外伝:空の彼方、その先の蒼穹へ

夜桜

​第1話「三本戦の予兆」

時は流れ、一九九三年。


菅野直(かんの なおし)と岩本徹三(いわもと てつぞう)は、令和で交わした約束を思い出し、源田実(げんだ みのる)のもとに向かったのであった。

​ 

源田は、かつての司令部を彷彿(ほうふつ)とさせる執務室で、二人の気配を察して顔を上げた。


「……直、それに岩本か。二人揃って、何だその殺気は」

​ 

源田の問いに、菅野が一歩前に出る。その顔には、一九四五年のあの夏、紫電改を駆って空を支配していた頃の、獰猛(どうもう)で不敵な笑みが戻っていた。


「オヤジ、話は早い方がいい。俺と岩本さんは、あの二〇二五年の夏、よしこさんの家で卵焼きを食いながら約束したんだ」

​ 

岩本が静かに、しかし鋼のような重みを持って言葉を継ぐ。


「司令。令和の空でどちらが上か決める、その本番の前に……ここで一度、俺たちの魂を研ぎ澄ませておきたいんです」

​ 

源田は二人の顔を交互に見つめた。

 

三十八年前に逝った岩本と、四十八年前に散った菅野。


 

二人の瞳の奥には、一九九三年の今もなお、尽きることのない闘志が、そして何より『未来の日本』を共に見た者同士の強い絆が燃えていた。


​「……三本勝負か。いいだろう」

 

源田はゆっくりと立ち上がり、机の上に置かれた軍帽を手に取った。


「一戦目は一九九三年の今、この聖地の空で。二戦目は……。そして三戦目は、貴様たちが望む最高の条件を用意してやる」

​ 

その言葉を聞いた瞬間、菅野の喉から、野獣のような低い笑い声が漏れた。


「決まりだ。岩本さん、令和の本番まで、あんたの首を洗って待たせてやるぜ」


「威勢がいいな、菅野。……だが、零戦の虎の牙が、そう簡単に折れると思うなよ」

​ 

二人の視線が交差した瞬間、室内の空気がバチバチと音を立てて爆ぜた。

 

三四三空の獅子と、二〇四空の虎。

 

伝説の二人が、ついにその翼を広げる時が来たのだ。

​ 

その時、源田司令の前で火花を散らす菅野と岩本のもとへ、ふらりと二人の男が姿を現す。

 

一人は、鋭い眼光を崩さず、どこか冷徹なまでの静けさを纏った「ラバウルの魔王」西澤広義(にしざわ ひろよし)。

 

もう一人は、隻眼の奥に深い経験と不屈の闘志を秘めた「空のサムライ」坂井三郎(さかい さぶろう)。


​「……随分と威勢のいい音が聞こえると思えば、やはり貴様らだったか」

 

西澤が、菅野を横目に、退屈そうに呟く。


「岩本、菅野。お前たちの『令和の約束』とやら、俺たちも特等席で見せてもらうぞ。……もし不甲斐ない戦いをしたら、次は俺が相手だ」

​ 

坂井がニヤリと笑い、岩本の肩を叩いた。


「岩本、お前の『ひねり込み』が令和の空に通じるかどうか、楽しみだな。菅野の無鉄砲さをどう捌くか、じっくり拝ませてもらうよ」

​ 

聖地の空に、一九四五年の精鋭たちが次々と集結していく。

 

三四三空の荒鷲たちだけでなく、ラバウル、ソロモン、本土防空戦を戦い抜いた伝説たちが、一九九三年の夏、二人の「虎と獅子」の激突を心待ちにしていた。

​ 

外では、杉田や武藤たちが「おい、いよいよ始まるぞ!」と騒ぎ出し、聖地の空がにわかに騒がしくなり始めた――。

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2026年1月13日 21:00

外伝:空の彼方、その先の蒼穹へ 夜桜 @Yozakura27

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