、鋼太郎は連合軍の本陣に戻った。


「神崎殿!」


 レオンハルト将軍が、駆け寄ってきた。


「魔王を討ちました。連合軍の、完全勝利です」


「……そうか」


「ヴェルナーという者の件は、聞きました。彼の最期に、立ち会ったそうですね」


「ああ」


 鋼太郎は、手帳を見せた。


「これが、ヴェルナーの遺産だ。彼の技術が、全て記されている」


「素晴らしい。これで、さらなる技術革新が——」


「だが、使い方を間違えてはならない」


 鋼太郎の声が、厳しくなった。


「ヴェルナーは、技術を復讐のために使った。その結果、多くの人が死んだ。同じ過ちを、繰り返してはならない」


「……」


「技術は、人を幸せにするためにある。それを忘れた瞬間、技術は凶器になる」


 将軍は、深く頷いた。


「肝に銘じます。神崎殿、あなたの言葉を」


         ◆


 その夜、鋼太郎は一人で夜空を見上げていた。


 戦いは終わった。


 魔王軍は壊滅し、世界に平和が訪れようとしている。


 だが、心の中には、複雑な想いが渦巻いていた。


「ヴェルナー……」


 彼は、敵だった。


 だが、同時に——同じ技術者だった。


 二人の間には、50年の時間と、立場の違いがあった。


 だが、根底にある想いは同じだったはずだ。


 「良いものを作りたい」という、純粋な職人魂。


 ヴェルナーは、その想いを見失った。


 人間に裏切られ、復讐に走った。


 だが、最後の瞬間、彼はその想いを取り戻した。


 ——もう一度……人のために……作りたかった……


 その言葉が、鋼太郎の心に刻まれている。


「俺は、忘れない。お前のことを」


 鋼太郎は、静かに誓った。


「お前の想いを、俺が受け継ぐ。そして、次の世代に伝えていく。技術は、人のためにあるということを」


 夜空の星が、静かに瞬いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る